ディアルの受難3
一目惚れした理想の女性は幽霊。
世の女性の理想そのままな感じの美男子は冷酷無比。
最後の北の森にいるのは誰もが口ごもる人物。
ティナ曰く『最強』らしい。
はてさて、ディアルのお使いはまだまだ終わっていない。
恐ろしき北の森の主に会わねばならぬのだ。
生きて帰ってこれるのか!?
ディアルもしかしたら最悪のピンチかも!
「はぁ……」
「(どうしたんです?)」
「ため息つかずにはいられない、だって……最強だろ?」
「(殺される事は……まぁ、ないとは思ったりします)」
「なんでそう曖昧なのさ」
「(全て機嫌次第だからです)」
「…………」
危うしディアル!もしかしたら生きて帰れないかも!?
でも幽霊になればリィーに告白できるよ?
「俺は生きて幸せになりたい……」
しくしくと涙を流しながら、まるで処刑台に向かう囚人のように、ディアルは足取り重く北の森に着いちゃった♪
見上げれば確かに険しい岩、ゴッツゴッツとした岩がゴーロゴロ。
耳を澄ませばゴゴゴゴゴゴゴと地鳴りのような音、恐らくリィーの言ってた滝だろう。
「どうやって登れと?」
「(足)」
「ほへ?」
「(中腹に着くまでずーーーーーーーーーーーーーっと岩道です)」
「な、帰っていい?」
「(だめです。北の森はクリィタで一番大きな森なんです。ここの主はいわばクリィタの主なんです)」
「―――今、ものすごい疑問が脳裏を過ぎったんだけどさ」
「(はい?)」
「俺の前の東の番人って……?」
「(殺されちゃいました♪)」
「聞きたくないけど……誰に?」
「(この森の番人にです)」
「きゃーーーーーーー」
ディアルが逃走した。
馬とティナをその場に残し、大陸から出ちゃうぐらいの勢いで逃げた。
――――が。
時既に遅し、ディアルはとっくの昔に『迷いの森』に入っていたのだ!
「(諦めていきましょう)」
「……あいよ」
馬をその場に、ティナを背に、ディアルはしくしくと岩山を登り始めた。
斜面はそう厳しくない、立って歩けるほど緩やかな斜面だ。
が……万が一つるん♪と足を滑らせて岩に体を打ち付けると……きっと血の海。
岩の鋭さが半端ぢゃないのだ。
柔らかい果実ならサクッといけちゃうぐらい、鋭い岩肌なのだ……。
だから慎重に、慎重に這いつくばって進むしかない。
しかも、岩と岩とのわずかな隙間から『ヌオオオオオオオ……』と不気味な音がするではないか!
風だと思いたいが、首筋とかを時折なでる風は生暖かい、ただの風じゃぁないだろう。
延々と岩山登る事2時間弱。
「つ、着いたーーー!」
「ンキュ?」
ディアルの雄叫びにティナが驚いたように辺りを見回す。
どうやら寝ていたらしい。
「一休憩~」
「(ダメです!喰われたくなければ立ち上がるです!)」
「えへぇ?」
「(後ろを見るです!)」
「?」
ティナに言われるがままに後ろを見たディアル。
彼が見たのは、這いよる黒い影。
ねっとりしてそうで、しっとりな感じ(意味不明)の黒い影がディアルに迫る!
「んぎゃーーーーーー!」
ディアルはティナを脇に抱え、全力疾走でその場から逃れた。
駆けて駆けて辿り着いたのは高々とした崖の上。
「も、だめぇ……」
バタ
ディアル死亡か?
「くーすーくーすー」
と思ったら寝ていた。
ティナもふぃ~っとため息をついて優しく微笑んだ。
どうやらこの辺は安全らしい。
ティナはちょこちょこと崖っぷちに近づくと、今きた道を見下ろした。
黒い風が吹く。
岩は闇色に染められ、緑のはずの木々さえ黒く塗り染められている。
「えへへ、リィーさぁん~」
がくっとくるディアルの寝言。
どうやらリィーとラブラブしている夢を見ているらしい。
どうせディアルの事だから、草原でリィーと追いかけっこをしている夢でもみているのだろう。
「待ってぇ~ん」
にへにへとだらしない笑みを浮かべながら、ディアルはいっこうに起きる気配はない。
ティナは仕方ないとため息をつくと、ディアルの隣に座った。
「僕は貴方のもので~す」
せめて夢の中だけは幸せなディアルであった。
おしまい♪
お読みいただきありがとうございました。