第66話 婚約と婚約破棄の予兆? 12
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あの王太子いろんな意味で油断ならない人だった。
何の前触れも無く、婚約者でも何でもない私の顔をペタペタと…
ゲームではヒロインとの甘いやりとりにドキドキしたものだったけれど、私にペタペタして一体誰得なのかしら。
サリエルは幾多もの情報と思わぬイケメンとの密着に頭の中が混乱していた。
しかし、徐々に冷静さを取り戻してゆき、
先程王太子にされた話を思い返す。
話を聞いた通りならば、この国の内政はとてもまずい事になっている筈だけれど、ゲームではヒロインの奮闘により王家の問題は片付くはずだ。
細かい設定まで恋愛シミュレーションゲームに記されているはずも無いからわからないけれど、
その事で色々苦難があり切ない恋愛イベントが発生していたはず。
ヒロインの手にかかれば、王家の内情など何とでもなるだろう。
それがゲーム補正。
ここで私が動いたところで、私のエンドに影響が出そうなだけで
この国の平和は揺るがない。
下手にしゃしゃり出るべきでないことは確かだ。
それよりもー…
『王妃と側室が
不貞を働いていたのだと。
それは、疑問でなく真実として暗黙の了解となりました。』
脳裏によぎったのは、セドルスの言葉と、そして私と同じ瞳で、絶望の淵に立たされたように嘆く母の顔。
『フランツはこの家を乗っ取ろうとしているわ
貴方はこの家を守るのよ、サリエル』
(お母様…貴方は……)
『また本を読んで欲しいのかい?
おいで、そこに居たら寒いだろう、
サリエル』
心地の良い声色で、藤花のような紫色の瞳を優しげに細めた顔を見たのはいつだっただろうか。
ー…私は、このまま、
余計な悪役フラグを立たせないよう一旦女子寮へ行き、ダンスパーティーが終わる頃に会場に戻り、如何にもずっと居ましたという振りをしていれば、先生にバレないだろう。
なんせ、この人数なのだから。
参加人数確認は最初と最後が限界であろう。
そう思って足を女子寮へと踏み出した。
「お待ちしておりました。
サリエル様」
「貴方は…
ラウルの…」
ラウルの従者であり、契約精霊である、レイが静かに姿を現し、丁寧なお辞儀をする。
「我主が、貴方を探しています。」
「ラウルが…??」
まさか。
ありえない。今は用事が終わった王太子がパーティー会場に向かっているだろう。
ラウルはヒロインをエスコートしているはずだし、
その後すぐヒロインは選択する場面になるだろう
即ち誰を攻略するのか、差し出された4人の手から選びとるという。
この初めの選択は、後々好感度に多大な影響を及ぼすため、実質ここで誰のルートを選ぶのかを決める事になる。
もしも、ここで選んだ相手と違う相手を攻略しようとしたら、バッドエンドの可能性が高まるのは言うまでもない。
そのくらい重要なイベントで、攻略対象がその場にいて、ヒロインの興味を引こうとしなければ始まらない場面。
つまり、今ラウルは私に構っている時間は無いはずだ。




