第8話 兄 フランツ⑤
「約束しなさい、サリー、
少なくとも、フランツと一緒にお出掛けなんかしてみなさい。
貴方を危ない目に遭わせたと
フランツに罰を与えるわよ」
先程の食堂での会話が聞こえていたのね…しかし、そもそもお出かけなどは私からねだったものだ。
それなのにフランツお兄様に罰なんて…
私が兄の周りにまとわりつくと、母の怒りの矛先が、兄に向いてしまうかもそれない。
「……っ
わ、わかりました、お母様」
まだ6歳の柔らかな肌に、
指が食い込んで行く。
「フランツお兄様とのお出掛けはしません。
だから、罰なんて言わないで」
感情的になってしまったリリアスには人の言葉など入っては来ない。
リリアスの表情を見ると肩に食い込む指のように、心にも何か深い傷が食い込んで行くようだった。
コンコンー
部屋の扉がノックされ、ポールが扉の外から呼びかける。
「お話し中失礼致します。
サリエルお嬢様にお客様です。
ラウル・ベジスミン様がお見えになっております」
その呼びかけに、リリアスは我に返り、肩に入れられた力が抜けた。
「いい、サリー、
母の言う事を聴きなさい。そうすれば貴方は幸せになれる。私は今から出掛けるけれど、
くれぐれも、忠告は守るのよ」
それだけ言い残して、足早に去っていくリリアスに、力がぬけて、サリエルはソファーの背もたれにもたれかかり、肩に残る痛みを感じながら
天井を仰ぎ、ボンヤリと見つめる。