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悪役令嬢サリエルの夢  作者: マロン株式
第1章
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第68話 婚約と婚約破棄の予兆?14



 パーティー会場に響く音楽は、静けさの漂うこの噴水広場まで漏れ出していた。


 もう既に夕方になった空は茜色に染まり、足元の影をより濃く映し出し、

 心地よい風がサリエルの頬を撫でた。


 レイが足を止めて、サリエルの前に道を開けるように横によると、丁寧なお辞儀をして先へ進むことを促した。


 視線の先には静かに佇む人影を見据えて、サリエルは歩を進めるか、躊躇していると、その人影はゆっくりとこちらへ振り向いて、青い瞳とサリエルの視線が交わる。



 サリエルの代わりにその人影は歩を進めてきた。




 本当にいた…


 パーティー会場に居るはずの、ラウルが本当に目の前に現れた。


 ここまで予想外のことはあったけれど、学園に入学してから起こった出来事は大よそストーリー通りに進んでいたはずなのに。



 信じられない出来事に、高鳴る胸を押さえる。






「ラウル…どうして?」






 サリエルの問いかけに、ラウルは困ったように眉を寄せ、ため息をついた。





「それはこっちの台詞なんだけどな…」







「?」





「婚約者が他の男と出て行って暫く帰ってこなかったら良い気はしないだろう」


「あ……」




 少し冷ややかさが滲む視線に思わず俯くと、左頬にそっと、手を添えられて、視線が合うように顔を上に向かされる。


 青く清廉な瞳が細められ、その真剣な面持ちに申し訳ない気持ちが湧いてきた。



「…ごめんね、

探してくれてありがとう」





 ー・一瞬


 ラウルが眉間に皺を寄せて、思いつめたような表情を浮かべているのが見えた気がした。




 一瞬しか見えなかったのは、左頬に添えられた右手が、サリエルの頭を引き寄せて、もう片方の手がサリエルのもう一方の腕を引き寄せたことで、


 サリエルの視界はラウルの胸板に隠されたように塞がれている。








「ラウル……」




 変だわ


 ラウルの様子がおかしい。


 どうしたのかしら?


 …というか、ラウルの右手が私の頭を胸板に押し付けているからちょっと苦しいわ。



「ラ…ラウル、苦しいわ」


 掴まれていない左の手で隙間を作ろうともぞもぞと動いていると

私の言葉にラウルの力が緩んだので空気を吸う隙間が出来た。


 けれど、添えられた手はそのままで、ラウルの顔はやはり見えない。



「…サリー、君を今、抱きしめたい。


良いか?」




「え、で、でも此処は外で…」




 本当にどうしたのかしら、ラウルから今まで過度なスキンシップなんてされた事はないし

 人目につくところでそんな事をするような人では無いはずだ。


 それに、ヒロインと恋仲になっても円満にことが運ぶよう


 ラウルとは出来るだけ友情を育んできて、気の置けない親友ポジを獲得出来るよう励んだ結果、今では異性ではなく同性に近い感覚になってきてそうした感情は互いにないはず。


 けど側から見れば異性の婚約者だし、肉体的には異性だ。そうした過度なスキンシップはいくら友人でも良くない事は明らか。


 一体どうしたと言うのだろう。



「誰かが近付いて来たらレイが知らせる。」


いや、そう言う問題でもない。




「何かあったの?ラウ…」


 言い終わらないうちに、ラウルは身を屈めてサリエルの背に腕を回し、首筋に顔を埋めるように抱きすくめた。




 驚いて、固まるサリエルの耳元で


 耳触りの良い声の呟きが聞こえる。





「離したりなんかしない。


誰にも、渡さない。」





 消えてしまいそうなその呟きは


 深く傷ついているようにも、不安に揺れているようにも聞こえて、安心させようとその背に手をまわすと、微かな動揺が伝わってきたが、より一層強く抱きしめられるものだから



 息苦しくなる。



 でも、その息苦しさは、先程のように上手く空気が吸い込めない事での物なのか、また別なもののせいなのか、この時はわからなかった。





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