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3-20 武器職人ギルド ”大鍛師” サラーサ・ヴェルナー


「――傀儡界雷(くぐつかいらい)


 薄い(くちびる)がそう口ずさむと、細腕で支える漆黒の大剣が赤黒く発光した。

 そして、黒い雷光が少女の幼い身体を走ったように見えた。


 次の瞬間――鋭く突き出されたサラーサ・ヴェルナーの(つち)柄頭(つかがしら)を黒剣が受ける。


「オラオラ行くぜぇ!」


 長い柄を巧みに利用し、彼女は棒術のように金槌(かなづち)を操る。

 狙うは少女の包帯まみれの四肢(しし)

 足を払って転ばせるか、小手(こて)を叩いて武器を落とすか。


「はっ、猪みたい、単調だね!」


 嵐のような棒術に対して、黒髪の少女も退()くことはしなかった。

 逆にサラーサの武器を吹っ飛ばしかねない勢いで、真っ向からガツガツと火花を散らしていく。


 大通りの攻防を道路脇から見るしかできない悠太は、気絶したモヒカン男を安静な状態に横たえた。


「凄ぇ……」


 目で追うのでやっとの数多(あまた)の乱打。


 中でもとりわけ異常なのが、ネピテル・ワイズチャーチの剣捌(けんさば)きである。

 悠太はそこが気になって仕方がなかった。


 一時街(いちじまち)で出会った黒いプードルのように筋骨隆々な身体ではない。

 ライチの槍やサラーサの大槌のように長物(ながもの)を両手で扱っているわけでもない。

 どう考えても少女の細腕では持つことすら難しい大剣を、彼女は高速で、しかも時折片腕で操っている。


 ――得てしてゲームの世界では、少年少女が巨大な得物(えもの)(たずさ)えていたりする。

 それはその世界の物理法則上は可能で、そういう設定なのだと言われればそこまでの話である。


 現に悠太も、このエルナインでは元の世界では考えられなかった動きをできている。


 ただ、無骨な大剣と少女の体格はあまりにもアンバランスで、痛々しい包帯がどうしても無理矢理、無茶苦茶といった言葉を連想させる。

 どうしてもその点が、気になったのである。


「……ちっ」


 文字通り息を吐かせぬ応酬(おうしゅう)、先に音を上げたのはバンダナを巻いた女性であった。

 飛び退くと同時に金鎚の頭を振るい、遠心力に任せた横薙ぎを繰り出す。


 ネピテルは静電気のようなバチンという音を立てて、追撃しつつあった剣を防御に回した。

 カァンと弾きあって、距離ができる。


「お前、やっぱその反応速度……」


 言いかけたサラーサに、少し苛ついた様子のネピテルは呟いた。


「いいの? 距離取っちゃって、中距離なら大丈夫と思った?」


 ――『円環渦雷(えんかんうずらい)』と、三日月のような笑みが命じた。


御技(みわざ)……二つ目か!」


 漆黒の大剣が黒い雷を放電し始め、枯れ木の枝のように伸びた稲光(いなびかり)ごとぐるんと振り回される。


 すると大通りに、轟雷(ごうらい)の竜巻が(そびえ)え立った。


 極太の竜巻は、サラーサを()み込むべく迫る。

 彼女の後ろ姿は、金槌を振り上げ、石畳に叩きつけて叫んだ。


「甘ぇよ――『岩障壁(がんしょうへき)』!」


 サラーサを中心に橙色(大地)粒子(マナ)が大通りに染みわたる。

 地面を揺らして何本もの岩の槍が突き出すと、雷の竜巻をかき消した。


 スケールの違う攻防。

 そして魔導具同士の攻防。


 互角に見えたやり取りが、実はそうでもなかったと露呈(ろてい)したのは、金髪の彼女が漏らした悪態(あくたい)からであった。


「あー……詰んだ」


 彼女はどういうわけか、武器の金槌を手放し、ネピテルの前に踊り出た。


「マジ欲しいわそれ。流石()()()()()()……破格の性能ってわけだ」


 サラーサの手は、ネピテルが悠太たちの方向に()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()


「はいしゅーりょー。()()()()


 そして、その手へとバチリと黒雷が走ると……サラーサの腕はまるでロボットダンスのようにカクつきながら広げられ、最後にはなんと頭の上で手を組んだ。


 直立不動で腹を(さら)け出す。

 それは、完全なる降伏の体勢であった。


「守るものがあって大変だね、ギルマスさんは」


 もはや余裕すら見せて、ネピテルはサラーサを見上げた。


「まぁな。すねて自棄(やけ)になって、つけ入られてることにも気づかないお子様と違って、責任てのがあるからな」


「馬鹿にしてるの?」


「哀れんでんだよ。五年前の話は同情するが、それでも少しは……」


「大人を信じろって?」


 ぎろりと睨んで、少女の張り手がサラーサの(ほお)を叩いた。


「ふざけるな! ボク達を利用して(おとしい)れたのはお前ら大人だろ!

 もう(だま)されない! ボクは必ず『力』を手に入れて、あいつらを滅ぼす!

 その日まで、この剣を手放すつもりはない!」


「だからよ、そうじゃなくて……」


「もういいや」


 言いかけた彼女の前で、ネピテルは堂々と大剣を振りかぶった。


「やめろ!」


 と悠太が叫んでも、それでも、彼女は(いびつ)に笑った。

 なぜか防御すら取ろうとしないサラーサの腹部に、大剣の横っ面が叩き込まれる。


 赤いバンダナが宙に舞った。


 サラーサは悠太のすぐ傍の民家にまで吹っ飛ばされ、石壁に叩きつけられた。


「がはっ」


 血を吐いてずり落ちる彼女に、悠太はヒールをかけるべくステータス画面を浮かべた。

 腕で制され、集歌を止められた。


「……げほ、けけ、逃げてねぇんだから、大した度胸(どきょう)だ」


 ゼェゼェと苦しそうにしながらも不敵に笑うサラーサに、悠太は嫌な予感を覚えた。

 予感は外れることなく、サラーサは(ふところ)から出した(わし)の紋のあるメダルを押し付けた。


「お前も冒険者目指してんだろ? これくれてやるよ。その代わりだ……けけけ」


 もはや覚悟を決めざるを得なかった。


「女の子を守るのは男の役目だよなぁ」


「……えと、あなたは女の子って歳じゃ……」


 緊張の最中にかましたボケは、ふるふると揺られた金髪に否定された。


「違ぇよ、あっちにいるだろうがよ、今にも壊れそうな女の子が」


 示された方向に視線を送り、声が漏れた。

 そこには大剣を突き立て、武骨な刀身に(すが)るように身を支えながら悠太を睨む金色の双眸(そうぼう)があった。

 今の今まで軽々と大剣を振っていたというのに、肩はゼエゼエと息を上げている。


「寄越せ……そいつを倒したのはボクだ。ボクのメダルだ」


 寄越せというのなら、さっきの素早い動きで奪いに来ればいい。

 それをしないのは消耗しているからであろうか。

 スタミナ面はわからないが、ネピテルが攻撃を食らっている様子はなかった。


「あの武器だ。あれが、使い手の身体を(むしば)んでやがる。

 で、あのガキもそれをわかってて身を預けてやがる。

 ――『魔王(まおう)大剣(たいけん)』。

 五年前、北の諸国とドンパチやったサタンって魔王の角から打たれた魔剣だ」


「……魔王の、剣」


 溜め息が出る。

 本当に、ゲームに出てくるような代物が次々に出てくる世界である。


 出てくるのはまあいい、慣れた。

 ただし順序は意識してほしい。

 少なくとも、魔王の剣はギルドにすら所属できていない駆け出しが相手にしていい代物(しろもの)ではないであろう。


「てなわけだ、勝て」


 無茶振りここに極まれり。

 山田悠太は、ネピテル・ワイズチャーチに対峙した。


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