第89話 幼馴染8
アーサー殿下が出て行ったすぐ後、メリルとバルダロス伯爵令嬢と休憩がてら歓談して待っている事になったが、俺は内心ソワソワしていた。
モルキンス男爵令息とサリエルが抜け出してから、ただの休憩にしては少し長くないだろうか。
(……それにしても、あの令息、何処かで見た事が…)
そう言えば、アーサー殿下とたまに話しているところを見かけた気がする。
何となくだけど、そこまで考えて、また嫌な予感がした。
『アーサー殿下の婚約者に…』
(こんな時にどうして父様の言葉なんか思い出すんだ)
そうこうしているうちに、バルダロス伯爵令嬢はメリルに棘のある言葉を投げつけた。
その内容がサリエルの評判に関わってしまう物だっただけに、強めの口調で諌めると、バルダロス伯爵令嬢は会場から出て行った。
だがこときの俺は、目の前で起きている事よりも、帰ってこないサリエルが非常に気になっていたのでメリルへの気遣いなど忘れて、俺も会場を後にした。
「何処に居るんだ…」
俺の呟きに、暫くしてからレイが返事をしてくれた。
「精霊達の話では噴水広場で見かけたと」
噴水広場まで足を進めると、バルダロス伯爵令嬢が凄い勢いで突進してきた。
彼女は俺にしがみ付いて何か言いたげにしている。
構って居る余裕は無いのだけど…
だけど、俺の中のレイが言う。
「彼女、サリエル様に対する思念が伝わってきます。会ったのでしょうか?」
そう言われて、向き直って話しかけた。
「サリー…サリエルを知りませんか?」
そう声をかけると、バルダロス伯爵令嬢は、俺にしがみついたまま、涙声でこう切り出した。
「お労しいラウル様…」
俺は思わず数歩後退りして、距離を取ろうと試みたけれど、それでも前のめりになってしがみ付いてくる。
「……ちゃんと話してもらえませんか?」
実は、俺は女性が基本的に苦手だった。
たまにベタベタと触ろうとしてくる令嬢がいるけど、あまり知りもしない人に気安く触られたくないというのが、人情ではないだろうか。
「私、見たのです。
王太子殿下が、ラウル様の婚約者様と居る所をこの目で」
涙ながらにそう訴えるバルダロス伯爵令嬢が嘘を言っていない事が、俺にはわかる。
彼女は続けた。
「ラウル様と言うものがありながら
彼女は王太子殿下に求婚される仲になっていました。なんて浅ましくて、恥知らずなのでしょうか…
私ならばそんな事は絶対にしませんのに……」




