SIDE:魔女
「なぁ、俺最近思ったんだけどさ」
「おう?」
ワイルド系のセリフに爽やかお兄さんが顔を上げる。
「魔物が人間襲うのって……俺達のせいなんじゃないか?」
「何を言うんだい、そんな事あるわけ……」
爽やかに笑いかけ、ぴたりと止まる動き。
目が、宙を泳ぐ。
確かに昔から魔物が人間を襲う事はあっても、それは常に人間に攻撃された時のみだった覚えがある。
魔物が人間を自ら襲い、餌とするようになったのは――彼らが食事を与えるようになってからだし、人間を襲う魔物がでるのもここ北の森だけだ。
「ま、まさか~」
ははは、と空笑いが漏れる。
二人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。
「まさか、ね」
二人が現実逃避していると、きぃと扉が開いた。
視線は四角い建物へ。
中から誰かが出てきたのだ。
ぴくん、と魔物が耳を立てて反応する。
出てきたのは白衣を着、丸い眼鏡を書けた人物。
しかし白衣といっても、もう殆ど白い部分がなく、背中の一部以外は返り血で染まっている。
魔物の視線を一心に集めるこの人物。
「呼ばないのにでてくるなんて珍しいな、Dr.サディスト」
「解剖も立派な医術の一つだよ、ワイルド系」
ワイルド系兄ちゃんの嫌味ににっこりと微笑み返した美人は正真正銘の男で、町に出ればそりゃもうモテるだろうが、生憎彼は実験台の上に横たわり、恐怖の表情を浮かべるこれから切り刻む相手にしか興味がない。
ワイルド系と爽やか系がばら撒いていた餌。
あれはDr.サディストが解剖し、形も見られなくなった実験台の人間の成れの果てらしい。
何の実験か……それを知る者はいない。
ああ、美形と白衣には血がよく似合う。
Dr.がこの屋敷に居る理由が、よく分かるというものだ。
ようは主人と気が合いまくっているのだろう。
白衣と血が似合う医者(?)と、白い歯が命の爽やか系、山が異様に似合うワイルド系の三人組は、全員この怪しげな屋敷で暮らしている。
「……でもよぉ、毎日毎日解剖してたら、人間の数やばくならないか?」
「それが問題なんですよねぇ。だから最近は数を抑えているんですよ。まず痛みを感じる神経を破壊し、次に術と薬で全身麻酔、命が永らえればそれだけ使えますからね、悲鳴が聞けないのは残念ですが、今のところ週1で我慢してます」
どこかうっとりと自分の行動を語るDr.
はっきりいって怖い。
誰だこんな奴を世に生み出したのは……。
ふと、Dr.が独特の勘で後ろを振り向いた。
「そこにいるのは、東の守護獣では?」
目線が合い、ティナがビクッと脅える。
そりゃそうだろうなぁ、あんな光景とあんな会話聞いた後じゃ。
「本当だ」
「新しい番人の案内でもしてきたのか?」
「それにしては番人の姿が見えませんね」
「大方、迷ってんじゃねーの?」
「とりあえず、その子だけでも回収し、魔女の君に会わせましょう」
ドン、と背中を押され、爽やか系が前に出た。
「おいでラ・フィナ、大丈夫だよ、俺達は魔物には手出ししないから」
女を簡単に騙してしまうような素敵な笑顔で爽やか系がティナに手を伸ばした。
しかも手にはお肉。
迷って迷って、しばらくものを食べていなかったティナだけにあっさり落ちた。
「ギューーー!」
もう何の肉かなんて考えはどこへやら、爽やか系の手元に飛び掛った。
確かに美味い!
若い肉なのだろう、柔らかくて食べやすい、ほわっと口の中に広がるハーモニー!
人間を自ら襲う魔物の気持ちが分かってしまったティナである。
「捕獲完了~」
「ではワイルド系、我々も食事にしましょう、魔女様は私が呼んできます」
ティナを連れ、爽やか系とDr.サディストが向かったのは四角い建物から離れたさらに高い場所にある屋敷。
黒い雲と稲光が良く似合い、今にも魔王の笑い声が聞こえてきそうな趣だ。
ビカッ!
「ひーひっひっひっひっ」
雷鳴に照らし出され、窓際に立つ人物の姿が浮かび上がった。
謎の液体を片手に高らかに笑うその姿、どこかの漫画に出てきそうな悪役そのものだ。
後ろには大人の男が余裕で入りそうなでっかい大窯。
怪しい煙に怪しい臭い、怪しい色の液体が煮え立つ。
「完成した。これで世の男はみな私のものーーーー! ひゃーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!」
怪しい人物の、怪しい高笑いが屋敷の中に響いた。