十のお題:「今助ける!」
もしもあの時…あの騒動にあれがいたらどうなるだろう。
と思って挑んだお題です。
「んきゃーーーー!」
悲鳴を上げながら森を駆け抜けるのは一人の少年。
彼の名は克、ただいま他の作品より絶賛出張中である。
緑の瞳に涙がにじみそうになるのを必死に堪えながら、ただひたすら前へ前へと逃げていた。
それは巨大なアメーバだった。
何をどうしたらそうなるのか分からないが、兎にも角にもでかかった。
っていうか、むしろ自分がなぜここにいるか分からない。
ほんの数秒前までは確かに書庫にいたはず。
面白そうな本を見つけ、立ち読みをしていたはずなのだ。
なのにふと顔を上げたらここにいた。
んでもって周りは森で、悲鳴があがった方角を見たら、アメーバがものっそい勢いでこちらへと迫ってきたのだ。
体力に自身はあるけれど、こういう場面に免疫はない。
そりゃ確かに回りはこういった危険が日常茶飯事な連中ばかりだし、直面しても平然と受け流す能力の持ち主ばかり。
自分といえば能力も縁もないばかりにこういった危ない目にはあった事がなく、仲間達の冒険談を聞くのが楽しみの一つであった。
いつか自分も旅をしてみたいな♪とは思ってはいた、いたが――こういう場面に出会いたかったわけじゃない。
だいたい克のポジションは、戦いに疲れた仲間達を天性の明るさで癒す事であり、荒事には関わらない。そういうものだったはずだ。
何か間違っている。
走りながらそう思っていた克だが、ふと隣に人の気配を感じて横を見た。
可愛い系を自負する克とは違う、やたら平凡そうなキャラが、克と横並びに走っていた。
こいつでは兄の師匠やその悪友の目には適わないな。と思わず思う。
これぐらいの顔ならばざらにいる世界、地球に行って少し彷徨えばすぐ出会えるぐらいだろうか。
わざわざ地球まで赴かなければならないのは、彼らの生活圏は完成度の高い美形で固められており、平凡系の顔がいやしないのだ。
下手をすれば克も平凡系に入れられてしまうぐらい、キラキラと無駄に輝かしい顔が揃いも揃っている。
逃げながらそんな事を考える克は、もしかしたらけっこう余裕があるのかもしれない。
不意に隣の人物が克に気付いた。
涙目で走る青年の口が動いた。
「お前誰だりょ!」
「っぶ」
恐らく『お前誰だよ』と言いたかったのだろうが、舌がもつれて語尾がおかしくなっていた。
思わず噴出した克の足が僅かにもつれ、危うく転びそうになってしまった。
「アンタなぁ、俺を笑わせるなよ!」
「アンタじゃない、ディアルだ、この物語の主人公だい!」
「主人公は刀鬼、または魔女だろ!? だいたいお前みたいな平凡な顔が主人公やれるわけないだろうが!」
「平凡ゆうな!」
「どっからどう見ても平凡だい!」
「なんだと!」
思わず足を止め、睨み合う二人。
とは言ってもどちらの精神年齢も低いため、はたから見ればただの子供の喧嘩だ。
ジーパンにTシャツという普段着スタイルの克と違い、青年は平凡な顔に似合わずいかにも冒険者スタイルな服装。
そこだけはちょっと羨ましく思う。
睨み合っているその間にも、アメーバが迫ってきているのに、アホな二人の子はそれをすっかり忘れていた。
先に我に返ったのは克、自称主人公・ディアルとほぼ同時にアメーバを見た。
「っきゃーーー!」
「誰か助けてぇぇぇぇ!!!」
「今助ける!」
頼もしいセリフとともに人影が前に立ちはだかる。
登場するや否や、その人物は手に持っていた瓶をアメーバに向かって投げつけた。
じゅぅぅっと嫌な音と臭いがする。
っふ、とかっこよく口の端に笑みを浮かべると、くるりと克とディアルの方を見た。
「爽やか系のお兄さん」それが最初の印象だった。
「俺が来たからにはもう大丈夫――」
言い掛けたお兄さんの表情がびしりと固まる。
「女の子はどこ行った!?」
「一言目がそれかよ!」
思わず突っ込んだ克だが、お兄さんの後ろでアメーバが再び起き上がり、さっと表情を蒼白にした。
「せっかく、せっかく女の子とお話ができると、そう思っていたのに……」
ぷるぷるとお兄さんの肩が震えている。
アメーバの事をつっこんだ方がいいのか、それともお兄さんをまき餌にしてさっさと逃げた方がいいのか、迷いながらもじりじりと後ろへ下がる。
お兄さんの手がガシッと、同じく逃げようとしていたディアルの首根っこを掴んだ。
「ぐえ」
「俺の……」
「お、俺のせいじゃないし!」
大体何が起こるか分かっているのだろう、声は焦り、無実を訴えるために必死に首を横に振っている。
「俺の青春アミーゴを返せぇぇぇっ!」
「俺のせいじゃなぁぁぁぁい~~~」
女の子と出会えなかった腹いせに、お兄さんはディアルをアメーバに投げつけた。
「自称主人公!」
「自称じゃねぇ!」
ゴポ
最後に絶叫してディアルはアメーバの中に飲み込まれた。
「よし、逃げるぞ!」
「へ?」
手をつかまれ、お兄さんと一緒に走り出す。
「青酸カリも大して効かねぇな」
っち、と舌打をしたお兄さんのセリフを、とりあえず克は聞かなかった事にした。
「この小説って、主人公死なないんじゃなかったの??」
「その法則は時として怪しい! だがそれが本当なら、あいつは多分死なないだろう、例え死んだとしても、その意志は俺が継ぎ、俺が次の主役となっちゃうから問題ない!」
「そんなもんでいいのかよ!」
「ギャグ小説だからな!」
ビシリと言い切ったお兄さんに克は一つの確信をした。
やっぱりここは、自分のいた世界とは違う。と。
その後は白いレースのエプロン着用したワイルドな兄さんが出てきて、さすがに気絶しそうになった克を、爽やかな兄さんが抱きかかえてくれた。
BでLな展開になるかと思った。ギャグ寄りの世界でよかった。
しばらく先で二手に別れ、乙女趣味なワイルド系は研究施設っぽい建物の中に入ってゆき、克と兄さんは近くのやぶに身を隠した。
お兄さんと一緒にこっそりとやぶから顔を出すと、黒い衣装を身にまとった美女が登場し、呪文とともに「ボンバァァ」とか叫ぶマッチョな魔人を召喚して、巨大アメーバに立ち向かわせた。
筋肉むきむき魔人はアメーバを通過し、中で消化されそうになっていた自称主人公・ディアルを救出した。
「あ、生還した」
「残念だね~」
「……うん」
もしあれが主人公で、あんなでも主人公が出来ている物語なら、自分も主人公になれるんじゃないかなー。なんてチラッと考えていた克は、お兄さんの言葉に素直に頷いた。
パニックになったアメーバは、建物の中で手を振るワイルドな人に気付き、そちらへと突進していったが、直後、地面がぐらぐらっと揺れ、建物からワイルドな人が出てきた。
これで全部終わったらしく、美女とワイルドな人が高く上げた片手同士を叩き合わせ、勝利の笑みを浮かべた。
ああ仲間なんだなぁと思いながら観察していた克の肩を、お兄さんが軽く叩いて立つようにうながした。
立ち上がってヤブから出ると、美女が克の方へと近付いてきた。
「こんにちわ」
「あら可愛いじゃないかえ」
克の顎をとらえ、上を向かせると嬉しそうに目を細める。
顔は違うし、雰囲気も違うけど、なんか克の知る魔女にとてもよく似ている。
「この世界に迷いこんだかい」
ぽんぽんと克の頭を撫でる手は優しい。
ふいにバンバン、と乱暴な音がして、一同は空を見上げた。
「お呼びだよ、ほら行きなされ、また遊びにおいでな」
美女の言葉を聞きながら、克の体が何かに引っ張られるように空間に吸い込まれた。
どうやら初の異世界体験はここまでのようだ。
薄っすらと目を開けると、視界にきらきらとした美しい金の髪が映った。
「おい、大丈夫か克?」
しっかりと目を開けると兄の師匠が心配そうに克の顔を覗き込んでいた。
夜は月の如く、昼間は太陽の如く輝く美しい金の髪、蒼い瞳は深き海の色。
克は彼―刀鬼―の弟子なわけではないが、トラブルメーカー同士何かと気がある。
(うん、質が違う)
心配そうな刀鬼の顔を見ながら、刀鬼ならあの美女の眼鏡に適うかも。とか考えた。
あのアメーバから生還した(?)し、平凡でもやっぱりあれは主人公だったのだろう。
だけどやっぱりどうせなら主人公は顔がいい方が良いに決まっている。
「この本、正体分からないからしまっておいたんだが……大丈夫か?」
「……うん」
手を取って起き上がらせてもらうと、軽く首を振ったり、肩を回してみたりする。
とりあえずどこにも異常はないようだ。
「向こうで茶でも飲むか」
「うん」
ぽてぽてと刀鬼と一緒に歩き出す。
「やっぱりなんか仕掛けあったみたいだな、どっかの世界と繋がってるのかな?」
「どうして戻ってこれたんだろう?」
「ん? 本を逆さにして、こう、振ったんだよ」
言いながら本の背表紙を持ち、やや乱暴気味に上下に振って見せた。
「で、それでも出なかったから……」
言いながら次に本の表紙をバシバシと叩いた。
なるほど、あの乱暴な音はこれだったのか、と妙に納得した。
「荒業だねー」
「まぁ終わりよければ全てよしってやつだな」
くしゃくしゃと克を撫でる手。
「御老体も注意書きぐらいつけてくれりゃいいのに……」
本を眺めながらブツブツと文句を言う。
多分、あのへなちょこ主人公が同じ方法を使ってもスカだろう。
刀鬼だからできた技だと克は思う。
「やっぱり主役は刀鬼じゃなくちゃね」
「ん?」
「なんでもない」
笑いながら克は走り出した。
巨大なアメーバはもういない、危険も何もない世界、ここが克の居場所――。
「おお、なんか出た」
刀鬼の声に後ろを振り向くと、そこにはあのアメーバがいた。
「うッぎゃーーーーーーーーーーーー!!!」
倒す方法なんて知りやしない。
青酸カリでも死ななかったアメーバを倒す方法なんてあるのかよ、とツッコミを入れる余裕もなく、あまりの恐怖に克は硬直してしまった。
「えい」
「!?」
あろう事か刀鬼はアメーバを手づかみし、うねうねするそれを本の中に押し込みまくって、ものの数秒でアメーバを元の世界に押し戻した。
「よし、何も見なかった!」
二度と開かんぞといいながら、刀鬼は必要以上に強く本を閉じた。
「やっぱり刀鬼って特別待遇だ」
しみじみと克が呟いた。
下記よりお題を拝借
▽創造者への十のお題
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