表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Kanaan  作者: や
2章 本戦
49/66

前哨戦 三千世界の救いのなさを

「あれっ」


 つい声が出た。

 外には誰もいなかった。

 子どもも、踏み荒らされたスキァナン氏も、靴跡や足跡もない。

 人も鳥の声もないが、警戒していた異形(バリアント)もいない。

 は? と思ってぐるりを見たら、いた。

 ボンネットに立つ俺の視線、少し下。

 カールーフに、下あごを人間のかたちに歪めた、カーバンクルがいた。

 靴のサイズさえ予想できそうな程、はっきり、人の形をした、あごだ。

 カーバンクルの下あごの皮(?)はどうなってるんだ。

 カーバンクルの下あごで、人間のかたちはじたばた暴れ、「出せ! (Fワード)! (Fワード)てめぇも車ん中の(Fワード)も、皆殺しにしてやっかんなぁ!!」だみ声で怒鳴る。

 俺のあごはひきつってしゃくれた。あごがひきつるもんだって初めて知った。

 人間のかたちは、身長にして2フィート程度、おそらく子供、頭が大きく、頭身が低く、手足が細い。罵詈雑言を喚く声だけが、野太く、がらついて、とても子供とは思えない。

 ファイアが車上で戦っているとは聞いたが、こういう形だとは思っていなかった。戦法的にも、物理形状的にも。

 口の中(?)に暴れる人型を抱いて、ファイアが俺を見る。

 俺はすかさず「引いています」という顔をした。

 ファイアには何の表情もない。


 しかし、ファイアの中で何をどう感知したのか、人型はピタッと暴れるのをやめ、罵詈雑言をやめ、その声は、だみ声をやめた。


「そこに、だぇか、いゅの?」


俺は慄然とした。

 人型が吐き出したのは、声帯も喋る筋肉も未発達の、まごうことなき幼児の声だ。

 この変わり様。変わり身の早さ。こちらが無下にできない生き物を選択してなりすます狡知。

 EVILとかDEVILとかそういう単語が俺の脳内でスウィッシュする。

 ファイアのあごの人型は、十中八九、生きた幼児じゃない。


「ねぇ、たす、たしゅけ」


 ファイアは俺の目をじっと見据えたまま、んっ、と微小な伸縮をした。

 途端、わめく人型は腰から穴に落ちるように、もしくは腰から内部に吸い込まれるように、消えた。

 ちんまりしたカーバンクルだけが残った。

 人型は……どうなったのか、かみ砕かれたのか、飲み込まれたのか、妖精の世界にさらわれたのか、俺にはわからない。

 ただ、復活しそうな気配とか、まだそこにいそうな気配とか、ドッキリでしたとか、そういった空気も全然ない。

 ファイアの勝利だ。

 と思う。

 勝利だが。


(カーバンクルは。もしかして。ブラックホールなのかも知れない)


 俺はこの戦いが終わったら、妖精との共生とその社会的安全性について、本気でリアンと話し合おう、と決意した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ