第46章 学園生活スタート3
2人きりの図書室の静けさは、身じろぎひとつの音でさえも、やけに鮮明に聞こえる。
ラウルの青い瞳は、サリエルの問いかけに一瞬目を見開いたけれど、図書室のカーテンの隙間から漏れ出る日だまりを背景に、長い栗毛の髪に隠れているサリエルの横顔を静かに見つめた。
わずかな沈黙の後、図書室の放送機から1日の始まりを告げる音楽が2人の間に流れてくる。
「9年前のことだぞ、覚えてるわけないだろ。」
「そうよね……
もう私、教室に行かなくちゃ」
「え、ちょ…」
おもむろに本を鞄に入れて、サリエルは図書室の出口へと早足で向かった。
後ろで何か言っているラウルには振り返らずにただ前へと足を進める。
『貴方には、運命の人がいるの』
今の貴方はその言葉を聞いて
私になんて返すだろうか。
貴方の心には誰が浮かぶだろうか。
けれど、私はきっとこの物語の当事者であり傍観者でいなくてはいけない。
何故ならあの夢は、私が抗おうとする度に、
おとなしくしていろと言わんばかりに私に悪夢を見せた。
ある時はラウル
ある時はフランツ
ある時は他の攻略対象者
ラウルとフランツに関しては、繋がりが出来てしまった事でより私の心が抉られていく。
見たことも無い2人の表情は、私の心を凍えさせるには充分で。
私はただ、その場に立ち尽くして眺めている事しか出来ない。
神様は、どうして私にこんなに意地悪なのだろうかと、思わずにいられないくらいに。
その場から遠ざかろうと早足になっていたサリエルはこの時、廊下の曲がり角に身を隠した人影を見逃した。
とっさに隠れた人影は、サリエルが過ぎ去ったあと、その背に向けて形の良い唇を動かす。
「それは貴方が、報いを受けているからよ」
桃色の髪をしたその少女は、翠眼に仄暗い光を帯びていた。
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(我ながら、この席配置は幸運としか思えないわね)
サリエルは特進科の1番後ろ窓際にある自分の席につくと、鞄の教科書を机にしまいながらそう感じていた。
「サリエル様、おはようございます!」
「おはようマリエッタ、
貴方もタメ口で良いと言ったのに…」
入学して1ヶ月。私は隣の席になったマリエッタ・スエデンバーグと行動を共にする事が多くなった。
マリエッタはタンベルト子爵家の次女で、肌は褐色で赤茶色の髪と目をしている。
大体の人に話しかけられるが、素っ気なくしている(周りにはそう見えるみたい。別にそんなつもりはない。)私にとても根気よく話しかけてくれるので仲良くなった。
この学園では下の家格の者であろうが、話しかけてはいけない、という決まりはない。
何故なら普通科や特進科は平民もチラホラいる。
そんな中で貴族の縮図をやってしまうと、学園の授業を進める上でも支障をきたすし、何より健全と言えないイジメの原因にもなってしまうそうだ。
なので学園では規則上生徒は平等とされている。
けれど、やはり貴族は家格が上の者には最低限の礼儀は尽くそうとするし、平民は恐れ多くて貴族に話しかけるなど余程の用事が無ければ殆どない。
だから、このクラスで明らかに1番上であるラドレス公爵令嬢である私は皆んなにとても丁寧に対応されている。
けれどもこのクラスで1人、恐れなぞどこ吹く風と言わんばかりに話しかけてくる…しかも、
タメ口の平民がいる。
それが私の前の席にいる…
「やぁ、
今日も辛気臭さい顔してるねぇ!」
丁度今話しかけてきたこのロンという男。
正直私はこの世界に産まれてからこんな言葉をかけられた事がなくて初めはオロオロしてしまったのは言うまでもない。




