第42章 囚われの2人4
「団長…」
ミゼルは真剣な面持ちで何かを問いかけるような視線をフランツに向けた。
「そんなに責めるな。
ここに居た店主は、まやかしの魔法で作られた擬態だ。どのみち捕まえても、擬態であることの証明に時を要し捜査がとまってしまうところだった。」
「……」
「いずれ彼は再び僕の前に現れるよ。
その為に僕が何者であるかを明かしたのだから」
「…しかし、不確定な事が多すぎます。
再び現れるのはいつになるのでしょう?
その間に何人の被害者が現れるのでしょう?
特定された事で計画を練り嵌められたら?
もっと「もっと綿密に」
言葉を被せられたミゼルはおし黙り、フランツは続けた。
「もっと綿密に、慎重に動き計画を遂行していれば早く捕まえる確率はわずかでもあがっただろう。」
横目でフランツは、唖然としているサリエルを兵士達が保護しているのを確認しながら、ミゼルの方へ歩を進めると、すれ違うと同時に、周囲に聞こえない声で言い募る。
「悪いがそれでも義妹を囮にする事は承服出来ない」
ミゼルは驚きの表情で振り返り、過ぎ去ったフランツの背中を見つめた。
ラドレス邸でのフランツの立場や噂を鑑みても、サリエルは不利益な存在となる可能性をはらんでいる。
それでもフランツがサリエルを憎めないし、大切だと思っている事は知っていたけれど、いつも子供と思えないくらい正しい判断を下す。
公平で勇敢で強くて
時には国の為
世の平和の為
思い切った決断も出来る
それがフランツ・ミューラだというのに
事件の早期収束よりも
国の平和よりも
自分の身の危険よりも
ただ1人の血の繋がっていない義妹が、怖い目にあう事が1番あってはならないと言ったのだ。
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俺はサリエルの婚約者として、
その名を聞いた事はあった。
けれど会ったことはない。
改まった顔合わせは本人達が学園に入学して1年、そして社交界デビューする16歳にしようと言うことになっている。
何故なのかは知らないが色んな都合があるのだろうと深くは聞かなかった。
噂に聞くとサリエルの母親がフランツをラドレス公の嫡子として正式な場に連れまわすことを心底嫌がっているとか。
サリエルの母も社交の場にはあまり出てこないので本当の事は定かでは無いが。
…まぁ、噂に過ぎない。
ようするにそういった様々な都合があるのだろう。
この婚約に不満もないし、さしてそれでも構わないと思っていた。
そんな噂もあってサリエルはあまり兄と仲が良くないものだと思っていたけれど……
こちらに歩いてくる銀髪の少年、フランツ・ミューラは、サリエルの前で足を止めて、フワリとサリエルの頭を撫でた。
「もう大丈夫だ」
「お…兄さま…」
我慢していたであろう涙を目にいっぱいためて、
ボロボロと泣き出すサリエルを、ギュウッと抱きしめ、あやすように背中を優しくたたいている。
「遅くなってすまなかった」
俺はその光景を、ただぼうっとみているしかなくて。
頭の中には
先程のサリエルの怯える声と
俺の絶望感と
今安堵して泣くサリエルの顔。
そして、フランツの表情に
得体の知れない感情が込み上げてくる。
そんな俺の視線に気がついたフランツと、目があった。
「サリアロス公のご子息、ラウル・ベジスミンだね?」
「…あぁ。」
こんな場所で、しかも子供同士だからか、初対面であると言うのにお互い敬語は使わない。
何となく使いたくなかった。
フランツの方は俺が弟みたいなものに見えているのだろうが。




