十のお題:「○○の勝ちだね!」
辿り着いた先は魔王の居城のような怪しい館だった。
空には暗雲。
地には黒いもや。
まぁあらかた予想通りだろうと別段驚きもせず、刀鬼は案内されるがまま娘の家へと通された。
中身を消化してだいぶ小さくなったピョコたんは、すよすよとソファーの上でお昼寝をしているし、ここで待っていてと言われ、客間っぽい部屋で待機させられて1分。
刀鬼はさっそく暇を持て余していた。
(寝所貸してくれるだけでもいいんだよなー)
身内が煩いからベッドで寝るようにはしているが、別に野宿だろうが岩の上だろうが、寝ようと思えばどこでも寝れる。
言ってしまえば寝る事すら特別必要なわけではない。夜に布団の中で目を閉じるのは、刀鬼を溺愛する事に関しては右に出る者はいないだろう父に子供の頃からそう育てられたから。
ひょこりと客間から顔を出しても、広い邸内なのに使用人の姿が見えない。
ふいに鼻に香るものがあり、匂いを辿ってふらふら~っと歩き出す。
着いた先は綺麗に整頓された調理場。
窓にはレースのカーテン、鍋やフライパンはぴかぴかで、床にも塵一つ落ちていない。
そんな調理場の奥では大鍋で何かがぐつぐつ煮込まれており、それを背が高く、筋肉の造りががっちりしている男が上機嫌でかき混ぜている。
「こんちゃー」
「?」
振り向いたのは刀鬼の周りではあまり見ないワイルド系なタイプだった。
筋肉隆々、漢らしい野性的な雰囲気――うむ、こういうタイプも仲間にほしい。
フリフリのレースの前掛けをしていたが、普段から父の割ぽう着を見慣れている刀鬼は全く動じなかった。
「いい匂いだな、それ今日の夕食?」
「いや、明日のだ」
「へー、あ、入ってもいい?」
「かまわん」
「んじゃお邪魔しまーす」
うきうきと調理場に入った刀鬼が、どこかわくわくしながらワイルド系に近寄った。
身長は大体刀鬼と同じぐらい、腕の筋肉のつき方はワイルド系の方が勝っているが、それは体の造りが違うから仕方ない。
「んまそ~♪」
「味見するか?」
近くにあった小皿を取ると、ワイルド系は手馴れた動作でスープを小皿に盛った。
「ほら」
「いっただきまーす」
「……」
魔物を手懐けるような心持でワイルド系は刀鬼を見ていた。
やたら見目麗しいこれは、どうせ主が連れて来たのだろうと、当然のように受け入れていたが、どう扱うかは聞いてないので必要以上の事は喋らない。
だが客人の刀鬼も心得たもので、特に何も聞いたりはしなかった。
「うんま~い♪」
「そうか」
「すっげ、天才だね」
「……ふん」
照れ隠しに鼻先で笑い飛ばしたが、それを不快に思った様子はない。
「ワイルド系腹減ったー!」
どーんと調理場に突入してきたのは、額に汗光るやたら爽やかなお兄さんだった。
「うお、誰だお前!」
「俺? 俺は刀鬼」
「名乗り忘れていたな。俺はガイ、あいつは久っちだ」
「久っちか、よろしく」
「……」
「どうしたの?」
柔らかな笑みを浮かべながら小首を傾げた刀鬼に、ぐはっと叫んだ久っちが一瞬ですかすかになった精神力をかき集め、目の前の麗人から何とか視線を外した。
たらしだ。
それも天然の。
柔らかな声音は警戒心を抱かせず、お願いされたらホイホイ叶えたくなる、否、その声で命令されたい――。
(いやいやいやいや、俺、女の子好きだし! 命令されたいとか何よそれ! もうやだヴェイル助けて!)
色気と言うか妖艶というか、なんか色々と敗北感。
全然キャラの質が違う……。
恐ろしい相手が登場したもんだと、久っちは恐る恐る刀鬼を振り返った。
一方刀鬼は頭を抱え込んでしまった久っちを無視して、ワイルド系と何やら楽しそうに話し込んでいる。
(俺、無視かよ!)
全身から放たれる圧倒的なカリスマ性というか、この世界においては異質と言っていいだろうその存在感。というよりも、ワイルド系と普通に会話をしている時点で器が違う。
「ここにいたのかえ」
「魔女様……」
Dr.を従えて登場した魔女に意気消沈した久っちが顔を上げた。
「一晩お世話になります」
魔女の前に立った刀鬼が恭しく頭を下げる。
「!?」
先刻まで確かにワイルド系の隣にいた。
ここまでは数歩ある。
だが足音はしなかった。
(この男、何者――)
魔女を守るためにいる従者の一人として、久っちはそれなりに鍛錬しているし、人の気配には敏感だ。
それなのに刀鬼が移動する気配を全く掴めなかった。
「始めまして、俺は刀鬼」
「Dr.とお呼びください」
「白衣に返り血が付いているDr.なんて物騒だなぁ」
「見学しますか?」
微妙に怖い空気を作りながら、目線を合わせた刀鬼とDr.がにやりと笑った。
どうやらDr.もこの男を気に入ったらしい。
「挨拶もすんだ事だし、久っち、客室へ案内してやりな」
「へーい」
のろのろと久っちが動きだす。
「よろしく」
「うううう」
黄金のスマイルに気圧され、なぜか泣きそうになる久っち。
「どうした?」
「なんでもないッス」
やがて二人が立ち去るとDr.の陰で身体を震わせていた魔女が、身もだえしながら自らの心中を声にした。
「あれ欲しい~~~」
「無理でしょう、あれは」
「ああ無理だ」
「えーなんでー??」
「住む世界が違うというか、オーラが……その、眩しいんですよね」
「久っちが一瞬であれだ。長く逗留されたら干からびるぞ?」
「う……それは……困るかも」
「かといって出てけと言う理由もないですしね」
Dr.がさも困ったというように、大きな大きなため息を付いた。
あれから数日。
最初は帰る術を真面目に考えていたがすぐに飽きてしまい、まぁそのうち誰かが迎えに来てくれるかも。と、このクリィタ大陸ライフを楽しむ事にした。
今日も今日とて朝から元気な刀鬼は、ワイルド系の用意した朝食を美味しく頂くと、かごを借り、久っちを引っ張って森の中へと突進して行った。
そのまま夕方まで帰って来ず、やっと帰ってきたと思ったら、かごいっぱいにきのこが積まれていた。
「はー、大漁、大漁」
「うっす」
完全に下僕状態に甘んじている久っちに、出迎えたDr.も苦笑いを漏らさずにはいられなかった。
「これ夕食に食べようぜー」
差し出されたかごの中身をDr.が確認する。
「毒きのこはないか?」
夕食に出すという事は主も食べるという事、毒きのこがあったら大変である。
「これ久っちが採ったやつだから大丈夫」
「そう、全部な」
刀鬼に一日振り回されて疲労した久っちが、うんざり気味に呟いた。
「っていうか、刀鬼が拾ったの全部毒きのこだったよな……」
もはやあれは一種の才能だろう。
容姿も中身も完璧かと思いきや、なんかこの男、どっかが抜けている。
何度教えても、たとえ隣に食べれるのがあっても、迷わず毒きのこを「これだよな!」とか言って自信満々に採るのだ。
その度にツッコミをいれ、さすがの久っちも疲れた。
しかも瞳が楽しそうに輝いているから、ツッコミを入れるのもためらわれ、疲労度もいつもの倍だ。
この男、扱い難い。
「さ、このキノコを台所に運んでください、ワイルド系に調理してもらいましょう」
「おー!」
「アンタ何者だよ……なんで朝からそのテンションが続いてるんだよ!」
「あはははは~」
「久っち、完全敗北ですね」
「くぅ、俺の爽やかさを返してくれぇ」
「!?」
突如刀鬼の顔から笑顔が消えた。
蒼かった瞳が金色に変化し、森の方を睨みつける。
「な、なんだ?」
「邪悪な気配が近付いて来ます」
「下がっていろ」
かごを久っちに渡すと、刀鬼は久っちとDr.を邸内に押し入れた。
「何あいつ、さっきと全然様子が違うんだけど! ちょっとぞくっとしちゃたよ!」
「……恐らく、あれが本性なのでしょうね」
「悔しいが身震いするほど格好よかったぜ」
「ええ同感です」
二人は目を見合わせ、はぁ~っと大きくため息を吐いたのだった。
二人を邸内に入れた刀鬼は全身の神経を張り詰めさせ、こちらに向かってくるものの正体を見極めようとしていた。
最初に視界に入ったのは肩に可愛い魔物を乗せた男。
後方にはどこかで見た事があるような、邪悪な形相の女が一人、物凄い速度で男を追いかけてくる。
「一宿何とかの恩義だっけ? まぁとりあえず――」
ぽぅっ、と刀鬼の掌に紅蓮の炎が燃え上がる。
「た、たっすけてぇぇぇ~~」
男が刀鬼にすがりつく。
それを片手で退かしてもう一歩前に出た。
「友人に降りかかる火の粉は全て振り払う」
目にも止まらぬ速度で飛んできた何かを、手中に出現させた炎の剣で叩き落とした。
ナイフに舌を這わせる女が、つい先日、ピョコたんの華麗なるパンチで沈んだ女だと思い出す。
「どいて、兄さま! そいつは魔物なのよ!!」
ナイフでティナを指し、わめく。
「は、話を――」
聞いて。と言おうとしたディアルのセリフは、隣の男のセリフによって遮られた。
「魔物よりお前の方がよほど邪悪で危険だ」
よく通る綺麗な声。
「え? なに?」
セリフを邪魔され戸惑ったディアルは、思わず隣に立つ男の顔を覗いた。
そしてディアルは思った。
『見ない方がよかった』と。
なぜか必要以上に受けるショック。
理由は分からない、ただ何か納得の行かないものが胸の中に残った。
「邪魔をするなら、兄さまといえども容赦はしないわ。ええ、兄さまを救うためですもの、死んだ兄さまもきっとわかってくれるわよね、兄さま?」
「分かるかよ」
ポツリと呟いた言葉は女には届かなかった。
「すべては兄さまのために! 私の邪魔をしたこと、灼熱地獄の釜の中でとくと後悔するがいいわ、兄さまァアアアアア!!!」
「わけ分からん女だな、拾わんでよかった」
「アンタ、危ないからどいていろ!」
「安心しろ、主人公は絶対死なないという最低ルールは守られるはずだ」
「ほげ?」
「それにお前より俺の方が強い」
刀鬼が戦闘態勢に入った。
ぴろりん
敵が現れた!
ニール
HP:兄さま元気♪ MP:兄さま……♪
攻撃力:兄さま殺す♪ 守備力:兄さま大好き♪
刀鬼のデータ抽出中………・・・
ぴーーーーーーーーーーー
エラーです、測定不可、数値を下げてやり直してください。
「わけわかんねぇよ!」
ツッコミを入れたのはディアルだった。
「俺の時に効果音なんてなかっただろうがぁぁぁ!」
「五月蝿い」
ボグッと後ろから頭部を思いっきり殴られた。
「イテェ!」
「いいところなんだから邪魔するんじゃないよ」
「……え?」
「(番人さま!)」
「きゃー刀鬼カッコイイ、頑張って~♪」
「え、ちょ、ちょっと待って」
イキナリ現れ、ディアルの頭部を殴ったうえ、美形の応援を始めた黒衣の女。
ティナは『番人さま』と呼んだ。
だがなんか展開が違う。
「確かこの後って、俺とニールが戦うはずだろ??」
なのに目の前ではいつの間にかアメーバと合体したニールを、美形の剣士が次々と連続攻撃を決めて圧倒している。
「フレー、フレー、と・う・き!」
番人とやらはディアルのセリフを丸ごとどぶに捨て、年も考えずにミハー丸出しできゃぴきゃぴと刀鬼を応援している。
幻だとは思うが全身からピンクのハートマークが発せられている気がする。うん、気のせいだろう。
「とうき!?」
その名はどこかで聞いた事があった。
そうあれは数日前、一緒にアメーバから逃げていた少年が口にした名前。
――主人公は刀鬼、または魔女だろ!?
「きゃあっぁぁぁあ」
悲鳴を上げたのはディアル。それを番人が蹴飛ばした。
「うっさい」
冷たくディアルを一瞥すると、再び刀鬼に視線を戻した。
繰り出される華麗なる技。
次々決まるクリティカルヒット。
ニールアメーバが目に見えて弱ってきた。
「うそ、なんで? あれって無敵アメーバのはずだろ!?」
「L・O・V・E・と・う・きーーー!」
「ぷきゅきゅ~~!(かっこいいです~)」
「ティナ、お前まで!!!」
「攻撃力が高すぎて、一撃一撃をアメーバが吸収しきれず、中に取り込まれているあの女にダメージが届いている。そうそうできる事じゃないね!」
肩を震わせながら力説する番人、仕舞いには「やっぱ欲しいわー」と地団太を踏みながら悔しがっている。
「って、アイツ素手で攻撃してるじゃねぇか! ありえねぇ!」
正確には手に炎を宿して戦っているのだが、ディアルの脳はその現実を拒否した。
「殺すわよ」
じろりと番人に睨み付けられ、ディアルは慌てて自分の口に手を当てた。
「これで終わりだ」
真紅と黄金の炎が絡み合って地面から噴出す。
それはあたかも2頭の龍のようで……。
「キャァァァァァァ、ニイサ、マァアアアアアアアアア!!!!」
炎の中でニールが絶叫をあげる。
カッコイイけれど、ちょっと残酷じゃねぇか?と言いたかったけれども、また怒られると嫌なので黙っていた。
やがて炎が消え、ニールは跡形もなく燃え尽きていた。
残っているのは少々焦げ気味のアメーバだけ。
「ピョコたん」
「!?」
ハッとして足元を見ると、ディアルと同じく出遅れたピョコたんがそこにはいた。
「こいつ井戸に戻してー」
刀鬼の言葉に頷くと、ぴょんぴょん跳ねながら刀鬼のところまで移動する。
うにうにと苦戦しながら、ピョコたんが焦げたアメーバを井戸へと戻す。
ぼっちょん。と音をさせてアメーバが底へ落ちたのを確認すると、刀鬼は井戸の上にアメーバの移動で枯れた木々の枝を乗せ、さらにピョコたんに指示して土をかぶせ、二度とアメーバの封印が解けないようにした。
「ああもう、かっこよすぎ♪」
ハートを飛ばしながら番人も刀鬼のところへと駆けて行った。
「しかしあの無敵アメーバを良く倒せたねぇ」
「まぁ中身はただの人間だったからな」
「それでも外側がねぇ」
「異常に速い再生能力と耐性能力が厄介な敵だったけど、それさえクリアしちゃえば弱い弱い」
ははははは、とかるーく笑う刀鬼だが、それをクリアできれば誰も苦労しない。
「は、はははは……」
桁外れの能力を持つ刀鬼に、もはや魔女は賞賛よりも苦笑いしか浮かばない。
「あれがなければもっと早く片付いたんだけど……悪かったな危険な目に合わせて、ケガはなかったか?」
「はぅ」
すまなそうに謝る刀鬼にハートを射抜かれ、ぐらりと番人が倒れそうになったのを後ろからピョコたんが手を伸ばして支えた。
「刀鬼の勝ちだね!」
屋敷の中で全てを見ていた久っちとDr.が、嬉々として刀鬼に走り寄ってきた。
「ああ刀鬼の勝ちだ」
普段冷めがちなDr.さえも、少々興奮気味に刀鬼の勝利を賞賛した。
「今夜はお祝いしなきゃねぇ」
わいわいとみなが屋敷の中へ入ってゆく。
ディアルは、というと……出てきた二人に踏み潰されて扉の前に転がっていた。
下記よりお題を拝借
▽創造者への十のお題
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