第71話 4人目の攻略対象者2ジルヴァンside
その横顔からチラリと見えた褐色の肌に、あの時の女だと確信を得た時だった。
フードの隙間から灰色の小動物がヒョコリと顔を出して、ジルヴァンの顔を覗き込むように肩によじ登り、首を傾げる。
「きゅう?」
「…出て来るな、
すっこんでろ。」
黒い手袋越しにその生き物を押さえつけて引っ込めた後に
視線を戻した時にはあの女の姿は消えていて、代わりに見慣れた桃色髪の少女がこちらに駆けてくる姿が目に入る。
「ジル~!
先に行ってたなんて思わなかったよぉ、一緒に買いに行こうって言ったのに!」
拗ねたようにそう言った少女はメリル・フィンリアと言って、クラスメイトで唯一心許せる相手だ。
「そんなに俺様と居たかったのか?」
間近に顔を寄せてそう問いかければ
メリルは真っ赤になる。そうしてからかうのが最近の俺様の楽しみだ。
何ともからかいがあるからな。
多分、クラスの大半、アーサーやラウルも含めた一癖も二癖もある連中ですら何となくメリルには心を許している。
恋愛感情という物をこいつに持っているかは分からないが、
こいつを守らなくてはと何かが俺様を駆り立てる。
分かっているのはメリルはある意味俺様と〝同じ〟だったからこそ
入学してからその存在を目で追っていたし、話しかけられるのも不快では無かった。
王家の楔に繋がれて監視され、まるで家畜のようなその様に、嘲りを潜ませ皮肉る貴族達に取り巻かれている俺様と
殆ど違えぬ状況にいるメリルを見てそれが如何なものかを客観視する程に、腹が立った。
俺様は、元々嫌いな物が多い。
この世の大半は嫌いな物で埋め尽くされている。
俺様に恐れを抱きながらも媚を売り取り入ろうとする貴族や愚民共。
クソの役にも立たない癖に有能なフリをする王侯貴族。
外見の美醜のみで何も知らずはしゃぎ立てるうざったい女共。
そして 光の魔力を持つ王家。
俺様の一族は陰で王家の飼犬と言われている。
服従を誓った訳でも何でもないのにだ。
いや、だからこそなのか。
それもこれも、俺様の胸に生まれて直ぐに刻まれた忌々しい王家の紋章を型どった刻印のせいだ。
胸に刻まれたその刻印は、王家の者が命ずれば俺様をいつでもいたぶり殺せるという奴隷と変わらぬその証。
闇と対なす光の魔力に絡め取られ縛られている。
対局に位置し、甲乙付けがたい魔力の均衡を崩したのは
俺様がこの世で1番嫌い…
…いや……憎んでいる存在
120年前に現れた初代ラドレス公爵だった。




