第74話 孤島3
サリエルは脳裏に、ある人物の後ろ姿を思い浮かべた。
王国軍総司令官である父バージェス・ミューラが、この事態に何もしない訳がない。
(私に今、出来る事…)
(ー…)
一体男達が何者なのかが分からないままだけれど。
サリエルに触ろうとした男の手を咄嗟にかわして裏拳を頬に打ち込み、次にマリエッタに迫る男の足を身を屈めて回し蹴りで引っ掛けて、盛大に転ばせる。
震えて身動きの取れないマリエッタと窓際の壁を背にする。
思いがけない事だったのか、裏拳を打ち込まれた男は後ろによろけて、尻餅をついた。
しかし周囲にいた男達はサリエルの周りを囲い始めた。
数人がかりでサリエルを取り押さえようと手を伸ばしてくる。
サリエルは一旦しゃがみ込んで男達の視界から消ると、刹那の速さでナイフを逆手に振り切った。
ヒュイン
伸ばした手に、斬り込みを入れられた男達は、傷口から流れ出す血液に驚き、それぞれに手を抱えてのたうち回っているようだ。
それもそのはず、相手の命を奪うならばともかく、無闇に深く斬ると相手は神経が麻痺して痛みを感じず、直ぐに活動停止をしない恐れがある為
あえて傷口が生々しく見えるように、かつ、痛みを感じるように肉一枚を斬るようにしたのだから。
サリエルは注意を引き付けた後、
マリエッタを巻き込まないように応戦しようと剣をぬいた男達を躱しながら教室の中央へと躍り出る。
両手に持ったナイフを構えると、近寄って来ようとする者から目に止まらない早さで斬り込みを入れていく。
「この女…っ、、何処に隠し持ってやがった?」
「こういう場合、1人くらいは殺してもいんだっけか?」
「おいおい、勘弁してくれ
こんな狭い空間で銃は使えないし…」
相手の動揺を見つめながら、頬から汗がつたい、地面にポトリと落ちる。
(このまま後、どのくらい時間を稼げるか…
私が、時間を稼ぐ事が出来たなら
絶対に 来る)
「魔力が有る者は居ないんじゃなかったか?その為にこんな面倒くさいことしたんだろ??」
「…平民…では無いな、どっかの令嬢か?
あんな令嬢がいるとは聞いていないぞ」
動揺が男達の間に流れている最中、一旦距離を取られたサリエルと、それを囲っている男達の間に沈黙が流れた。
その合間から、へたり込んで呆然とこちらを見つめる生徒がチラホラと見える。




