第76話 孤島5
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(私、人を斬ったのね…)
両の手を見つめて、昔ラウルと巻き込まれた花祭りでの事件を思い出す。
あの時は、少しでも人を傷つける事が怖くて、短剣を持つ手が震えていた。
(それなのに、今の私はあんなに沢山の人を斬っても…実感がわかない。
それどころか、何も感じない。
これも、悪役令嬢に近付いたという事なのかしら?
ヒロインならあり得ない事ね)
サリエルは、両手を固く握りしめた。
木々の騒めきが耳に響いて、目を細めて海を見る。
それからゆっくりと、辺りを見渡すと足跡が無数にある事に気が付いた。
それは森林の中へと続いている。
(誰かが、一緒にいた?)
他に手がかりもなく、立ち上がってその足跡を辿っていくと、その足跡と共に血痕が所々に散っている。
(傷を負っているの?)
警戒しながらも、その跡を辿るように足を進めていると、キラリと光る物が、絡まり合った蔦の中にあるのを見つけた。
そっと、光っている物に手を伸ばして、それを拾い上げて手の平に乗せる。
「これ……」
それは、藤紫色のブローチだった。
(まさか…)
慎重に、足跡をたどっていた事を忘れたかのように進む足を早めて、小走りになる。
足跡が途切れた場所からは進むのも戸惑うくらい、藪枯らしのような植物が生い茂り、鬱蒼と生い茂る蔦が、足に絡みついたけれど、何とか引き剥がしながらも進んだ。
その先に見えたのは、クレーターが出来たように地面がポッカリとへこんでおりその一面だけ、景色が抜け出たように蔦も木々も、草もない。
その中心で土を被って横たわっている人影
サリエルにはそれが誰だか、一目でわかった。
先程拾ったブローチの持ち主であるー…
「ー…フランツ お兄様」




