第24話 フランツの視点6
情景が元の景色に戻り、フランツはメアリーに抱えられたサリエルを見る。
「…熱があるわけでも、他に病気をした訳でもなさそうだな、でも…」
何が起こったのか、初めて頭が追いつかないとジワリと手に汗を握った。サリエルに目をやると、ただ事でないのはわかる。
その様子から、ザワリと胸がざわつく。
僕を見てから、涙がとまっていない。
嫌な予感とでも言うのだろうか、僕の知っているサリエルと変わってしまうとでも言うかのような。
僕にもう、純粋に笑ってくれないような気がした。
それから2日たっても、サリエルは人形のように表情なく日々を過ごしている。
ご飯も少ししか食べていないが、ちゃんと口にしているようだから一先ず胸を撫で下ろした。
しかし夜眠れていないのかサリエルの目元にはクマが浮かんでおり、どんどんやつれていっているように感じる。
一時はまるで花が咲いたように僕の世界は温かなものを感じていたのに、再び訪れた静けさに、ただ虚しさを感じた。
一体どうしたと言うんだろうか。
4日目の夜になって、机に向かって本を読んでいたが、内容が頭にはいってこない僕は
自然とサリエルの部屋に足が向った。
戸を叩いても返事はなかったが、抜け殻のような状態を思い出す。
「夜分にすまない、部屋に入るよ?」
そう声をかけてそっと中に入った。
サリエルのベッド脇にある、洋燈により、サリエルの目が、まだ見開かれている事が分かった。
その光景に、心が裂けるような感覚におちいる。
本当に人形になってしまったのだろうかー…
洋燈の横に、腰を下ろして、人の体温を確かめようとサリエルの頬に手を当てた。
人だ。だけどサリエルは何も感じていないのか、ピクリともしない。
ただ無だった。
その目に何も写していない。
微かに震えた自らの手を引っ込めて、フランツは眉を潜めて問いかける。
「答えてくれないか。
一体どうしたと言うんだ?」
部屋に訪れた静寂に、答える気がないだろうと言うことは予想していた。
けれど、このまま放っておくわけにはいかないと、返事をくれそうな言葉を探す。
「言ってくれなくては、
君を助けられないよ。」
何も思い浮かばない。本をたくさん読んでいるけれど、何の言葉が今サリエルをこちらに向かせる言葉になるのか僕は知らない。
それほどに興味を持とうとしていなかったし、
知ろうなんて思わなかった。




