第70話 4人目の攻略対象者1ジルヴァンside
俺様の名はジルヴァン・モルスト
俺様は特別な存在だ。
故に魔道士だと言うのに、王家に魔法の使用を禁じられているし、そんな俺様に畏怖、または奇異な視線を向けてくる者は多い。
それは俺の使う魔法の大半が生贄が必要であると言うのが主な原因だ。
誰も俺様を理解出来ないし、されようとも思わない。
この世界は嫌いな物で溢れている。
何の能力もない癖にお高くとまった貴族
この黒髪を奇異な目でジロジロ見てくる愚民共
要するに、人間が嫌いだ。
そんな俺様がダンスパーティーなんかという気持ちもあるが、義務だと思えば諦めも付いてきた。
相手が誰とか何とか、どうでも良すぎて
ペアの名前も忘れた。
適当にあしらっていたから、どんな会話をしていたのか覚えていないが、急に目前の女の雰囲気が変わった所から覚えている。
「貴方が所持する闇の魔力は、
魔法を発動する際に必ず対価や生贄を必要とする。
故に、その姿を見ただけでも顔をしかめる者も少なからずいたでしょう…。」
「貴様…
何が言いたい?」
「…そんな貴方が、
人の側面のみで差別をするのですね。」
褐色の肌に赤茶色の瞳をしたその女は、畏怖でもなく、奇異な視線でもなく、蔑みでもなく。
ただ諭すようにそう言った。
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ーーーーー
あのダンスパーティーから数日たった頃、俺様はフードを深く被り、街へと買い物に来ていた。
訪れた店の名はラディッシュ薬草店といって、此処は品揃えが豊富で町民も訪れるし、王宮からも発注を受けているらしい。
城下町の商店街通りの一角に構えられている立地の良さもあり、店の外は兎に角、ゴミ共がガヤガヤと往来していて鬱陶しい。
とはいえ今度授業の実習で、俺様は薬草担当となり、必要な薬草が珍しい薬草のため此処に来る他なかった。
仕方がないので諦めて来たが案の定、祝日という事もあってか店の外に出るのが億劫なくらい人がいる事が、店の中でもショーウィンドウ越しにわかる。
会計を済ませてさっさと帰ろうと店を出た。
人混みを前に、フードを深く被っている事を今一度確認してから歩き出し、
少し俯きながらも目の前の人混みをぼんやりと眺めていると、
視界の隅に
見た事のある人影を捉えた。
(…まさかな、よくある髪色だ。)
赤茶髪の後ろ姿を見て、ふと、先日のダンスパーティーを思い出したが、すぐに〝まさかな〟と考えを振り払った。
(まぁもし、この間の女だったとしても、それが何だと言う感じだな)
珍しく人の顔を覚えていた自分に少々驚いたが、それだけだ。
いや、人の顔というかー…
『そんな貴方が、人の側面のみを見て差別するのですね』
脳裏によぎったのは、女の言葉だ。
(ー…。)
人垣を挟んで向こうに見えるその女は誰かを探すようにキョロキョロと視線を彷徨わせている。




