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Kanaan  作者: や
1章 序戦
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置いていかない、側にいるよ

「イギリスといったらケルトだろ、でもケルトにも色々あって。

 神話上、アイルランドには5部族来たって言われてる。その辺はネットのが詳しい。とりあえず5部族全部、アイルランド島、当時はエリン島だな、そこに上陸したら戦わなきゃなかったのがフォモール族。一つ目巨人が有名だよ。悪の巨人だがこいつらもケルトって言われてる。つまりここまでで6部族のケルトが出てるな。ケルト結構なんでもありだ。ま、そこは神話だからな。


 問題は、神話のケルト。ダーナ神族。


 マリアだって聞いたことくらいあんだろ。そうそれ。うちの死んだ婆さんのよく言ってたやつ。トゥアハ・デ・ダナン。女神ダヌの眷属だよ。

 アイルランド神話では、4番目にアイルランド島に来たケルト、てことになってる。民俗学ではケルトより前の、ケルトより古い民族って説が有力だ。

 ダーナ神族はアイルランド神話の主だった神で、神話では、あくまで神話の上ではだけど、巨人で、魔法が使えて、でもケルトだからドルイドの魔法で、キリスト教に信仰が移るに従って小さくなった。いやサイズが。体長が。そんな医学的なこと言われてもしらねぇよ、これ神話だから。小さくなったダーナ神族、最後には妖精になるからな。

 ダーナ神族は最終的には今のアイルランド人の祖・ミレー族に負けた。で、島を譲って、海の彼方や地中、かの有名な常若の国(ティル・ナ・ノグ)や水底の妖精国家フィコンリーに逃れて楽しくやることにした。このミレー族ってのがマリアの祖で、唯一神話でも民俗学でも人間サイズだな。

 もうさ。巨人が小人になって妖精になってる時点で、ダーナ神族が人間だったかすら怪しい。

 とはいえアイルランド神話では、てところがミソだ。

 ミレー族・別名マイリージャ族は、民俗学上はアイルランドのケルトの最初、つまりゲール人だな。神話上では5番目にエリン上陸を果たしたケルト人。


 ただ、神話には色んな説があるもんで、地方によっても変わってくんだろ。俺らのアイルランド島ではさ、妖精になってティルナノグ行きがメジャーだけど、ブリテン島ではそうでもねーの。

 で、ブリテン島での話のひとつに、”ダーナ神族はみな、背に背に翼を生やし、楽園へと逃れた”てのがある。

 こっからが”俺ら”側のケルトの物語だ。


 何にでも例外はいる。

 翼の民族だって、飛べないドベはいたはずで、魔法使いにも魔法のうまくない奴はいた。

 俺が婆さんから聞いた話では、ブリテン島のダーナ神族は、ティルナノグ移住を決めた時、そういうドベの扱いで割れた。

 仲間割れとかいがみ合いじゃなくて、単純に、移住組と残留組に分かれたんだ。

 地上を他部族に譲るのは構わない、しかし楽園ではない地上に、ドベだけ置いて滅ぼされるのを怯え暮らして待てっつーのは残酷だ。

 翼を持つ幾人かは、移住組を見送って、飛べないドベと身を隠した。地上には、ダーナ神族が少しだけ残った。魔力の強いものが弱いものを守り、楽園でない地上で生きていこう。どうやって飛べるようになるか、魔力が伸びるか、一緒に考えて、いつかティルナノグで合流したらいいじゃん、てさ。

 ダーナ神族にはここで、翼のある奴とない奴って区別が生まれた。翼のある奴が、いずれ、全ダーナ神族に眠る魔法の力を引き出す方法を教えてくれるなり、面倒臭くなって力技でティルナノグにぶん投げてくれるなりすんじゃないか、ってことで、次第に翼のある奴は翼人って言われて尊崇されることになる。

 ここまで紀元前の話。


 そいつら地上に残ったダーナ神族が17世紀、ダヌバンディア一族となって突如、英国貴族界に現れる。

 17世紀の立身貴族なんて、社交界では新興も新興、嘲笑の種だ。21世紀の今でも。伝統の国ってそういうことだからさ。

 貴族ってのは建国に関わった武将とか、古い家系の奴が多いからな。ぽっと出のダヌバンディア、て400年前から言われてる。


 じゃ、なんで17世紀にいきなり貴族になれたかって。


 英国の霊的な脅威。


 それを生み出して、それを鎮めたからだ。

 自作自演? とんでもない。17世紀英国といったら魔女狩り旋風吹き荒れる宗教上の黒歴史時代だぜ。


 その時代に、悪霊カナンは生まれた。国教会ともカトリックとも宗教観が全然違う、ケルトの系譜の隠れ民族として。

 正確には、まだ16世紀だろうと思う。ケルトは口承の民族。正確な記録があるわけじゃない。この辺はうちも、口伝だからな。


 あとケルトの思想的特徴として有名なのは、輪廻転生。




 そして生贄。


 


 転生するから、生贄は悪いことってぇばっかでもなくてな。

 ”いつかティルナノグで合流したらいい”なんつー思考回路はそっからくるんだよ。何回死んだって、”そいつ”は”そいつ”なんだ。転変にして不変。死は通過点だから、なんの問題もない。


 だよなほんと、俺らの地元みたいだよ。誰なら死んで良くて、何人なら生かすべきかって、生贄ってのはつまりそういう発想。

 これも結局は400年続く(Fワード)な怨嗟の物語だ」


 

参考文献:

武部好伸(2010)『【改訂版】北アイルランド「ケルト」紀行』彩流社

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