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3-10 開幕! カージョナギルド入団祭!


 ――参加者の動きは二分された。


 大通りに残って得物(えもの)を構える者と、大通りを去って態勢を整えようとする者。


 悠太は後者であった。

 というのも、すぐ近くにいた二人が強気に前者の動きを選んだからである。

 ピンク髪のサキュバス女と鋭い眼光の藍色(あいいろ)のプードル男が、獰猛(どうもう)な殺気を向ける。


「あら、君ヤってかないの?」


「やはり軟弱者か」


 そう言った次の瞬間には、大太刀と下僕男の拳がぶつかり合っていた。

 ビリビリと(ひび)く衝撃に、自分の判断の正しさを確信した。


「まずは落ち着いたところで色々整理しないと……」


 この乱痴気騒(らんちきさわ)ぎ目当てで集まっていた彼らと違い、悠太は普通の手続きを想定していた為、頭はまだ混乱気味である。


 フィールドは街全体という破格の自由度。

 路地裏にでも逃げ込んで、身の振り方を考えたかった。

 だから人の少ない方向へと逃げたつもりだったが……どうもまだその辺の判断は戦闘慣れしていなかった。


「んだぁ? 最初の獲物(えもの)はガキかよぉ」


 モヒカン頭に気怠そうな声、先程のチンピラがダンビラを舐めて立っている。

 さっきもナイフを舐めていた気がする。


「なるほどヤバい奴の近くだから人が少ないわけね!?」


「まあいいぜぇ前途(ぜんと)あるガキは嫌いなんでなぁ、この『バッドナイフのカンザイ様』が引導(いんどう)渡してやるよぉ」


 ゆらりと身体を前かがみに、変な通り名があるらしいモヒカン男は獣のように迫って来る。


「マジか!? ち、ちょっと待って」


 足を止めた悠太はというと、言葉とは裏腹に存外(ぞんがい)冷静であった。

 少し拍子抜けをしていたかも知れない。


 駆けてくるモヒカン男の動きは、ゴブリンのように直線的で、ウルフより遅い。

 バットのような死角からの奇襲もなさそうである。

 そして、大蔦豚(バビルーザ)のような絶望感が全くなかった。


「……画面は、不味いよな」


 悠太はゲームの主人公よろしく「ステータス・オープン」と念じることで、ステータス画面を浮かべることができる。


 そのステータス画面は、世界の理を無視するものである。

 少年にしか見えず、しかしそこに存在し、どんな攻撃にも傷つかない光の板。

 板は必ず(かざ)した手の平から一定の位置に現れる――その位置に既に存在するものを壊してでも。


 つまり破壊能力を持つ。

 己の命を守るため、悩める村を救うため、悠太は少なくない魔物をこの能力を使って(ほうむ)ってきた。


 さて、この魔物たちに叩き込んだような容赦ない攻撃についてだが、人に向けるなど(もっ)ての(ほか)である。

 一応定められているらしい「殺しをしない」という入団祭のルールにも反する。


 防御に使うくらいはしてもよさそうだが、それにしても奥の手として残しておきたかった。

 だから悠太は、なるべくステータス画面を使わないと、ひとまず心に決めた。


 そうなると頼りにできるのは、両手に装備した黒皮の篭手(こて)である。

 悠太がカペル村の村長から貰った初めての装備――『大蔦豚(おおつたぶた)篭手(こて)』。


「ボーっとしてんなよなぁ!」


 色々思案(しあん)し終える頃には、ようやく男がダンビラを振り被っていて、何の捻りもない袈裟斬(けさぎ)りが来る。

 刃物を向けられても、やはり恐怖はない。

 魔物との闘いの経験値は確実に活きている。


 見切って幅広の刀身に篭手を当てる。

 伝わってくる相手の腕力は何とか耐えうるものであった。

 勢いに逆らわずに()らし、受け流し、踏み込んで背後へと抜ける。

 なにか男のもう片腕が妙な動きをしたようだが、一足で距離を取ったのでわからなかった。


 遠巻きに観戦する野次馬から、何故か感嘆の声が上がる。


「あいつ、あのバッドナイフのナイフ(さば)きを抜けただと!?」


 野次馬たちは酷く驚いたような様子で、見ると男はダンビラから手を放し、握っていたその手には逆手にナイフを(たずさ)えていた。

 男は困惑気味に振り返り、歯噛みする。


「あぁん? ちょこまかと逃げ足だけは達者かぁ?」


 言いながらダンビラを拾い上げる。

 多分、あの目立つダンビラや大振りはフェイクで、ナイフによる本命の一撃があったのであろう。


「だからバットナイフか……種明かしの部分を通り名にするのってどうなの?」


 とりあえず、彼の必勝スタイルは超接近戦であろうことは推測できた。

 だから有効なのは中遠距離からの攻撃、もしくは四肢の自由を奪ってからの攻撃である。

 幸いにも装備している篭手には、その(たぐい)の技が搭載(とうさい)されていた。


「すまし顔してんじゃねぇ、ぶった斬ってやるよぉ!」


「いや悪い、今度はこっちの技使わせてもらう」


 再び突進してくる男に拳を向けながら腰を落とす。

 そして、緑の光を宿す篭手の魔導具へと叫んだ。


「ええと確か技名(わざな)は――『四蔦縛(しちょうばく)』!」


 黒い表面に入った緑のラインから緑光が溢れ出し、紐状(ひもじょう)に形を作ると四本のツタとなって迫る男に飛び出した。

 悠太を舐めていた(ふし)のある男は全く予期していなかったらしく、いとも簡単に四肢をツタに捕らわれる。


「なんだテメェ、これ……」


 先日のライチの時と同様、ツタは伸縮し、防御もままならない敵を悠太の前に引き寄せる。


 ――(むさぼ)らんでいい。


 生前の意思が残るらしい魔導具、その主張が脳裏に響いた。

 どうも貪る対象は吟味をするらしい。

 とにかく、ライチの時は戦闘ではなかった為、妙に破廉恥な形になってしまったが、今ははっきりと技の使い方がわかる。


「行くぞ!」


「ちょ、待て!」


 引き寄せて、殴る。

 それが『四蔦縛』、ひいては大蔦豚の篭手の使い方であった。

 一応すぐに『治癒(ヒール)』をかけることを念頭に置くも、正直いけ好かなかったのであんまり手加減はしなかった。


 ドッと拳を腹に打ち付け、振り抜く。


 断末魔。

 ツタをぶっちぎって気持ちの良いくらいに吹っ飛んだ男は、(たる)の山に突っ込んで白目を向いて沈黙した。


「……バッドナイフが……」


 そんな誰かの呟きが沈黙を破って、歓声の大騒ぎになった。


「ざまあみろ! あのモヒカンに俺ぁ八つ当たりに殴られたんだ!」


「うちだって酒代何年もつけにされてたんだ! いいぞ兄ちゃん!」


「それにしてもあのガキ、魔導具持ちか……」


「見ない顔だな、ガキよくやった!」


 なかなかの心地よい(はや)し立てであったが、悠太はその中からもいくつか敵意を(はら)んだ参加者の眼差しが送られていることに気付いていた。


 ――再び視線が合ったのは、先程バッドナイフの(かたわ)らに(たたず)んでいた金色の眼の少女であった。

 コウモリが付いているあたり、冒険者志望のようである。

 少女はふいと視線を逸らし、布で包んだやけに大きい荷物を引きずって人込みへと消えていった。


 何となく追いかけたい気持ちはあったが、伸びてしまったバッドナイフの身体も心配であった。

 木の集歌(治癒の準備)を口ずさみながら近寄ると、横からやんわりと手で制される。


「あの、お優しいんですね」


 説明の際にシャチと呼ばれていたおかっぱの女性が、自信なさそうに見上げていた。

 驚いたのはその気配のなさである。


「おわぁ!?」


「ひうっ!?」


 驚きに驚きで返される。

 

「いやあの、えっとあのあの……あの気絶しちゃった人は、だだ、大丈夫、です。

 あ、あなた様は、お祭りに専念して、ください」


 どもりながら言う彼女は、あわあわと両手でバッドナイフを示した。


 何なんだと視線を追わせると、丁度、気絶した彼の上を飛ぶコウモリが「ギィ」と鳴いた。

 するとその小さな身体は緑色に(はじ)け、白目を剥くモヒカンの男に降り注ぐ。


「こ、『蝙蝠(こうもり)洞杯(どうはい)』のコウモリさんは、付いた対象が戦闘不能になると弾けて『治癒(ヒール)』をかけてくれるんです……安心安全ですね!」


 急にテンションを上げて製品紹介をする彼女の先。

 気絶はしたままの男から、メダルを拾い上げるオレンジ髪の少年がいた。

 悠太から見てもまだ子供である彼は、小柄な体格に不釣り合いな丸いサングラスを直して言う。


「そうそう、安心安全、大事なことです。

 でも、そういうぬるま湯に浸かってるギルドからでさえ人員奪えないんじゃ、()()()()()()も全然駄目駄目なんですよねー」


 腕やら胴がたるんだぶかぶかの服、七分丈のズボン。

 コウモリは付いていないようである。


「さて、拾いもん見っけ、です。貰ってきますねー」


 物凄く気軽な調子でそう言うと、少年は軽やかな足取りで民家の屋根に登り、手を振って去った。

 呆気に取られていた脳が、しばらくしてからメダルを持ち去られたことを自覚する。


「……ああいう場合、どうなります?」


「え、あの……取り返さないと、いけないと思います」


 呑気に見送っている場合ではないようである。


用語辞解説

・蝙蝠の洞杯

大霊峰エルウェッジに住まう千軍蝙蝠の巨眼から作られた魔導具。

御技は以下の三つが確認されている。

尖兵蝙蝠を生み出し視覚共有を行う「千羽尖兵」。

軍隊蝙蝠を生み出し戦闘をさせる「百羽空兵」。

精鋭蝙蝠を生み出し敵を殲滅する「三羽軍神」。

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