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4.Fly to Free

エリカを説得し、再び走り始めようやく目的地に着く。そこはよくある造りをした少し小さめのFHの格納庫だった。

ドアノブをひねりドアを開ける。

中に入ると目の前には一機のFHが現れる。

それの白いFHはアリアンツⅡより一回り大きいが、細く長い手足によりスリムな印象を与えてくる。

この機体は謂わば試作機らしく、今日最終調整を行い午後にはテストが予定されている。そのため数人の技術者が忙しく働いていた。


「エリカ。」

「う、うん・・・」


僕は自然な感じを装いながらその間を通り抜ける。その後ろからエリカが僕に倣ってついてくる。

しかしコクピットハッチまであと少しといったところで前方のスタッフが僕たちに気づく。


「ちょっと、君たち。建物をまちがえたんじゃないか?ここは一応立ち入り禁止なんだが・・?」

「いえ、そんな筈は・・・僕たちはテストパイロットとして動作テストのために来たんですが・・・・そのFHですよね?」

「なんだと?テストは午後からの筈だったろう?勘違いじゃないのか?」


スタッフの男が眉をよせて訝しんでくる。


「予定が早まったのをご存知ないんですか?」

「なに?そんなバカな。我々はスケジュールの通りに作業をしている。一応動かない事は無いが、何かあったらことだ。安全のための最終調整は絶対に必要だ。」

「ですが・・・このように上から指令が」

「どれ・・・」


僕は携帯端末を操作してメッセージの受信画面を開き、それを男の方へ差し出すようにして画面を見せる。

そうすると男は画面を見ようと少し腰を曲げて身を乗り出してくる。


「シッ!」

「うごぁっ⁉︎?」


その体を折り曲げた状態の男の鳩尾をつま先で抉るように蹴り上げる。

男は自分の腹を抑えながら、地面に倒れこむ。


「エリカ!」

「うん!」


心の中で彼に謝りつつ、その体を飛び越えてハッチに向かって走る。

背後から制止を促す声が聞こえるがそれを完全に無視してハッチからコクピットにはいる。

そのすぐ後にエリカは近くにあった同乗者用の予備のヘッドギアを手に取った後にコクピットに入ってくる。

操縦席に座り、置いてあるヘッドセットを着ける。

ヘッドセットは耳あて部分とうなじから後頭部を覆うような作りになっていて、音声を聞くだけでなくパイロットスーツと接続され首への負荷を抑制する役割を担っている。

スイッチを押して操作パネルをつけ、FH起動のため生体スキャンを実行。


「早くしてくれ・・・!」


電子音と共に許可がでる。


「間に合ったか!」


僕たちの離反の情報が伝達されFHパイロットとしてのライセンスを失っていたら起動はできなかった。

エリカの説得に時間がかかってしまったため不安だったが杞憂に終わった。

一度起動したFHを外から停止する方法は破壊しかない。そのため急いでFHを起動する。

FHに繋がる電力ケーブルから炉心に火を灯す。

FHに搭載されているジェネレータ、通称アラヤエンジンは始動時に電気を必要とするがその後は半永久機関として機能する。

普段は徐々に稼働率を上げていくが時間がないため緊急発進用の機能、通称キックダウンを行う。

みるみるうちにジェネレータの稼働率を表すメーターが上昇していく。


「エリカ!準備は⁉︎」

「よしっ!大丈夫!いつでもいけるよ!」


エリカは操縦席の後ろにある同乗者用の小さな座席に座りシートベルトをしっかりと締めている。

モニターが点灯し外の様子が映り、その中央に文字が表示される。


〈Frame Head "Roland" Ready〉


「ローラン・・・」


視線をずらすとそこには起動したFHから必至に逃げる人達、そしてさっき僕が蹴り上げた人が仲間に肩を貸して貰っているのが見える。


「-----っ」


罪悪感で感情が乱される。

僕のした事、これからする事を責められたような気がする。しかしそんな事はもう嫌というほど考えた。

気持ちを振り切るようにペダルを振り込む。

FHを支えていたアームを引きちぎりながら前に歩き始める。

近くにあったFH用のビームライフルを2丁手に取り、格納庫の扉の前に立つ。

この閉ざされた空間でブーストを使えば後ろの技術者達がただでは済まないだろうと、ゆっくりとした歩行で扉に向かっていく。

18メートルの鉄の塊であるFHとプレハブの格納庫の扉ではその重量は比較するのも馬鹿らしい差があり、扉はめりめりと形を変えられていく。

扉をこじ開けて外に出る。周囲を確認するが驚異となり得るFHの姿はない。

しかしやってくるのは時間の問題のため少しでも壁に近づこうとメインブースターを吹かし道路を滑走する。

倉庫の密集した地帯をぬけ拓けた空間にでた瞬間、ロックオンされた事を知らせる警戒音が鳴り、モニター赤いラインが〈ローラン〉を貫いているのが映る。

その瞬間進行方向の斜め上にクイックブーストを用いて上昇する。

そして僕の場所を3方向から閃光が通り抜けるのをカメラで確認しつつ、敵機の場所を確認する。


「くそ!追いつかれたか・・・!」


囲まれるのはマズイ。近くの通路に急いで飛び込む。

カメラに映る赤いラインは射線を可視化したものでFHはカメラに映る銃口を認識してそこから一直線上を赤い線で表示するのだ。

クイックブーストの応用でその場で機体を180度回転させ正面に敵機をおさめる。

左右に揺れて射撃を躱しつつ撃ち返す。

正面には2機だけで1機姿が見えない。

僕の撃った弾が外れ横の建物に突き刺さる。すると何かに引火したのか大きな爆発を起こし、敵のFHを飲み込む。おそらく大きな損傷はないだろうが良い目くらましにはなる。すぐに角を曲がり視線を切り、壁への道を急ぐ。

そこに見失っていた残りの1機であろう機体の射撃が上から降り注ぐ。それを紙一重で躱して返す刀で撃ち返す。

弾は相手の足に命中して、足を失ったFHはバランスを崩して高度を下げる。


「ーーーーっ」


手が震えて冷や汗をかく。

感じる罪悪感を奥歯を噛み締めてこらえる。

もう壁まで跳んでいける距離だ。このチャンスを逃すわけにはいかない。

脚で反応をつけておもっいっきり跳ぶ。

40メートルを一息に上昇して、壁の上に着地する。

そこから辺りを見回す。


「ロイ、あれ見て!」

「あれは、街か・・」


近くには廃墟となりそのおよそ4分の1が砂に埋まったビル群が見えた。


「ああ、そうだね、あそこしかないか。でも」

「うん。〈ワーム〉の巣があるかもしれない」

「・・・とりあえず行くしかないか」


センサーに映るこちらへ向かってくる物体を見て、先を急ぐことにする。

壁の上にある砲台を見て眉を寄せる。

これは僕たちが逃げるときに明らかに脅威になる。しかし〈街〉の防衛の重要なものの1つである。

これを壊せば〈ワーム〉の侵入を手助けすることになるかもしれない。〈ワーム〉が侵入したら戦闘員以外の大勢が死ぬ。

その罪の重さに吐き気がこみ上げる。

すると操縦桿を強く握りしめていた右手を暖かさが包み込んだ。


「ロイ・・・大丈夫・・」

「エリカ・・・」


背後から腕を回してきたエリカを見つめる。

口は引き締められ目は不安に揺れているが、その奥に確かな決意の光が見える。

握る手の温度が勇気をくれる。

もう言葉はいらなかった。

2人の親指は同時に1つのスイッチを押した。すでにロックオンしていた砲台を右に持つビームライフルで撃ち抜いていく。

途中から左のビームライフルも使って左右両方の砲台を同時に破壊する。

〈ローラン〉の持つビームライフルは一撃で砲台を貫き爆発させる、それは付近の砲台を全て破壊するまで続いた。


「ーーーーー。行こう、エリカ。」


エリカの返事を聞き壁の外へ踏み出す。


いつも空を見上げては漂う雲を羨んだ。なんの隔たりもない空を漂う雲を。

壁から跳んだこの瞬間、僕はなんだか近づけた気がしたんだ。いつも見上げるとそこにある、あの自由な雲に。

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