第32章 花祭り 4
栗毛の少女は視線を斜め下にそらして答えた。
「いえ、
あの…私が昔持っていたウサギの人形に
似ているものがあったので、懐かしくて」
彼女は少し照れたのか、ほんのり顔を赤らめて横髪を耳にかけた。
見れば見るほどここまで整った顔立ちの子供に会うことははなかなか無い。その立ち振る舞いからは育ちの良さが感じられる。
これは、高く売れるだろう。
闇オークションにかけたら一体幾らになるだろうか…
これを逃す手はないだろう。
「良ければ店の中を見て行くかい?
外から見るよりも色々あるよ」
「あ…いえ、
私連れがいて、戻らないとー…」
「連れ?はぐれてしまったのかい?
じゃあ君を探しているね…」
少女はその言葉にピタリと動きを止める。
どうやら、何か良くない事を思い浮かべていることは一目瞭然だった。
連れの者と喧嘩でもしたか…?
こうした人の心理の隙をつくのは得意とするところだ。
「娘さん1人ここに来たのは、
何か訳があるようだね」
そう労わるような声色で、意味深に語りかければ
少女は我に返り「え?」と声をもらした。
安心させるように微笑みながらその瞳を見つめて
さらに言葉を紡ぐ。
「ここはカフェもやっていてね、
カウンターの席しかないが…
リラックス効果のある紅茶をだそう」
さぁ…
こちらにおいで、
可愛いお嬢ちゃん
いい子にしていたらお菓子をあげよう
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店主に促されるままに、サリエルはお店に入ろうと一歩踏み出すと
それを咎めるように、後ろから名前を呼ばれた
「サリー!」
振り返ると、先程サリエルが曲がってきた角をぬけて、すぐに声をかけたのだろう。少し離れた位置にラウルが立ってこちらを見ていた。
表情の見える距離ではあるので、何やら真剣な面持ちでいるのがわかった。
そのままスタスタと早歩きで近づいてくる。
「ラ…ラウル、何でここに?」
「何でじゃないだろ、急にサリーが走り出したんだろう。
こんな街中を1人で出歩くなんて…」
(そうじゃなくて、あれ?ヒロインは…??)
サリエルの心の声をおいて
ラウルは視線を店主に移すと、ぺこりと会釈をする。
「お嬢ちゃんのお友達かな?
丁度良い。今うちのカフェによらないかと話をしていたんだ。
今日は祭りだし、他にお客も来ないからいつまででもくつろいでって良いよ」
ラウルは自然とサリエルの腕を掴んで、店主との距離をとるように自分の元へ引き寄せてニコリと笑って返事をした。
「ありがとうございます。
でも祭りに戻ります。
従者も俺達を探しているだろうし」




