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悪役令嬢サリエルの夢  作者: マロン株式
第1章
33/94

第33章 花祭り5

ーーー


ーー








 俺の婚約者が、毎年誘っては断られていた花祭りに、今年は行くと言ってくれた。


 相変わらず、警戒心の高い自分の婚約者の心が、少し解かれたようで嬉しかった。

 たまに彼女の俺を見つめる瞳が、彼女の存在を消してしまいそうで不安になると言うのは、誰にも言えない俺の悩みだ。




 サリエルが目の前を走り去ったのは一瞬の出来事だった。


 体の小柄なサリエルは、人と人の間をすりぬけて、あっという間に見えなくなっていく。



 今の世の情勢はラウルとて再三父から聞いていた。


 子供が行方不明になる事件が多発していて、それも子供だけの時に起こり得ている。


 完全に見失う前に追いつかなくてはと、ラウルはいつも従えている、(見た目は)まだ16才前後の容姿をした従者に告げた。


「レイ


今令嬢1人で出歩くのは危ない。

すぐ行って保護してくれ

俺は他の護衛と共に追いかける!」


「仰せのままに」



 途端に目の前から消えた従者に、自分もすぐに向かおうとしたとき、服の袖口が引っ張られるのがわかった。



 振り返ると、会ったことのない令嬢と思しき人物が、ラウルの袖口を掴んでいる。


「???」


「私と、逃げてください!」



 その少女の事情を聞いているほど時間は無かったが、縋るような瞳に緊迫した事情があるのは伝わってきた。


 サリエルの元へはレイが向かっている。

 すぐ保護されているだろうから話を聞いてあげても良い状況ではあったけど、ラウルの中での選択肢は今すぐサリエルを追いかける事一択だった。


 何故かと言えば、直感でしかないけれど、



 いつも


 自分が目を離したすきにサリエルは何処か違う世界へ消えてしまう気がしてならない。


 こんな事誰に言っても笑い話で済まされるだろうけど、自分の直感はとても良く当たる。


(これは、家系のせいもあるけど…だから、尚更…)


 だからこそ

 ラウルには今他人を労っている余裕がなかった。


 袖をつかんでいる手を振り払い

 視線をサリエルが走っていた方に向けると、既に彼女は見えなくなっていたが、きっとレイが保護してくれていると思い、先程彼女が向かった方向へ走り出した。


 街角の奥に佇むレイを見つけて、駆け寄ったが、不思議なことに保護されていると思われていたサリエルがいない。


「レイ、サリーはどうした」


 

 息を切らして肩を上下させてレイの前に立つラウルに

レイは頭を垂れて告げた。


「どうやら、

私ではこの先に進めぬようです。」



「どういう事だ?」



「私は確かに此処までサリエル様の姿を捉えておりました。が、

この先はサリエル様とは別の場所へ私を通してしまうようです」



 別の場所に…



 その言葉で、ラウルは魔法の存在を悟り

 レイの後ろに繋がる道を見据えて歩き出した。






 魔法を使う事がその容姿に顕著に表れているラウルは魔法についても勉強を課せられてきた。


 魔法書のとある一文が思い出される。


〝人の知らぬ間に知らぬ場所を歩かされている。それ即ち、まやかしの成せる技也〟






「坊っちゃま、それより先へは、進んではなりません。」



「ー…

おまえ達はここで待っていろ


主の命令だ。」



 レイが止める言葉をかけるも、それを無視して歩みを進めた。


 そして、生活をただよわせている景色を横目に裏道を進んで行くと、風が不自然にピタリと消えた。


 肌がピリピリと危険を感じ取っている。そのまま道が途切れるまで進み、角を曲がると


 目の前に現れたのは、




(見つけた…)



 栗毛の腰まである長い髪の少女が、店のショーウィンドウ前に立っていた。


 何やら店の前で店主らしき男に中に入るのを勧められている。


 ここからでも店主の表情を見ていて、なんとも人の良さそうな、穏やかな雰囲気の男だった。



 けれど



 その男が浮かべる笑みに



 背筋が

 ゾクリと氷が這うような感覚を覚える。



 ダメだ、サリエル



 そいつに付いて行ったら





「サリー!」










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