十のお題:「吹っ飛べっ!!」
出会いは必然?
突然森の中に放り出された刀鬼は途方に暮れていた。
手頃な切り株に腰を下ろし、両手を組んでどうしたものかと悩む。
克の体験談が思いのほか愉快そうで、ついつい本を開いてしまったのがいけなかった。
いや、開いた時は何もなかった。
読んでいるうちに、ストーリーが面白くて引き込まれ、気が付いたらここに……そう、引き込まれた。
(つまりあれなんだな、あの本は扉だが、開いただけでは何も起こらない、内容を読んで魅入られると、精神が共鳴するかしてこっちの世界にきちゃう。と、大体そんな仕組みだろうな)
冷静に分析しながら、さてどうしたもんかと首を傾げる。
対処法を知っている克は、体験談を語りに遊びに行ってしまった。
かといって他に誰か……と思っても、ここは昼でもあちらでは夜だった。
夜になってベッドの上で読んでいたらこうなったのだから、助けを求めるのはちょっと難しいかもしれない。
さらに普段からあっちこっちを飛び回っているせいで、長く不在でも誰も不思議に思わない。
朝姿が見えなくても、またどこかに出かけたんだろう。とそのぐらいにしか思われないのが関の山。
(……っていうか御老体もなんでこんな本持ってんだろ)
目的や使用用途は一切謎。
ただ貸してくれる時、ひどく楽しそうだったのを覚えている。
あれはつまり、こういう事だったようだ。
悪巧みに気付いていなかったわけではない、ただどんな悪巧みか知りたくて手を出してしまった……と言ったら、仲間はさぞかし怒るだろう。
下手をすれば魔女との付き合いを頭ごなしに反対されるかもしれない。
それは困る。
(御老体と縁を切るのは、人生の刺激と縁を切るようなものだからな! よし、俺は困ってなんていない、ここには遊びに来た。それでオッケー!)
変に割り切った刀鬼はとりあえず誰かと出会わねばと思い、ようやく歩き出した。
(あ、でも万が一を考えて、一応確認はしておくか)
その辺に落ちていた小枝を拾い、神経を集中させてみる。
ずももももん、と音がして、小枝に内にある神剣がやど――らなかった。
「なにこれ!?」
思わず素っ頓狂な声を出した刀鬼だが、それもそのはず、かっこいい剣に変わるはずの予定が、なんか「きゃはははは」と笑う花束に変わったのだ。
しかも左右に大きく身体を振り、激しく自己アピールをしている。
はっきり言って怖い。
ぺしっと地面に叩きつけるように捨て、花束の事は見なかった事にした。
「ゼノス!」
『どうした?』
呼ばれると同時に炎の龍が現れた。
「よかった。ゼノスらは呼べるようだな!」
『当たり前だろう、儂は刀鬼から離れられぬ身ゆえな』
「その設定に感謝しよう!」
『……また、なにかしたのか』
ため息交じりの相棒に、刀鬼は慌てて首を振った。
「いや、気のせいだ。なんかあったら呼ぶから、戻っていてくれ」
『うむ』
しゅるりと戻ったゼノスに、深いため息を付く。
「よかった。俺のアイデンティティーまで取り上げられたかと思ったぜ」
冷や汗を拭い、再び歩き出す。
とりあえずゼノスさえいれば、武器なんぞなくてもなんとかなる。
そういう生き方をしてきた。
「しかしなー、誰かいないかな?」
ぼやく刀鬼の前にタイガーに似た魔物が現れた。
「あ、悪いんだけどこの辺に誰か住んでない?」
普段の癖でつい普通に魔物に話し掛けてしまった刀鬼だが、のんびりと森を散策していた魔物は遭遇した相手を敵だと思い、唸り声をあげながら刀鬼に向かって牙を剥いた。
「俺敵じゃないって、ただ人が住んでないか聞きたいだけで――」
グウウウウ
「聞けよ」
警戒を解かない魔物を脅して静かにさせようと思い、地面に炎を奔らせた。
『!!!!』
「人の話は聞こうな――って、ああ行っちゃった」
炎に驚いた魔物は説得を聞くどころか、尻尾を巻いて逃げてしまった。
深くため息を付くと刀鬼は再び歩き出した。
一体どれぐらい歩いたのか人家はいっこうに見えてこず、いい加減歩く事にも飽きてきた刀鬼は不自然にでっかいキノコにかじり付いているカブトムシのような魔物を発見した。
普通のカブトムシは掌サイズ、だが目の前のカブトムシもどきは3メートルぐらい、到底掌には乗りそうにもない。
昆虫採集と称して持ち帰ったら多分周りに説教されるレベルだ。
食事中のところを悪いとは思いながら、さっさとこの世界の事情を知りたかったので、タイガーの時と同じように気軽に話し掛けた。
しかし結果は同じ。
突如現れた人間に、敵意むき出しにして突進してきた。
「あっぶねぇな!」
ひらりと突進をかわすと、その辺に落ちていた枝を拾った。
きゃははははは♪
左右に身を振りながら、今度は刀鬼に向かってウィンクまでしてくる。
この際、自己アピールが激しい花束でもないよりはマシ。
「来い」
軽く叩いて気絶させようと、向かい合った時だった。
ぐらりと視界が歪む。
「な……?」
視線の先でカブトムシが高速で羽を震わせている。
(いい度胸だ)
口元に笑みを浮かべると右手をカブトムシに向かって伸ばした。
「吹っ飛べ!!」
オオオオンッ
巨大な火柱が上がり、カブトムシをどこかへと吹き飛ばした。
「ったく、なんでこんなに好戦的なんだ?」
歩くのが面倒になりドサッとその場に座り込む。
会う魔物みんなに攻撃を仕掛けられ、ちょっと落ち込み気味の自分を自覚しつつあった。
本来の世界において刀鬼はかなり有名で、出会う魔物は出会い頭に服従の意を示しこそすれ、いきなり襲ってくる事は滅多になかった。
だが、それは世界が違うのだから仕方ないと言うしかない。
(日が暮れてきたな。このまま人家が見つからなきゃ、久々に野宿かなー?)
諦めかけた刀鬼の目の前をでかいアメーバが通り過ぎた。
半透明なアメーバの体内には、どこかでみたカブトムシと気絶した人間が入っていた。
「あ、ちょっと待って」
「?」
懲りずに声を掛けると素直に進行を止め、くるりと刀鬼の方を見た。
襲い掛かってくる気配も攻撃してくる様子もない。
「この辺に人家ないか? 迷子なんだよ俺」
中身はこの際無視して、まずは自分の事を優先した。
言葉を発する代わりにアメーバが目を輝かせる。
「マジ? 案内してくれる?」
刀鬼の問いに目を輝かせ、こくこくと何度も頷く。
「はー、助かったよ。他の魔物、話聞いてくれなくてさー」
と普通に会話をしながら、刀鬼は巨大アメーバとともに山を下った。
すいすいと山道を降りてゆくと、ようやく一軒の民家っぽいのが見えてきた。
「ここ?」
頷くとアメーバはドンドンと民家のドアを叩いた。
「どちら様ですかぁ?」
中から聞こえたのは女の声。
すぐにドアが開き、中から女が顔を出した。
黒髪の美しい素朴な村娘の皮をかぶった魔女――にしかみえなかった。
「あらら」
アメーバを見て困ったように笑う。
どこか知り合いと似ている笑い方にアメーバの後ろで首を傾げた。
アメーバがでかすぎて見えないのだろうか、一向にこちらに気付く様子はない。
「今日はずいぶんいろいろ食べたみたいだねぇ。太るよ?」
アメーバが娘に甘えるような視線を送ったらしいが、たしかに戯れるにはちょっと図体がでかすぎる。
(口調まで御老体そっくりだし)
けど顔は……アメーバの半透明のせいでよく認識できない。
もしかしたら中身の一部と思われているのだろうか?
「仕方ないねぇ。まあ、話も住んだし、そろそろ帰るとするか」
「あ、ちょっと待った」
「?」
帰ろうとした娘にアメーバの後ろから顔を出した。
「あらまぁ」
刀鬼を見た瞬間、娘の瞳がギラリと光ったのを刀鬼は見逃さなかった。
「俺、刀鬼って言うんだけど、迷子になっちゃってさ、悪いんだけど泊めてくれないか」
「でも私はここの住人じゃないの、私の家はここから少し離れているんだけど……家まで送ってくださらないかしら? そしたら泊めて差し上げますわ」
明らかに先刻とは違う、露骨に不自然な口調で、それでも微笑みながら悪巧みのある提案をする娘。
「ラッキー、助かる。んじゃお送りしましょ」
しかしそんな悪巧みに屈する刀鬼でもなく、すんなりと娘の提案を呑んだ。
「ピョコたん。そのでっかいカブトムシは別にいいけど、そっちの人間は今のうちに吐き出しなさい。お腹壊すわよ」
どうやらこのアメーバ、名をピョコたんと言うらしい、娘の言葉にピョコたんが首を横に振る。
「そんなに気に入っちゃったの? 困ったわね。でも、消化しちゃったら、もう会えなくなっちゃうわよ。それでもいいの?」
しゅん。としたような気がしたのは気のせいか、アメーバは娘の言葉に従って、人間をペッと吐き出した。
「それじゃ、いきましょう♪」
「おう、よろしく」
妙に気の合った二人は、るんるんと森の中へと消えていった。
下記よりお題を拝借
▽創造者への十のお題
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