第85話 幼馴染4
あの後図書室にもサリエルが来なくなって、朝のひと時すら無くなるかもと危惧したけれど、サリエルはちゃんと居た。
その事に胸を撫で下ろして、俺は何事も無かったように話しかけた。
初めは少し戸惑いを見せていた物の、サリエルも触れて欲しく無かったのか何事も無かったように返事を返してくる。
それから図書室には毎日のように行くようになった。
レイは凄く苦労した事だろう。
命令により必ず俺を起こさなければならなかったのだから。
♢♢
「ラウル、貴様の婚約者をどうにかしろ!」
ーーある日、クラスメイトであるジルヴァンが総合特選科校舎の廊下でそう言った。
彼は俺に…と言うより、他人に対して結構反発的な態度を取るけれど、悪い奴でもないと思っている。
言葉は乱暴だけど。
だけど、ちょっと、今の発言はサリエルを糾弾しようとしているようで聞き捨てならない。
「サリーの事か?
ジルヴァンに何かしたの?」
「俺様じゃない!
メリルがあいつから虐めを受けている。
おまえと仲の良いメリルに嫉妬して虐めて居るんだよ!」
「虐め?サリーが?何でメリルに嫉妬?
意味がわからないが」
眉をひそめる俺を、ジルヴァンは胸倉を掴んで睨みつけた。
「俺様が見たんだよ!
虫入りの靴箱も、切り裂かれた教科書も、あいつは何時も大丈夫と言うけどな、そんな訳が無いだろう!」
「それをサリーがやったと言う証拠はあるのか?」
「だから、俺様が見たんだよ!!
屋上で寄ってたかってメリルを痛めつけようとして居る現場を。あいつは離れた場所で高みの見物をしていたよ!」
「やめてジル!
ラウルだって、あのラドレス公爵のご令嬢に逆らう訳にはいかないの。
わかってるでしょ?」
そう言って俺を庇おうとするメリルの言葉は、何か違和感を感じる物があったけど、この状態のジルヴァンが言う事を聞くのはメリルしかいないだけに、口をつぐんで2人を見据えた。
無言で見ていると、メリルは頷いて、人の良さそうな顔で微笑む。
「大丈夫だからね、ラウル」
「…メリル」
「私は、大丈夫だから」
「…。サリーじゃ無い。
これは、信じてくれ」
その時、一瞬目を見張ったメリルを
視線を逸らしていた俺は気付かなかった。
俺の言葉に反応したのは、やはりジルヴァンだった。
「貴様…、まだそんな事をほざくか。
そんなに婚約者が大切か?
己の正義を曲げても……そんな意気地のない奴だったとは見損なったぞ!」
…婚約者が大切かって…大切に決まっているだろう。生涯の伴侶だぞ?
ーーだけどそう言ったら、尚更
加熱して、大事になりそうだな。
皆が何事かと、こちらに注目している中で、あまり騒ぎにしたく無い。
サリエルの名も出している事だし、噂好きの輩に、あっと言う間に有る事無い事広められてもかなわない。
(とにかく、この状態のジルヴァンはメリルに任せるに限るな)
俺は足早にその場から離れて行った。
その背を見ているメリルの視線に気付かずに。




