ファーストインプレッションが悪かった
夢(悪夢)のような時間は過ぎ去り、今日からいつも通りの生活。
あれだけ思い切った事したのになにも得ることもなく。
結局あのコンテストでは、盛り上がり関係なく、なんの賞ももらえなかった。
くしゅん。
「美佳、おはよう。なんか疲れてる?」
「うん、ちょっと夜更かししちゃった」
「あ、昨日のアラカンおもしろかったよね~。何であんな遅い時間にやるんだろ?」
「うんうん」適当にうなづく。ああ、勇気を振り絞っても、なにも変わらないことって多いんだなぁ…悲しい
お昼休み。携帯が震える。こんな時間に電話?着信みると知らない番号。怖い。
「はい、もしもし」
「あ~SINOか。俺SYUNだけど」
両方誰だ。間違い電話か。と思ったら、SINO、ああ、あの時の。
電話番号知ってるってあの少年か
「何?忙しいんだけど」
どうもこの声慣れない。あの時は自然に出てたのに
「あの曲すげーよ!!演ってもらったら最高すぎてしびれちまった!歌詞も凄いぜ」
「…忙しいんだけど」
テンション高過ぎ
「ああ、それで社長に聴かせたら、即OKサインでたよ。なんで、打ち合わせの前にお前さんの所属事務所教えて欲しいんだけど」
「無い」
「……は?」
「完全に無所属。組織に属したくないから全部自主」
「…ええっと」「それがどうしたの?」「…じゃあ、契約に問題ないってことだな!メールに住所送るから来てくれよ!」
土曜日
う~む気が進まない。
帰りたい。
面倒くさそうだもんなぁ。
あんなの渡さなきゃ良かった。
反省。
とぼとぼ下見ながら歩いてると
「…え?」
目的地に着いた。
住所の通り…だと思う。
大きい、大きいビル
そしてそこにある看板。
『ジェネシス・エンターテイメント』
「まあ、とりあえず専属契約をだね」
「お断りします。それが前提条件なら同意しません」
やっかい扱いして早く帰してもらえないものだろうか。
「気持ちはわかるが、あくまでも1年だ。その後は」
「期限付きであろうと嫌です。お断りします」
相手は腕を組んで考え込む
「例外を与える訳にはいかないのだよ。今までの方には必ず手順を踏んで頂いた」
「であれば結構です。フリーランス以外では契約を結ぶ気はありません」
そしてもうじき1時間。
竣が何度か入ってきては追い出されも早8回
こらえ性無いなぁ。
「成る程。そりゃ埋もれる訳だ」
苦笑いをして頭を抱えるおっさん
「いや、金じゃなくてここで揉めるとは予想外だ。」
「揉める必要はありません。可か否か。社長さんにでも言ってきてください」
「社長出しても無駄さ。権限がない」
ほう、そういうもんなんだ。
「ふむ、よし、ならこれならどうだ。フリーランス契約。ただし君には1000曲注文する」
「なら構いません」
唖然とした間抜け面
「1000曲だよ…?」
「俄然やる気が湧いてきます」
「いやいやいや、たしたもんだよ君は。OK、フリーランスでサインしよう」
わ、まとまってしまった。おかしいな。断られると思ったのに。
「SINO!揉めすぎだぞ!全く本当におもしれぇなぁお前は」
俊が馴れ馴れしく肩を叩いてくる。止めてほしい。「よろしくね」「ああ、おもしろいことやろうぜ!」
なにもわからない高校生が、あこがれの事務所にはいってしまった。