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Kanaan  作者: や
1章 序戦
6/57

カナン戦1戦目

 英国に霊的な守りを自称する奴らはいっぱいいる。

 本当にいっぱいいる。

 なんなら英国の幽霊ガイド本とか作ってる。英国観光中、急に幽霊専門家が必要になったら? 本屋に走ればいい。この業界、競争が激しいうえに個人経営も多いから、幽霊退治一本では食っていけねぇ奴も多い。そういう奴が書いた本が、いっぱいある。

 頼った幽霊専門家が退治の不得意な奴だったら? 心配ない。こういう零細企業同士ってのは、ネットワークがあるもんだ。誰かしら紹介してもらえる。

 個人経営のコツは、収入口を複数持つこと、横のつながり、あとは矛盾するようだけど、競争の少ないとこで商売すること。うちの業界、最大手はヴァチカンだしな、もうそれ国じゃねぇかっていう。悪霊と悪魔は微妙に違うけど、普通の人間はそこまで見分けられないだろう。

 その点、うちは北アイルランドに本社があるから穴場だ。ロンドンより客は少ないけど、オカルト業界って意外と機材費用とかランニングコストかかるから、地代が安いってだけでダイレクトに依頼料に響く。浄霊、調査、退魔、除霊、物騒なとこで、憑霊や呪殺。オカルト業界の仕事は色々あるが、ロンドンみたいな大都会の依頼料と比べたら、うちは格安だ。

 しかも、カエサルがガリアって呼んだエリアくらいはカバーしてるから、ピザの宅配より使いやすい。宅配ピザより注文少ないけど。うちは退魔系、駆除業務に依頼が少ないってのは、ま、平和ってことだ。

 ただしここまで、ブレグジット前の話。


 今、英国オカルト業界はバブルだ。

 なんならヨーロッパ全土でバブルだ。

 ただし確実にはじける。

 ブレグジットが落ち着けば。


 気をつけてほしい。

 悪魔悪霊の類が、いかに世知に長けてるか。奴らは人間の不安を突いてくる。社会不安なんて奴らの生き餌だ、2008年から2009年にかけて、事故で自死で殺人で、奴らはたらふく命を食った。

 奴らはあたかも生きてるみたいに、優しい声でひとに近づく。

 銀行員の格好で、もしくは職業紹介所の社員証を首から下げて、はたまたケアワーカーのていをして。


 例えばホワイトタワーで日付もかわろうかって時間にデータ通信やりながら自己紹介なんかしてると、危ない。

 日付や年を跨ぐ時ってのは、いろんな境界が曖昧になるから、そもそも危ない。


 昨日もしくは今日になったばかりの今日、俺はビーフィーターにビジネスカードを差し出した。

 ビーフィーターは今時の若者らしく、スマホから顔もあげなかった。

 礼には欠けるが、送られたばかりのマリアの画像に見入ってたから、それは納得できた。

 むしろ大人しく画像に釘付けにされてる今が、関係構築のチャンスだと思った。


「あんたの予想通り、マリアの依頼で来た。ヴィクトリアお嬢様。

 俺はレヴィン・L・デュッセン。退魔社に勤めてる。マリアとは幼馴染みだ」


 差し出したのは、会社の名前と俺の名前と連絡先の載った、ソフトのテンプレ使いました感満載の、面白みのないビジネスカードだった。

 種も仕掛けもなかったが、ビーフィーターが『爆ぜろ』と言ったら俺の指先で爆散した。

 光と煙が眼を灼いた。


「あっっっっっっついわ!!! え、信じらんねぇ何すんの!?」


 俺の前髪はチリチリになった。

 ビーフィーターは爆風に煽られた帽子をなおした。


「知らないひとからものは受け取らない。小学生でも知ってるこったろおっさん」

「俺はまだ25だ、つーか今いま画像受け取ってんじゃねーか!」

「データなんて知らない奴同士で共有する時代だろ、受け取ったうちに入るかよ。インスタとかやってねぇの? おっさん」

「やってるよ! 俺昼の仕事はファッション関係だから! やってねぇはずねぇから! は? お前こそ情報教育どうなってんの」

「あ思い出した。あんた知ってるわ、売れないモデルのなんとか君だ、幼馴染みに粘着して新郎に嫉妬した挙句結婚式にこれ見よがしに青薔薇送って自分はパリのバーでモデル仲間に管巻いて暴力沙汰になったあんぽん」


 ビーフィーターは可哀想なものを見る目で俺を見て、せせら嗤った。








 今思えば。

 俺はこの時点で気付くべきだった。


 ビーフィーターが爆風に帽子をなおすわけながなかった。

 リアンは、ホワイトタワーに来た時点で、帽子を被っていなかったんだから。







 動揺した俺は、周りが暗くて良かったと思うくらい、真っ赤になった。と思う。


「何でバーの事まで知ってんだよ、ていうかなんとか君ってお前ちょっとお嬢様だからって、お前」

「なんだよナントカ君、言ってみろよ。



 お前は、

          な  二 ?」


 遠く、答えるなぁあああああ! と弦楽断末魔が、聞こえた。

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