第13話 ラウルとお出掛け④
ーーー
ーーーーー
サリエルはラウルとサーカス会場へ向かっていた。
あの後、ラウルの従者や護衛は男性しかいなかったので、流石に私にお供なしというわけにもいかず、メアリーが同行してくれる事になった。
メアリーには、馬車に乗ってからサーカスへ行く事を伝えたが、「主人の秘事に口を挟む使用人はおりません」と返事をされたので、きっと母に言いつける事は無いのだろうと思う。
ラドレス公爵邸から、サーカスへは、馬車に揺られて15分のところにあるという。
サーカス団御一行は10日間その場に止まったら、また次の公演先にテントごと移動するというものだった。今日がその最終日で、フィナーレとして特別な催し物があるとか。
最近では知名度が高い一座なので、貴賎を問わず人気だと言う事だった。
今回参加するサーカスは、わずかに魔法が使われているのではないかと言う噂もあるが、団員は主に平民だった者達で結成されているというので、そのくらい不思議と驚きがある魅力的なショーという事だろう。
因みに、この世界で魔法を使えるのは貴族のみで、平民は魔力を持って産まれない。
貴族は魔法が使えるといっても〝ちょっと便利だな〟くらいしか使えない事が多いのだが、魔力のない平民からすると、魔法が使える事は、絶対的隔たりがあるようだ。
「少しワクワクしてきたわ」
楽しそうに頬を高揚させるサリエルに、向かいに座っていたラウルは穏やかな笑みを向けた。
両親と出かける時とは一味違って、初めて友達とお出掛けするというのだから(婚約者だけど)ワクワクせずにはいられないだろう。
ガタンッ
馬車が急停車し、しばらく動かないのでラウルは従者に問いかけた。
「どうした?」
「申し訳ありません。馭者に確認致しましたところどうやら前方で揉めているようで…」
揉めていると聞いて、サリエルは小窓から外を見ようと身を乗り出した。
「前方にも、馬車があってよく見えないわね…」
サーカス開幕の時間が迫っていることもあり、ラウルが時間を気にしながらも仕方ないと軽くため息をついた時、前方を横切る存在がいた。
「お…お嬢様!」
メアリーの焦った声に、サリエルは扉を開けようとしている体勢のまま、顔だけ振返り、ニコリと笑って陽気に答えた
「大丈夫よ
ちょっと様子を見るだけ」
「様子でしたら、私が見て来ますのでどうか、お席にお座りくださいませ。」
ーーーーー
ーーーーーーーー
そんなサリエル達のやり取りなど、つゆ知らず
サリエル達の乗っている馬車の前方にはバルダロス伯爵の馬車が停車して、目の前にいるローブを着た2人組に、従者が抗議していた。
フードを深く被った1人は明らかに子供の背丈で、ラウルやサリエルと同じくらいの身長と思われる。
フードを取っているもう1人は身長は連れよりも大きいが、まだ9歳もしくは10歳程のあどけなさのある、焦茶髪の少年で、こちらも子供と言っても遜色はないだろう。
「こちらにいらっしゃるのは、バルダロス伯爵閣下ギルバート・カトレイジア様なるぞ!下賎なものがなんたる無礼を!」
ローブを着た人間のうち、焦茶髮の少年は必死に頭を下げ、謝罪を述べている。
「申し訳ございません、急いでいたものですから…」
そんな2人を見て、バルダロス伯の従者がどうするかを確認するように、馬車の小窓から様子を見ていたバルダロス伯に顔を向けたが、彼はまだ言い足りないのか不機嫌そうに文句を言う。
「馬に怪我があったらどうしてくれる。
お前達の労働賃金の何倍もするのだぞ」
焦茶髪の少年は引き続き平謝りをしようと「申し訳ございませ…」と言葉を発したところ、後ろに控えているフードを被ったままの人物が、それを制した。
その行為が気に障ったのか、バルダロス伯はピクリと眉を不愉快そうに動かす。
「おまえ、先程から一言も話さず、フードも被ったままとは…そのような礼儀も知らぬのか」
「も…申し訳ありません。
この方は生まれつき口がきけぬ者でして…」
焦茶髪の少年は、フードを被った子供を守るように前に立ち、なおも頭をさげるが、少年の言葉に、面白いものを見つけたようにバルダロス伯はニヤリと笑った。
「ほう…口がきけんと……」