第52話 動き出す2
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「サリエル嬢、オレと踊ってくれないか?」
「朝から無礼ですわよ、控えなさい。」
「君を誘ったわけではないんだけどなぁ…
仕方ないね、そんなにオレと踊りたいの?
サリエル嬢とのダンスの後で良いかな?」
「あらぁ、卒業したら社会的に抹殺して差し上げてもよろしくてよ?」
朝からロンとマリエッタの冗談なのか本気なのかわからない応酬に、サリエルは素知らぬ顔で本の頁をめくっていた。
「今回のダンスパーティーに同伴する者は学園が指定しているのよ?
貴方のような平民をサリエル様の相手に学園が選ぶかしら?」
「学園の意図を汲み取ってないねぇ、
これはダンス経験者が初心者に手解きする事を目的としたものだ。
と言うことは、平民でありダンス初心者のオレと、
当然の嗜みとして公爵令嬢をしているサリエル嬢は充分にありえる組み合わせだ。
それに、同伴者とパーティー中ずっと一緒ではないといけないなんてことは、ないだろう。」
ロンの言い分に言葉を詰まらせたマリエッタは、
ワナワナと唇を噛んでロンを睨むと、次の瞬間にはサリエルに泣きついた。
「サリエルさまぁぁ、この平民が、この無礼な平民が本当に無礼なんです!
何とか言ってくださいませぇぇ!」
「はぁ…ロン、貴方の命知らずな物言いは控えないと、幾ら校則では平等と謳っていても、
守られるのは所詮学園内だけなのよ?」
「オレの心配してくれてるんだ?」
ニッと歯を見せて笑う憎めない表情に、
思わず心の中で2度目のため息をついてしまった。
「ダンスは同伴者と一曲踊ったら後は全てお断りをするつもりよ。」
「えっ!
サリエル様、それはどうしてですの!?」
「どうしてって…なぜ貴方が反応するの?」
詰め寄られてたじろいでいるサリエルに、マリエッタはさらに顔を近づける。
「御婚約者様とは踊られないのですか!?」
……
私、マリエッタに婚約者がいるなんて言ったかしら…?
まぁ、別段隠していた訳でもないし、噂好きの貴族社会だものね。
知っていて不思議はないか。
「ラウルにだって同伴者はいるのよ?」
入学してから今までは序章にすぎない。
このダンスパーティーでヒロインと攻略対象者各々が顔を合わせ、また、悪役令嬢に完全ロックオンされるきっかけとなる。
ゲームが本格的に始まる合図のようなものだ。
出来れば休みたいものだけど、風邪を引いたなんて嘘はこの学園で通用しない。寮はそうしたずるを許さない為のものでもあるのだ。
万一仮病がばれたら
学園から家に一報入れられてしまい、お母様の気に触れてしまうかもしれない。
ここは、無難に学園の用意した同伴者とダンスをして上手いこと、ひっそりと会場から姿を消す他ないだろう。
「本当に、良いのですか?
御婚約者様が、どこぞの馬の骨と踊るのですよ??
とても見目麗しく、優秀な方だとお聞きしておりますが…」
「婚約者と言っても正式な発表はまだしていないわよ。」
「だからこそです!色んな女が群がってきます!
それでも良いのですか?」
「それは…良いも悪いも、
学園が催すイベントがある度、
目くじらを立てても仕方ないでしょう?」
サリエルの返答を聞いて、驚いたように目を丸くさせたマリエッタは思考を巡らすように口元に手を立てて、「まさか。…まさか…」とブツブツと呟いている。
「サリエル様、重要なことなので、
正直に答えてくださいませ」
「?」
マリエッタはサリエルの耳元に口を近付けて声を潜めながらこう言った。
「御婚約者様以外に好きな方がいるのではありませんか?」
「…え?」
「ー…例えば、王太子殿下…とか」
「ない。」
あまりに拒絶反応が凄すぎて即答してしまった。
4人の攻略者の中でダントツで、絶対にあり得てはいけないのが王太子ルートの悪役令嬢フラグだと思っているからだ。
これだけは正に死に物狂いで回避したい。
「そうですよね…」
ホッとしたようなマリエッタ。
1人で「そうですよね…」と何度も頷くと、「では何故…」と再びなにやら考え始めている。
別世界に思考を浸らせているマリエッタを眺めていたら、肩をトントンと、たたかれて振り返ると、
ロンが口元に弧を描いているのが目に入った。
「覚えてて、サリエル嬢
君が誰も選べないのなら、オレの手を取ることも出来る事を」




