第69話 婚約と婚約破棄の予兆?15メリルside
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賑やかなダンスパーティー会場の隅にあるソファーに、ポツンと座っている桃色髪の少女は辺りを見渡し、呟いた。
「おかしい。
攻略対象者が居ないなんてことあるの?」
何故こんな状況になっているかというと、
バルダロス伯爵令嬢が会場を後にして少し時が経った頃、同伴していたラウルが、視線を彷徨わせて『遅い…』とこぼした後に
『悪いけど、俺は用があるから、殿下が戻るまでジルやコーデリアを探して一緒に居てくれないか?』
そう言い出したことから始まった。
王太子殿下の用事はシナリオ通りだけど、ラウル、貴方の用事はシナリオになかったはず。
そう驚いている間にさっさと出てってしまうのだもの。
まさか、バルダロス伯爵令嬢を追いかけていったの?
いや…あの様子じゃそんな事あり得ない。
それに女性をパーティー会場に1人残して何処かに行ってしまうなんて。
紳士の風上にも置けないわね。ラウルらしくない。
このままではストーリーが進まない。
本来のストーリーでは
私とダンスを踊り終えたラウルをからかうようにジルが現れ、
〝次は俺様と、踊るぞ〟と言い出し、けれども、それをラウルが
〝ジル、悪いけど俺は殿下にメリルを頼まれているんだ〟と紳士的に阻み、微かな火花を散らしている2人の間でオロオロしている私に、今まで学園生活でちょくちょく助けてくれ、謎めいた雰囲気を醸し出している上級生のフランツが
〝お困りなら、僕と踊らない?〟と話に入ってきて、
そうこうしているうちに、戻ってきた王太子殿下が、私の元へと歩みを進めていた最中にその様子を見ていたのか、こう言うのだ。
〝次の曲で今日は最後のダンスになるだろう。
王太子だからと、わたしに気を使う必要はない。
誰と踊りたいのか選択しろ〟
そういう流れになるはずなのだった。
それなのに、話の流れとして必要なラウルが居ないからか、
ジルも現れずフランツも現れない。
神の予言書と全然違うわ。
私は今度こそ、この世界の全てに愛されて、悪者をやっつけるために生まれて来たのにー…
刻一刻と、時間が迫る。
(あと、三曲程度かな…
探しに行った方が、良いのかも…)
そんな考えが頭によぎったが、直ぐにブンブンと頭を横に振って考えを打ち消した。
(ヒロインはどっしり構えてないと…
戻ってこない訳ない。
ラウルは私に好感を抱いてる筈だもの。
もう既に私の事を好きな筈。
じゃなきゃバルダロス伯爵令嬢をあんな風に追い払ったりしない。
大丈夫、もう直ぐ戻ってくるわ。
絶対に)
不安に騒めく胸の前で手を握りしめていると、1人で居る私の目の前を通る人々はチラリと嘲りの視線を向けてくる。
それが嫌でも気になってしまう。
「やぁ、楽しんでる?」
声を掛けてきたのは、私の瞳よりも濃い緑…深緑の瞳に髪の男。
攻略対象者ではないのかと錯覚してしまうくらい、その顔立ちは整っていた。
「貴方は?」
「オレは、なかなか楽しいよ。」
〝貴方は誰?〟と聞いたつもりだったけど、
彼は楽しそうに目を細めて笑顔でそう答えて、視線を私から人混みの方へと向けた。
つられて、彼の視線の先を見ると
人の隙間から覗く黒髪が目に入った。
ジルだ、攻略対象者の1人、ジルヴァン・モルストがいる。
ジルは私のいる位置から見ると背を向けており、誰かと話をしているようだったけど、やっと見つけた攻略対象者だ。
思わず腰を浮かせ、その場所へとゆっくりと足を交互に動かした。
(兎に角、ストーリーを戻さなくちゃ…
それにはまず、攻略対象者の関心を私に向けなければ。)
「ジル」
ジルの背中にそう
呼びかけると、ピクリと反応して私へと振り返る。
「あ…ぁあ、メリルか。どうした?」
「実は…」
今我に返ったようなジルの返事に、少し違和感を感じつつも
私はこれまでの経緯を彼に説明すると、ジルは顔をしかめて「あいつ…」と、ラウルへの苛立ちを表に現した。
そんな私とジルのやり取りを、じっと見ている褐色の肌に赤茶色の瞳と髪をした女に気が付いて
何故こんなにじっと見てくるのかと
首を傾げると、それに気が付いたジルが少し気まずそうに紹介をしようとした。
「ぁあ…こいつは…」
彼女はスカートを摘んでペコリとお辞儀をすると自己紹介をはじめる。
「お初にお目に掛かります。
タンベルト子爵家次女 マリエッタ・スエデンバーグと申します。
本日はモルスト様のペアとして、パーティーに参加させていただいております。」




