第29章 花祭り1
王都では花祭りという国を挙げて下層階級上流階級関係なく皆んなが華やぐ日がある。
屋根と屋根の間には幾多もの国の旗が風に揺られ
この日は普段から賑やかな王都が一層そこかしこの出店が出店され、
人が踊ったり音楽を演奏したり賑やかなになっている。
10才になったサリエルは、花祭りの日ラウルとラウルの従者と共に外出する事をラドレス公に許された。
(髪飾りは、念のため今日もつけておこう。)
メアリーに髪をハーフアップにしてもらい自分の瞳と同じ紅色の花がついたピンをつけた。
気軽に動きやすいように目立たない濃紺の服を着させてもらい1人部屋でラウルを待つ間、太ももに短剣の入ったホルスターを装着する。
これは、護身用のためである。
自分なりに考えたのだ。
学園生活に入ったら二分の一の確率で死亡する訳で、つまり今仲良くしているラウルですら未だ危険人物である事には変わりない。
そう思うと危機感が日に日に高くなってきたのはいうまでもなく。
いざという時身を守ってくれる武器を、自然と身につけるようになっていた。
ラウルはあれから、足繁くラドレス公爵邸に遊びに来てくれているし悪い人でない事はとてもよく分かっている。
あまり関わらないようにしようと思ってたけど、友達のいないサリエルには有難い存在だった。
(これがゲームの強制力というものかしら…
私がラウルを好きになるような機会をつくろうと
この世界が強制力を働かせているのだとしたら恐ろしいわね…)
王都に根付く木々や、花壇に植えられた花々が咲き誇り色とりどりの花びらが風に舞う中、人々が音楽を奏で、舞い踊り、歌う。
この楽しげな雰囲気に、ワクワクしない者はいないだろう。
ラウルはサリエルの横顔を見て、少し口元に笑みを浮かべて後ろからついていく。
「はしゃいでも良いけど、
またバルダロス伯みたいなのに突っかかるなよ?」
「わかってるわよ、私も10才になったのよ!
それなりに物事の分別はついているわ!」
サリエルが浮き足立つのも無理はなく、花祭りに参加するのはこれが初めてなのだ。
あたり一帯を見渡して、人々の笑顔を見て、胸が高鳴る。
サリエルは噴水前で出展されている出店の前で足を止め、紫色の石が輝くブローチを見つめた。
(お兄様の瞳の色だわ)
よく見ようとサリエルが手を伸ばすと、反対側から伸びてきた人の手とぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
鈴が鳴るように綺麗で甘い声色をたどると、フードを被った同じ背丈の女の子がいた。
その身なりや雰囲気から何処かのご令嬢である事は間違いない。
ついでに言うなら貴族の令嬢かつ嫡子だろう。
被っているローブは紺色に金の刺繍が入った高価なもので、フードからのぞくその瞳はエメラルドグリーンのように澄んだ翠眼に、見えている前髪は桃色だ。
一目でわかってしまうのが、このような選ばれし人々の難儀なところだ。




