第51話 動き出す1
「おはよう」
総合特選科になって、ある少女の横の席になった俺はいつものように挨拶をした。
桃色の髪にエメラルドのように輝く瞳を持ったその少女の名はメリル・フィンリア
数少ないクラスメイトだ。
「あ…お、おはよ!ラウル!」
あまりにぎこちない挨拶を返す彼女に、何処と無く元気がないような気もして聞いてみた。
「何かあったのか?」
「ううん…何でもないよ、大丈夫。」
強がるようにそう笑う彼女は、何かあったのがありありとわかる。
「貴様のせいだろ」
前の席に座るジルヴァンが、何故か喧嘩ごしにじろりと俺を睨む。
「なにかしたっけ俺?」
「ジル、ラウルは何もしてないでしょ!」
「関係がないわけでもないだろ」
「関係ないよ!」
朝から騒がしいこのクラスの住人達は、まだ2ヶ月程度の付き合いだけど良い奴らだと思ってる。
「ねぇねぇ、新入生歓迎をこめたダンスパーティーがあるんだって!」
そう言ったのはウェンドヘル伯爵令嬢のコーデリア・ダリアン
このクラスで2人しかいない女子のうちの2人目が彼女だ。
ぱっと見は至って普通の茶色の髪に瞳だが、魔力を持っている。
「ダンスパーティー?」
メリルが小首を傾げてそう問うと、コーデリアは楽しげに説明を始めた。
「そうよ!
この学園でパーティーは定期的にあるそうよ
上級生が下級生にダンスや舞踏会でのマナー指導を兼ねて開かれたのが始まりだったんだって。
けど、
ダンスやマナーに先生のお墨付きが既にある人は同級生でも教える側になるようペアを組まされるみたい。
私はあのフランツ・ミューラ様と踊ってみたいわ~。…」
頬をほんのり赤くし、両手を合わせてウットリと語るコーデリア。
「それって学園が相手を決めるの?」
「そうみたいよ、
今日誰がペアなのか発表されるんだって。
楽しみね!」
楽しそうに話している女子を傍らに、ジルヴァンとラウルは、やれやれとため息をついた。
2人とも女性には人気があり、入学してからチラホラと告白された事もあった。
むしろキャーキャーと騒がれる時もあって、学園のどこに居ても落ち着かない。
ダンスパーティーでどうなるのか、自惚れているわけでは無いが何となく想像が出来る。
そしてまず知らない女の子と踊るなど、
とてもじゃないが楽しいものどころか、とてつもなく肩がこりそうだ。くらいの感想しか出てこない。
「貴様は、誰が良いと思っているんだ?」
ふと、ジルヴァンから話を振られたラウルは少し驚いたような顔をすると、ジルヴァンは何事も無かったように前を向いて席に着いた。




