第34章 花祭り6
ーー
ーーーー
3人の間に沈黙がはしった。
ニコニコと細めていた店主の瞳と、ラウルの視線がまじわる。
暑くもないのにラウルの額にはうっすら汗が滲んでいるのを見たサリエルは、何か変だと気付いて店主の方を見ると、
店主の手が勢い良くサリエルに伸びてきているのが目に映った。
バシッ
ラウルがサリエルを右手で抱き寄せ、左手で店主の手を弾いたが、弾いたラウルの手を店主は弾かれた手で絡めとり引っ張る。
引っ張られた瞬間、ラウルはサリエルを突き飛ばした。
ラウルが引っ張られる方向とは距離を取るように反対方向に倒れたサリエルは、一瞬のこの出来事にポカンと店主とラウルを見上げる。
「走れ!元きた道を全力で走れ!
そうしたらレイ達がいる!!」
「えっ…」
「ここは、こいつの魔法のテリトリーに入ってる」
ラウルの焦った様子とその言葉で、この店主がよくない人だという事は伝わってきた。
けれど、此処に従者が入ってこれないのにラウルを置いていくということは、
助けを呼んで来いというより、サリエルだけ逃がそうとしているという事だ。
勿論ラウルを助けに従者を連れて来れないという事は前提になる。
そんな事は出来ないとサリエルはどうすべきか思考を巡らせた。
「お嬢ちゃん、あまり店先でおいたをしたら、
お仕置きをしなくちゃいけなくなるよ。
大人しくこちらにおいで」
…ざり…
一歩一歩サリエルは足をゆっくりと交互に動かして
店主に近寄っていく。
「そう、そのまま…」
店主が口を開いた瞬間、サリエルは反動をつけて足を踏み出した。
ラウルと店主の左横に屈むように着地した瞬間、右太腿につけているホルスターに装備されている短剣に手をかけて
反動をつけ、2人の方へ踏み込み
ラウルの腕を掴んでいる店主の手を目掛けて短剣を突き立てた。
予想外の出来事だったのか、店主は思わずラウルを掴んでいた手を離して切られた手を庇うように抱える。
ラウルも突然の出来事に何が起こったのか、理解しきれないままだったが、
解放されたチャンスを逃すまいと後ろに自ら飛びのいて、店主から距離を取る。
そのラウルを背にかばうように
サリエルは右手に持った短剣を順手持ちから逆手に持ち直して構えた。
「サリエル…」
驚きも含んだ声でラウルは呟き
初めて人を傷つけた事にサリエルの手は震えていた。




