第14話 ラウルとお出掛け⑤
「貴様もフードを取り、此処で跪き許しを乞うのが道理だろう」
〝フードを頑なに取らないと言う事はどうせ人に見せられない醜い顔が有るのだろう〟と言わんばかりにバルダロス伯は下卑た表情でニヤニヤしている。
焦茶髪の少年はバルダロス伯の言葉に青ざめた顔で震えていた。
「な…」
従者は馭者から借りた鞭をしならせ、ワナワナと震える焦茶髪の少年と、その後ろに控える子供に向けてバチンと音を立て叩きつけた。
焦茶髪の少年は子供を庇うように前に立ち、鞭を受け、どこか痛めていた箇所に当たったのか、または今痛めてしまったのか顔をしかめる。
「先程からバルダロス伯爵に無礼を働きおって、ここでひれ伏し、許しを請うのが筋であろう!」
もう一度鞭を打ち付けようと、従者が鞭を振り上げた。
「おやめくださいませ」
凛とした幼女の声が、その場に響き、声の主へと視線が集まる。
その幼女もまた、ローブを羽織っており、身なりは分からなかったが、規則正しく波打ち、滑らかに輝く栗色の髪と、目鼻立ちの整った何処か気品の漂う立ち姿は、育ちの良さを感じさせるものだった。
だが、貴族の娘がこんな場面に突然顔を出すなど誰も思わないので、その場にいる者達は一瞬で、中流階級または下層階級でも上に位置する産業資本家等の娘だと判断した。
従者は少し態度を変えつつも現れた少女に言葉を発した。
「何処のお嬢様か存じませんが、
平民が貴族に逆らってはならないと、親御様は教育されなかったのですかな?
この場で無礼を働くと
貴女が幼く無知であるからと、親御様が恥をかきますぞ」
従者の言葉には返答せず、少女は艶やかで大きな紅色の瞳で前を見据えて、芯のある面持ちで少年と子供の前まで行くと、2人を背に、小窓から顔を見せているバルダロス伯を見上げた。