人間不信の始まり
『…そう、正直面倒でね』
『…できそうか』
『性欲は持て余してるよ、あの人』
『そうか』
ぷるぷる震える。
この声は、間違いようがない。
俊と鈴だ。目の前にはカゲさん。
おっさんの右腕だ。
あまり私と接点はなかったのだが
「…ショック、でしょうが」
「…」
自覚している、血の気は引いている。
「…芸能界ではよくある腹芸です。このまま受け取らないでください。彼女が俊にこれを話した意図が大事なのです」
「…意図?」
あれだけなついてくれたと思っていた鈴の突き放したような、私への悪口に、もう平静ではなくなっている。
「彼女は俊だけではありません、哉とBOUNDSにも話しています」
「!!!???」
よりによって、哉とBOUNDSのみなさんにも?
「この三組への共通点は…ご存じのはず」
唇が震える。寒い。
「鈴は、この三組をあおり、あなたへ失礼なことをさせようとしている。その結果、自分だけが寵愛をうけようと」
「……」
「彼女はソロ活動をねらっているんです。ベルシノだけではなく」
「……」
「そのためには、あなたの膨大な作曲活動を止める必要がある。そのための策略でしょうが…」
「…おっさんは」
口をひらく
「…おっさんは、なんと」
「…伝えていません」
カゲさんをにらむ
「なぜ?」
「…まずいからです。これをそのまま伝えれば、ベルシノは解散。三組への提供も封印。…まあ俊は既にそうですが。特にBOUNDSはまずい」
「で、でも」
「そうならないように、赤城さんは握りつぶしますよ。あなたにはなにも伝えない。そして陰で鈴をしかりつける。しかし、それでは私の勘としては非常にまずい」
「…まずい、とは」
「俊と哉は、鈴が想像している以上に粗暴ですよ。あなたへの危害は本気で危惧します」
「…ありがとう。守ってくれるの?」
「まずはあなたにその危険性を説きたかった。その後に赤城さんです。共に説明に行きましょう」
「わかりました。あなたに従います」
「…ありがとう。芸能界は魑魅魍魎、敵味方はあっさりひっくり返る。それでも、今日、今は、赤城さんと私は、あなたの味方です」
「カゲさん!!!なんでそんなことを!!!本人の前で!!!」
「もう既にお伝え済みです」
「なぜ勝手に!!!今までそんなことは一度も…」
「まずいからです」
「それはまずい事態だが!」
「鈴への叱咤では足りないのです。俊と哉を追放しないとまずい」
「つ、追放!?」
おっさんが驚いている。私も呆然とかげさんをみる。そこまで言うのか。
「赤城さん、長いつきあいだ。先に伝えれば、なにを決断するのかはもう知っています。しかし、今回はだめだ。俊は、哉は、止まる連中じゃない」
「しかし!」
「俊と哉の追放が無理なら、SINOさんを隔離すべきです。ボディーガードをつけて」
「そ、そこまで」
「おっさん」私が口を開く
「私は、最終的におっさんに従う。でも、私はカゲさんの直感に反論はない」
「SINO…」
「ボディーガードの結果起こり得る不利益、また作曲に関するオーダー変更、どんな変更も受け入れる。」
「…SINOさん」
カゲさんが安心したようにほほえむ。
「…わかった。二人がそこまで言うんだ。考えさせてくれ」
「カゲさん、ありがとうございます」
「いや、こちらこそだ」少し安堵したようなカゲさん。
「ボディーガードの手配は3日後から。それまではなるべく一人でいないでください」
「わかりました。人のいる場所にいます」
「ええ」…
「鈴とは…」
「はい」
「正直、うまくやれる自信がないです」
「…あれは鈴の本心ではありません」
「…慕っている人を、あんな冷たい声で話を出きるのですか?」カゲさんがうつむく
「それができるのが、芸能界です」