第26話 フランツの視点8
また人形に戻ってしまうことに、恐れを感じて
早く原因を払拭して元のサリエルに戻って欲しい一心で出た言葉。
僕は目の前の少女を安心させるように、出来うる限り優しく微笑んだ。
少し、警戒を解いたのか、ポツリとサリエルは語り出す。
「わたくしは、
大きくなったら、皆んなにきらわれるの。」
「そういう、夢をみたの?」
首を傾げて問う僕に、サリエルはフルッと首を横に振った。
「おもいだしたの
皆んなからきらわれて
しぬか生きるか、どちらにしても
この世界はわたくし1人が幸せになれないようにできている…」
彼女はまだ語彙力を持っていないのもあってか、
言っている意味が分からないが
皆んなというのは、何処から何処までの人々なんだろうか。
彼女の瞳には涙が滲んでいた。
ベッドに横たわりながら僕の方を向いているからか、涙は横に滑り落ちる。
メアリーが連れてきた時、僕を見てボロボロと涙を流していた彼女を思うと
その皆んなの中に僕は含まれているのだろう。
彼女の言う通り、僕は彼女をいずれ此処から追い出す計画を練っていた。
その身が置かれている状況や僕の心情を知る由も無い中そんな事をされたら、裏切られた気持ちでいっぱいになるのではないだろうか。
僕がしようとしていた事は、つまりは…
そこで気付いてしまった。
僕にはサリエルを此処から追い出すことは出来ない。
この家で、盤石な地位を築きたかったのは、ずっと居場所のない苦しさを、無くしたかった。
優秀でなくては誰にも相手にされず、無条件で愛された事がなく、疎まれて。
僕を愛してくれていた、写真の中の実両親の温もりも思い出せない。
ひたすら乾きがなくならない。満たされない。
だから、僕はこの小さな小動物のように僕に懐いている存在を目の前から消してしまう事はこの先絶対出来ないんだ。
例えそれが、僕の身をずっと脅かす存在だったとしても。
何故なら彼女は僕が得ようとしていたものを僕に唯一与えてくれた人だから。
君が幸せな姿で、僕に笑いかけてくれるのを見ると、乾きは和らいでゆき、満ち足りてとても心地いいんだ。
(あぁ…まいったな…)
僕は君を失えない。
フランツは左手でサラサラな栗色の髪を撫でながら、
優しい口調で語りかけた
「サリエル、僕は君を嫌いになったりしない。
そして皆んなから君を守るから
安心して大きく成長すれば良いよ」
「でも…おにぃさまは…」
フランツは撫でていた手をとめて、サリエルの髪を一房そっとすくうと、その髪に自身の唇を近づけてそっと口付けをした。
「君を嫌わないとここに誓うよ。
僕は君を大切に思っている。
だから守るよ」
そう言ったとき、やっと緊張の糸が解けたのか、
サリエルはほんのりと頬を赤くして安心したように目を細めて笑う。
その時
僕の胸が、切なくしめつけられた。




