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ディアル物語 ~ハンターから転職して魔物を守る番人になります~  作者: ユメ
お題でコラボ2

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5.それでもまだまだ懲りない面々

 東の森に帰りたい。


 しくしくと一人泣きながら中庭を見つめる。

 拒否されてはいない、いないのだが入れない――と言うより近付いたら瞬殺されそうな予感に庭に近付けないでいた。


 煌びやかな面々ばかりで入っていけないのもあるが、主であるセシリアを護る緑の獣も怖いし、お兄様から発せられる黒いオーラや、刀鬼の無害なはずのにこやかな笑顔も背筋が寒くなるほど怖い。


 戦闘中、調子に乗って『セシリアは俺の嫁』と叫んだのがいけなかった。

 心の中で叫んだはずなのに、あの一族には通用しなかったようだ。

 無害に近かった刀鬼も緑の獣に何事か囁かれた瞬間、雰囲気が一変、にこりと、表面上は何も変わっていないのに、闇より昏いオーラにディアルと久っちは声にならない悲鳴を上げた。


 俺の娘に手ぇ出すなんて千年早いんだよねぇ。セシリアに穢れがついたらどうしてくれるの。目立つ事もできない主人公が俺の娘に触らないで。っていうか魔女様の慧眼に叶わないのがセシリアの手を握るなんていい度胸だと思わない?

 笑顔のまま並べ立てられる毒は平素より怖かったが、後半はディアルだけに向けられた言葉だったのが気になった。


(爽やか系なんて手の甲にキスまでしたのに)


 それに比べればディアルの手を握るだけなんて可愛いもののはず。


(やっぱり出遅れたのが痛かったか?)


 刀鬼の雰囲気が変わった瞬間、ディアルは恐怖に固まり、久っちは何を考えるより先に土下座した。


 多分アレが分かれ目。


 危険な生き物に仕えているゆえに、他者より危機回避能力が優れている久っちに対し、ディアルはとことんギャグ体質、危険に遭遇したら真正面からぶつかって玉砕か、回避しようとして失敗、状況悪化など、ろくな結果にならない。

 案の定一方的な口撃を受けた挙句、またもや話の輪から外された。


(あー帰りたぁい~)


 昔のディアルなら一人でも帰れただろう、普通の人間だったから。

 だが今のディアルは正式に番人となった身、ティナを置いて帰ったら番人として失格どころかティナ一族によってフルボッコにされる未来しか見えない。

 よって、ティナがあの輪から外れてディアルの元へ来てくれない限り、東の森へ帰る事ができないのだ。

 だが肝心のティナはセシリア兄の膝に陣取ってご機嫌、当分帰れそうにない。





 魔女と特に話をするでもなく、地面に転がった刀鬼は魔物の群れに埋もれて幸せそうに目を細めていた。


「父上、そろそろ戻らないと」

「ん~」


 本当は休ませてあげたいけれどそうもいかない、『扉』の向こうには自分達を心配する者が待っている。


「そもそも、なんであの魔物はこちらに来たんだ?」


 もっともな疑問を今更ながら訊ねたのはワイルド系。

 隣にはセシリアがおり、戦闘で傷めた頬の傷は特製回復薬で完治、損傷した髪は分からぬよう整えられ、破れた巫女服はワイルド系お手製のワンピースへと着替えさせられていた。

 所々にレースがあしらえてある純白の衣装に、月のように眩く輝く波打つ髪が良く映えている。


「妹が封印すべき本を間違えたんです」

「セシリアが?」

「いえ、セシリアの姉です」

「本当は白紙の本に封印し、そのまま火に掛けるつもりだったのですが……」


 猪突猛進、無鉄砲、大雑把。


 人の性質に口を出さないセシリア兄が、『もう少し周りを見ろ』と溜息混じりに説教するのは、セシリアの姉に当たる人物。

 今回の事も本の中身を確認していれば起こらなかっただろう。


「あの子が来ると事態が悪化しかねませんので、私とセシリアで来ました」

「アンタは途中で心配になって?」

「んー? 出先から戻ったら騒動になっててさ、面白そうだから追いかけて来た」

「……」

「皆にも会いたかったし……ね……」


 目を開いたその先にあったのは平素とは違う娘の姿。


「父様?」


 固まってしまった刀鬼にセシリアが首を傾げる。


「皇こう……」

「あちらの方が」


 兄が示したのはワイルド系、二人の視線に晒され思わずワイルド系が身を引いた。


「……」

「あの、父様?」

「皇、アレを」


 不安がるセシリアを凝視したまま兄に指示を飛ばす。


「はい」


 取り出されたのは一本の懐剣。


「!!!!!」


 殺されると本気で思ったと後にワイルド系は語る。


「ちょっ、ちょっと待てよ、ワイルド系何もしてねぇだろ!」


 ワイルド系を庇って前に出たのは久っちだった。

 立ち上がり、近付いてくる兄を睨み付けるものの、膝は思いっきり震えている。


「……」


 虚勢を張る久っちを無視し、地面に膝を付くと兄は懐剣をそっと地面に置いた。


「……え?」

「?」


 てっきり斬りかかられると思っていたのに、予想と違う行動に面食らって思わず動きが止まってしまった。


「妖刀・牙、悪しきものを一刀の元に斬り捨てる刀」

「これを、俺に?」

「ほんのお礼」


 顔を上げて刀鬼を見れば、白いワンピースを着たセシリアを膝の上に抱いてご満悦だ。

 セシリアと言えば大好きな父様の膝に抱えられ、嬉しさより緊張が先立ち完全に固まっている。


 地面に置かれた懐剣を手にとれば、ずしりとした重圧を感じた。

 重量はないものの、懐剣から発せられる気が尋常ではない。

 主である魔女が目の色を変えて欲しそうな一品・・・


「……」


 チラリと目線を上げて主を見れば、瞳を輝かせるなんて可愛らしいものではなく、奪い取らんばかりに目をぎらつかせていた。


「駄目だよ魔女様」


 僅かに顔を後に向け、苦笑いを浮かべる。


「それはワイルド系にあげたもの、魔女様じゃ扱えないよ」

「え~~」


 心底残念そうな声に取り上げる気満々だった事を思い知らされる。


「その代わり」


 あの力は貴女を護る為に使われる。歌うような声音に流し目も+され、魔女の体が大きく背後に傾いだ。


「……あまり刺激しないでください」


 溜息混じりにDr.が言えば、ぺろりと舌を出して悪戯っ子のように笑った。


「あんな」

「ん?」

「あんな子供のような父上、初めて見る」


 どこか呆然とした表情で兄が刀鬼を見つめる。


「そうなのか?」

「俺らの知ってる刀鬼はあんな感じだぜ、なぁワイルド系」

「ああ」

「いつもどんな感じなのよ?」

「常に気を張っている。笑う顔も久しく見ていない、何もかもが完璧で、一部の隙も見せない」

「完璧?」


 兄の言葉に刀鬼を見やれば、ハートを飛ばしながら気絶している魔女を支えるDr.と何やら楽しそうに話している。

 浮かべる笑みは子供のように純粋で、翳りなどどこにも見られない。


「あれがきっと本当の父様なのですね」

「セシリアちゃん」

「兄様、父様がそろそろ戻ると」

「そうか」

「戻るのか」

「はい」

「また……」

「また来てねー、俺待ってるからさ!」


 きゅっとセシリアの白い手を久っちが握った。


 お兄様の目の前で。


「害虫が!」

「ぎゃあああ!」


 鋭い一閃に身をかわせば地面が抉れ、もうもうと煙が立っている。


「避けるな、眠れ、永遠に!」

「避けるに決まってるだろうがぁぁぁ!」


 バトルを始めた二人を尻目に、セシリアとワイルド系が向かい合う。


「その……また来い」

「いいのですか?」

「当然だ。俺の作った服を着てくれるのはお前ぐらいだからな……セシリア」

「……っ」


 朱色を通り越して限界まで赤くなったセシリアに、兄の攻撃を避けていた久っちが気付いた。


「っちょ、ちょっとあれ、ワイルド系はいいのかよ!」

「お前よりマシだ」

「何それーーーー!」


 久っちの絶叫が爆音とともに森に響き渡った。






 数分後


「皇、気が済んだ?」

「はい」

「お、俺は死にそうだけどね☆」

「久っちは自業自得だから」


 同情なんてしてあげないとさらりと言われ、久っちは本気モードで泣きそうになってしまった。

 Dr.は魔女の付き添いという名目で距離を置き、刀鬼一家に必要以上に近付こうとしない。


「そう言えば」

「はい?」


 ワイルド系の視線を受け兄が顔を上げる。


「お前の名前、皇って言うのか?」

「違いますが?」

「だが刀鬼が……」

「あーあれーねー、あだ名みたいなものだよ」

「あだ名?」

「この子の名前ねー、気合入れて付けすぎたせいで力が宿っちゃってさぁ、俺以外誰も呼べないのよ」


 気の抜けた喋り方に力が抜けそうになるが、どこの世界に自分の息子に呼べない名前を付けるあほがいる。

 誕生を喜んで喜びすぎて、持ちうる加護をありったけ詰めすぎちゃった☆という事らしい。


「なぜ皇?」

「皇子様だから」

「それじゃまるでお前が――」

「じゃあセシリアちゃんはお姫様「みたい」じゃなくて、本物のお姫様ってわけ!?」


 物凄い勢いでワイルド系のセリフを遮ったのは久っち。


「うん」

「どっちにしろ……」

「ん?」

「セシリアちゃん俺と恋しよーーーー!!」

「あはははは」


 ゴス


 アホな事を口走りながらセシリアに飛びかかろうとした久っちの鳩尾に、刀鬼が笑顔で肘鉄を喰らわせた。

 手加減したものの、急所に一撃を喰らった久っちは地面に沈んだ。


「……!!!」


 痛みで声すらでない久っちをセシリア兄が冷たく見下ろす。


「もう久っちったら、あんまり馬鹿な事言うと抹殺しちゃうぞ☆」

「……はい、ごめんなさい……」


 冷たく刺さる視線と軽口ながら確かに感じる殺気に、久っちは素直に謝罪の言葉を口にした。


「久っち」

「おう」

「お前、いい加減に学習しろ、な」

「そうするよ」


 ワイルド系に諭すように言われ、地面に突っ伏したまま久っちは小さく反省した。


「よ~し、じゃあ帰るか!」

「はい」

「ちょっと待て」

「なぁに?」

「刀鬼じゃなくてそっちの……皇」

「何だ?」

「それを、置いていけ」

「………………」


 兄の腕の中にはまだティナが納まっていた。

 離れるものかと、短い手足で必死にお兄様にしがみ付いている。


「可愛い」


 ぼそりと呟きティナを抱きしめる腕に力が込められた。


「いや、な、可愛くても持って帰るな」

「離れたくない」

「刀鬼何とか言え!」

「皇が可愛い」


 真顔でそんな事をぼざけば、当の本人もほんのりと顔を赤らめた。

 息子をたらしこんでどうすんだ。とツッコミを入れたかった久っちだが、命が惜しいので言葉を飲み込んだ。


「ティナは『ラ・フィナ』と言って森の守護獣の役目を担っていてね、森の外では生きられないのですよ」


 穏やかに最もな理由を述べたのは、いまだ離れたところにいるDr.だった。


「……じゃあ私がこっちに……」

「それは駄目」

「はい」


 移住説を口にしてみたものの即行で刀鬼が却下、兄も逆らわなかった。

 主導権は刀鬼にあるようだが、それが父親だからか、それとも刀鬼だからかは不明。


「仕方ないなぁ、じゃあまたねティナ」

『きゅ』


 刀鬼が頭を撫でると、もふもふの尻尾がゆらりと揺れた。


「ティナ、また会いに来るから」

『きゅぅぅ~~~』


 寂しげな声で兄が囁くと、全身で離れたくないと主張しながらティナが抱きついた。


 その光景を見て血の涙を流した者が約1名。

 名はディアル。

 ティナの相方である。



(ティナ……お前、俺のこと完全に忘れてるだろぉぉぉぉぉぉぉ!!)



 どんなに過去を掘り起こしても、あんなに必死に抱きつかれた事はない。


「皇、セシリア」

「はい」


 同時に返事をした兄妹が刀鬼の隣に立つ。


「……」


 まだティナを離さぬ兄からワイルド系が無言でティナを引き取った。


「じゃあまたね」


 ウィンクを残して刀鬼一家が光の向こう側に消えた。


「魔女様はまだ気が付かれぬか」

「よほどダメージが大きかったのでしょう」

「破壊力抜群だったもんな~」

「幸せそうだからいいんじゃないですか」


 どこか投げやり気味にDr.が呟いた。






 ぽてぽてぽて


「ティナ!」


 やっと俺の元へ戻って来てくれたか!と両手を広げたディアルだったが、


『はぁぁぁぁ』


 返されたのは盛大な溜息だった。

 ちらりと視線がディアルを見、視線を逸らして誰かを思い出し、また溜息を付く。

 誰を思い出しているのかは明白。


「お、おまっ!」

『短い夢でしたね』


 さもがっかりと言った風なセリフに、ディアルはけっこう傷付いた。


『帰りますよー』


 いつもならディアルを足代わりに使うのにそれすらなく、どこか哀愁を漂わせたティナが歩き出す。


『付いて行きたかったですね』


 帰り道、ぽつりとティナが呟いたとか。

お兄ちゃんは可愛いものと刀鬼が大好き


お付き合いいただきありがとうございました。

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