第30章 花祭り2
なぜ私が花祭りが初めてだったかというと、祭りに誘ってくれるような友達はラウルしかいないけど、ゲームでのラウルが花祭りで運命のヒロインと過去に一度会っている話を学園生活編でしていたからだ。
ヒロインはラウルの事を始めは思い出せないけれど、ラウルは覚えていたという設定。
そんな運命的シチュエーションに私は絡まないと思ってたというか、絡みたくなかったというか。
だってこの人達の恋愛の代償に私死ぬかもしれないんだよ?追放されるかもなんだよ?
人の恋愛フラグと同時に自分の死亡フラグが高まるのを横目に悠長にお祭りを楽しめるかといったら
楽しめないのが大多数だと思う。
毎年ラウルが花祭りに誘ってくるのを断っていたのもそれが原因だ。ヒロインとの出会いをそろそろすませたかなーって
思ってたんだけど…
身体の動きが固まってしまった私を不思議そうに見つめる彼女はパチパチと目を瞬かせていて、その惚けた顔がとても可愛い。
まさか、こんな突然私がヒロインと出会うなんて。
(え、人違い?
…じゃないよね、こんな髪色に瞳の女の子
ヒロイン
以外の何者でもないよね。)
後ろにいるラウルの気配を感じて私はその場から逃げ出したくなった。
ゲームでのラウルは確かヒロインと花祭りで誘拐事件に巻き込まれたと言っていた。
そこに、サリエルの名前は出てこなかったけど、ラウル1人で花祭りに参加しているのも違和感がある。
婚約者であるサリエルの付き添いとして訪れた花祭りで出会ったのね…
(これが、
強制力ーー)
脳裏に忘れていた設定を細かく思い出してくる。
花祭りの出店の前で、立ち止まったラウルは、ヒロインと鉢合わせる。
興味ある品物に手を伸ばすと、反対側からヒロインの手が伸びてきて、ぶつかってしまう。
ふと、ヒロインを見ると、その綺麗な翠眼に思わず見とれてしまい…
その後従者に探されているヒロインが隠れようと慌ててるのを見て、ラウルはヒロインの手を引いてその場から走り去るのだ。
勿論ラウルの従者をおいて。
これにより目立つ2人は案の定近年多発してる誘拐犯に目をつけられるが、協力しあって逃げ切るという展開だ。
その日から、ゲームのラウルの心にはヒロインがいるらしい。
「あの…」
目の前にいるヒロインはチラリとサリエルを覗き込むように首をかしげ、目線を後ろに控えているラウルにうつした。
気がつけば
私はその場を全力で駆け出していた。
ラウルが私を呼ぶ声がしたけれど、振り返らずに全速力で駆けていく。
この場から、いっときでも早く逃げたかった。
心の何処かで、私はこの世界がゲームに良く似た別の何処か違う場所のものなのかもしれないという、覚悟のなさがあった。
だけど何故、そう思ったのかわからないけれど、あの少女と目が合った瞬間、この世界のヒロインが誰なのかが、はっきりわかってしまった。
同時に学園に入学する15才へ向けて、破滅へのカウントダウンが始まっている気がした。
(私は1人で、
どうやって……
どうしたら、この世界で平穏に生きて行くことをゆるされるのーー)
一心不乱で走っていた私が足を止めたのは、人気のない路地裏だった。
誰もいないここで、一先ず息を整えよう…




