その2:少し、君が羨ましい
顔を紅く染めつつ調理場へ入ってきた久っちに、ワイルド系はとりあえず水を渡した。
水を一気に飲み干した久っちが、やれやれとため息を付き、今しがた見た光景をワイルド系に説明した。
久っちは若い。
魔女やDr.と違い、見た目通りの年齢を刻んでいる。……今の所は。
つまり人生経験が大幅に足りないのだ。
対するワイルド系はそういった状況に慣れていた。それも幼少の頃から。
生まれた日から両親の元を離れ魔女の従者になるその日まで、ワイルド系は年中新婚さんな両親を見て育った。
だから魔女を見るDr.の瞳を、仕草を見てすぐにその心情を察した。
それは母を見る父の瞳そのものだったから。
「慣れろ」
短く、ため息混じりに告げる。
「慣れるわけないだろ、あんな光景」
「人が人を想う心が分からぬわけではあるまい、ん?」
皮肉を込めた言葉に久っちはそれこそ茹蛸のように真っ赤になってしまった。
「魔女様の命令と本気のDr.を前にしても引かぬほどの想い、聞いているぞ」
「あ、あれは……だって……」
「それに――」
慌てて言い訳をしようとした久っちだったが、何かを言い掛けたワイルド系に思わず手を口に当てた。
けれど言葉は続かず、口元に笑みが浮かんだだけだった。
「なんだよ」
「なんでもない。気にするな」
言ってワイルド系は久っちに背を向けてしまった。
慣れた動作で食材を次々大鍋に入れてゆく。
(もしかして夕食の準備中だったのかな?)
それでも、文句一つ言わず久っちの話を聴いてくれた。
なのに……今、背を向けられた。
不意に言葉が口を出た。特に何かを考えていたわけではなく、本当にただ、ポツリと口からこぼれ出た。
「ワイルド系って、好きな人いるの?」
返事はなかった。
何も言わない背中が、それ以上の質問を拒んでいるような気さえした。
実は魔女に仕える三人の中で、ワイルド系が一番何を考えているか分からない。
Dr.は魔女8割、サディスティックな事1割、残り1割で仲間や魔物、もろもろの事を考えていると予想できる。
久っちは以前「何も考えていないだろう」といわれた。
その通りだったから、反論できなかった。
でも今は違う、想う人がいる。
ワイルド系は……レース編みとか料理とかするけど、それは趣味とかであり、心の中に誰かが住んでいる気配はない。
もしかしたら食事のレシピとか考えているかもしれないけど。
「久っち」
不意に呼ばれて顔を上げる。
「じきに夕食だ。二人を呼んできてくれ」
「分かった」
二つ返事で調理場を飛び出していった久っちを見送り、ワイルド系はひっそりとため息をついた。
主の命令に背いてでも誰かを護ろうとした久っち。
仕草一つ一つに魔女への愛情を示すフェリオン。
互いを深く想い合う両親。
みんな誰かを想っている。
けれどワイルド系には誰もいない。
魂を賭けて愛する相手も、愛したい相手も、誰も。
未だ心預ける相手には会えず、今日も一人調理場で料理を作る。
いつかなりふり構わず誰かを愛してみたい、などと想いながら、




