第91話 2人の距離は1
夜も更けた頃、辺りは鈴を転がしたような虫の羽音が鳴っている。
サリエル達は、崖下に見つけた洞窟の中にいた。
蔓と枝で作った洗濯竿に、近くの湖で洗った泥や返り血で汚れてしまったサリエルの制服を、焚いた火の側で乾かしている。
その間、サリエルはフランツの白シャツを貸して貰ったが、ミニ丈のワンピースのようになってしまったので、膝上からブレザーの上着もかけてくれた。
足を閉じて、膝を抱え込んで座っていると、外で救援信号を設置して来たフランツが
戻ってきた。
「そのうち捜索隊が来るだろう。
…僕は空を飛ぶ魔法が得意では無いからね。
すまないが、今夜は我慢してくれ。
運が良ければすぐに見つけてくれる」
「…。」
合流した時には気付かなかったけれど、上半身の服を脱いだフランツの身体には、包帯が腹部から右肩にかけて巻いてある。
その包帯を巻いてある内側から微かに血が滲んでいる箇所を、じっと見て居るサリエルに、フランツは首を傾げて問いかけた。
「どうした?」
「その傷は…」
「ぁあ、大した事はない。
少し傷口が開いただけだ」
焚き火に小枝をくべながらそう言うフランツの横顔に、目を細めた。
「何故、ここに居るのですか?
それにあの血痕の跡は…」
「学園が、何者かに襲撃された。」
火の揺れる様を眺めている彼が何を考えているのか、サリエルは計り兼ねていた。
実は学園に入学してから、フランツと会う事は一度もなく、だからこそ現在考えている事が分からないのだ。
今のフランツが以前と変わりないままなのか
それとも…
「ラドレス公爵率いる王国軍直属部隊は、
学園に直ぐさま駆けつけたんだ。
でも何の手を使われたのか、騎士達が発動した魔法を無効化される事態になった。
それで思いの外時間を食うことになり、消えた校舎については手が回らなかったんだ。
だから…」
「…?」
「ー…うん、まぁ」
そう言ったお兄様は、何を思い出しているのか微かに苦笑しているように見える。
「??」
「……会いたくて来たんだ。
サリエルに」
「……え?…と」
私に会いたいから、孤島まで…来た、と…?
いや、どうやって、何の為に?
わざわざそんな事をするメリットがお兄様にはないわ。
もしかして話をそらされた?
お兄様…昔から天然なところがあると思っていたのだけれど……
話がまるっと飛び過ぎて、わからなかったわ…。
「夜も更けた。
話は明日にして、もう寝よう」




