第39章 囚われの2人1
俺は自分の弱さがこんなにも歯がゆい事だと痛感した事はなかった。
俺は貴族の男子の嗜みとして勉学により重きを置いていた。
戦争のない平和な世では早急に武の必要性を感じた事はなく、それよりも学ぶべき事が沢山あった。
何故なら俺には俺を守る護衛が外出時には常にいるし、契約精霊のレイは離れてしまっても呼べるから己自身が強くある必要はなかった。
学園に入って本格的に武を身につければ良いと思っていた。
俺は世間知らずだったんだ。
助けに行った筈が、自分よりも小さくて、か細く震える背中に守られて、ただ、目の前で起こる出来事に自分が介入しても邪魔にしかならないので見守る事しか出来なかった。
今まで安穏と生きてきて
こんな危機に陥ることがなかったから気がつかなかったんだ。
俺を背に震えながらも短剣を片手に、大人の男と対峙する少女を見るまで気付かなかった。
俺は目の前にいる守るべき婚約者より弱くて
この瞬間その婚約者に守られる事しか出来なくて
今、俺の力では婚約者を守れないという事を。
弾き飛ばされ、身動きを取らなくなったサリエルを見たとき、全身の血が引いていくのがわかった。
斬られてしまったのか?
そんな考えがよぎったとき
勝手に身体がサリエルの元へと動いていた。
直ぐにでも無事を確かめたかったが、視界の隅で男がサリエルの元へと歩みを進めているのを捉えてこれ以上近付けてはならないと、
声をあげ、立ち塞がった。
けれど、力のない俺には
この場を2人とも無事に脱出出来る方法は浮かばず、作戦を変えた。
俺は店主と言葉を交わし、サリエルと同じ檻に入れられるよう仕向けた。
こいつらのテリトリーから出ればレイを呼べる。
それまで、こいつらに大人しく従う事にした。
しかし
どうやら俺とサリエルは別々に売られ
事もあろうか、仮面をつけた男がサリエルを連れて帰ると言い出してしまったのだ。
そうなると、俺がレイを呼べても、その時側にサリエルはいない。
居場所がわからなくなってしまう。
すぐに捜索をかけてもサリエルがどういうルートを辿っていくか突き止めるのに時間はかかるだろう。
それに、この仮面の男が今すぐサリエルを連れ帰ってしまったら、サリエルがどんな目にあうのか、想像するも恐ろしい。
何としてもここでサリエルと離れる訳にはいかない。
どうしたら、守れる。考えるんだ。
知恵を出せ、今俺ができることはなんだ。
早く知恵をー…
「大丈夫よラウル」
「もし私と引き離されても、
私の事は心配いらない」
耳元で囁かれた言葉と、そのあと見えた少女の微笑みに、俺は目を見開いた。
誰もがその微笑みを美しいと思うだろう。
安心するような、包み込まれるような、現に俺は今わずかに漣だち張り詰めた心の緊張がその微笑みを見ただけで和らぐ。
だけど、サリー
君はよく、俺の前でその微笑みを見せるけど
俺は知っている
その表情が気持ちを偽る時に出るものだと
だって君の身体は震えを抑えきれていない。
指から伝わる振動に、分からない方が無理というものだ。




