第63話 婚約破棄の予兆?9
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あれから、案内されるままに談話室にある個室へ通された。
この個室は王家の方々が学園でゆるりと寛げる特別な部屋で、勿論王家の者の許しなく入れない。
一生入る事も近寄る事も無いだろうと思っていた部屋でもあるが、何故か私はその部屋でソファーに座り、セドルスが用意した紅茶をすすっている。
「…殿下にはお辛い事情がありますので、
まずは、私から説明させて下さい。
殿下の前に王太子だった方を、公女様はご存知ですか?」
「はい。王家を含め、貴族達は皆、長子相続が常ですから…」
私はゲームでのこと以外では王家の内情などは殆ど知らない。
目の前にいる王太子が第5王子である事で、ヒロインは様々な陰謀に巻き込まれていたというシーンしか思い浮かばなかったけれど、
この世に公爵令嬢として生まれてしまった私は
誰が王で王太子かくらいは知っている。
「そうです、長子である事に加え、母君はこの国の王妃であらせられ、名家出身。
故に
第1王子が王太子として、存在しておられました…」
順当である。
ご病気により崩御されたと言う報を聞いた時は、とても残念だと思ったものだ。
おかげで目の前にゲーム通りに同級生として王太子という存在が誕生してしまったのだから。
「…ですが、第1王子は、王により殺されました。」
「こ…」
告げられた言葉の衝撃で、
手が滑り、置こうとしていたティーカップがカチャンと音を立てた。
「王家の醜聞を出すまいと病死という事にされています。
まだ秘されておりますが、王は乱心されており、
それは日に日に悪化し、第2王子、第3王子をも…。」
「…」
「王の、乱心のきっかけは
第5王子…現在の王太子殿下が誕生されてからです。」
「…」
「第1王子がお産まれになった時、
長子だというのにその髪は王妃譲りの霞んだ茶色でした。」
そこで、サリエルはハッとなる。
この世界で、貴族は長子相続であるという昔からの概念は、魔力を長子が引き継いでいる事が当然だったからと言っても過言ではない。
それはラドレス公が戦争で手柄を上げる、もっと前から当然とされていることだった。
だからこそ、ラドレス公爵家の跡目争いで父はフランツお兄様をと押しているのだから。
「でも、だからと言って自分の子を…」
「自分の子であるかどうか、
どうやって分かりますか?」
この世界にDNA鑑定などの技術はない。
それは、貴族の持つ、それこそちょっと便利だなという魔法の影響かもしれないが。
待って…
そうだとすると…
「第1王子がお生まれになった翌年、王妃は第2王子を生みました。
次の年に側室が第3王子を生み出され、
少ししてから別の側室が第4王子を生み、
その子達も母君の髪色と瞳をしており
王家の魔力は完全に途絶える運命となったと誰もが思いました。
王も、その時は王として、王家の行く末をただ憂いておりました。」
だけど…
「そんな時でした。
我が主人、アーサー殿下がお産まれになったのは。
誰しも口には出さず、けれども思ったことは同じだったはず。」
そんな訳ない、
そんなはずは無い。
そう思うのに
「王妃と側室が
不貞を働いていたのだと。
それは、疑問でなく真実として暗黙の了解となりました。」




