第43章囚われの2人5
「僕はサリーの…
義理の兄、フランツ・ミューラ。」
ラウルはフランツの言葉にピクリと反応する。
「義理の…兄?」
「そう、僕とサリエルは実の兄妹じゃない。僕は養子だからね。」
そんな噂もあった。
サリエルの母親はフランツを疎ましく思って冷遇していると言うことは、貴族社会でもっぱらの噂の的になっていた。
そして、あろう事かフランツの廃嫡を願っており、サリエルをラドレス公の後継者として育てているという事も。
フランツはこんなにラドレス公の血を色濃く受け継いでいるのに、何故なのか。
それは…
本当はラドレス公と縁のない子供ではないから。
貴族社会では珍しく、社交パーティーの場にあまり出てこないラドレス公は、様々な憶測をたてられやすい。
ラドレス公よりも、もっと社交の場に顔を出さないラドレス公爵夫人には様々な逸話があり、どれも信憑性をかくものだった。
フランツはラドレス公及び公爵夫人と血の繋がりがないと言う話もその一つ。
だがそれだと…
「その、姿で、ラドレス公の実子ではないと…?
何故それを俺に?」
「…ー」
ラウルの問いかけに、フランツは一瞬だけ視線を外したが、すぐにラウルを見据えて言い放つ。
「君に、サリエルはやらないよ。」
目の前にいる存在は仄かに光る薄紫色の瞳で俺を捉えていた。
ザワザワと周囲の雑音がやけに煩わしく感じる。
周りにいる誰にも…フランツの目の前にいるサリエルにすら、今の言葉は聞こえなかったのか誰も反応を示さない。
俺だけに聞こえたその呟きを、確かに聞いたものだと思えたのは、俺を捉えたその薄紫の瞳に確信を得たからだ。
咄嗟に
俺はサリエルの腕を掴んだ。
「もう行くぞ」
「え、でも私達護衛もいないし保護して貰った方が…」
「保護は無用だ、
レイはもう既にいる。」
俺の後ろに控えているレイを見て、サリエルは驚いたように、まだ涙のあとを残したままの瞳を大きく見開く。
「残念だけど、君達は当事者で保護した上で話を聞かなくてはならない…と、言いたいところなんだけどね…」
フランツはサリエルをチラリと見て言葉を続けた。
「また悪夢を見かねないのは
僕も本意ではないからね……」
「?お兄様??」
「?」
気のせいか、一瞬フランツの目が少し苦しそうに、自嘲ぎみに笑っているように見えた。
けれども直ぐにサリエルの頭にポンっと手を添えて、穏やかに語りかける。
「くれぐれも、
遅くならないうちに帰ってくるんだよ、サリエル」
そう言って踵を返して、フランツは兵士達の所へと戻って行く。
その背中を何時迄も見つめていそうなサリエルに、俺の心は漣立った。




