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ディアル物語 ~ハンターから転職して魔物を守る番人になります~  作者: ユメ
第三章

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SIDE:魔女

 ヴェイルのお陰で完治はしたが、一向に目を覚まさない魔女。

 それがDr.の苛立ちを促進しているのだろう。

 深く静かにキレているDr.に逆らう事はもはやできない。


 森に侵入した全てのハンターの命を奪うため、速度を増して広がってゆく闇は、まるでDr.の怒りと共鳴しているかのようだ。

 森は黒い気に包まれ、魔物達がことごとく暴走、ノワールを護衛として屋敷に残し、魔女の下僕3人が森へと出陣。

 そんな中、魔物を駆逐せんとハンター達が森入り。

 北の森はかつてない混乱に見舞われていた。




 そんな北の森の様子は、北の村からも見えていた。

 魔女死亡の知らせを受け、今なら魔物を駆逐できると、名の知れたハンターから駆け出しハンター、ハンターを目指す者までが森の中へ消えて行く。

 なぜかとてつもなく不吉な光景だった。


 魔女が死んだのは村人達にとっても朗報。

 これで美形の息子や恋人を持つ者達は、魔女の影に脅えなくてすむ。

 だが――これまでに散々やりたい放題をし、魔除けも聖水も効かなかった魔女が、たった一撃で本当に死ぬのだろうか?

 何より北の森の上に立ち込める黒い闇……あれは何を意味するのか。

 村人達は不安と疑問に眉をひそめながら、事を見守るしかできなかった。




 そんなシリアスを通り越してホラーな展開が繰り広げられている北の森。

 状況が分かっていない生き物が約1名。

 マリオと魔女の繋がりを信じて疑わない役人は、先刻の突然の魔物の襲撃さえ茶番だと鼻先で笑い飛ばし、血相を変えて森の奥へと走っていったノワールと久っちを追っていた。

 だが所詮役人。

 日頃はデスクワークに追われている身ゆえに体力には自信が無いときている。

 森は険しく、歩いているうちに喉が渇いてきて、音を頼りに川を目指していた。

 堅物役人はやっと見つけた川の水際に、一人の女を発見した。


「おい貴様、ここで何をしている! わ、私は中央から来た者だ。魔物に加担する者ならば、この場で逮捕してくれる!」


 女に走り寄り、震える声で肩を掴む。


「そんな乱暴な言葉を使う子に育てた覚えはありません」


 ゆっくりと女が振り返る。

 貴族のドレスに皺の寄ったきつそうな顔、手には鞭――役人の祖母と同じ顔と声。

 数年前に死んだはずの祖母が目の前にいる。



「ひ、ひぎゃぁああああああああ!!!!」



 悲鳴をあげ、その場に腰を抜かす役人。

 きつそうな目がさらにつりあがり役人を睨んだ。

 ピシリと鞭の音が近付く。


「我がゴンゾール家の跡取りともあろう者が、下品な悲鳴を上げるなんて恥ずかしい、まして腰を抜かすなんて……やはりお前は出来そこないだ」


 鞭はいつの間にか短剣に変わっていた。


「生きていても何にもなれない」


 ギラリと白い刃が光る。


「ならばここで死んでおしまい!!」

「ひぃぃい!」


 振りかざされた短剣に、役人は転がるように逃げ出した。


「お前なんて魔物に食い殺されればいい、私から娘を奪ったあの男のようにね!」


 悪夢のように追ってくる祖母の声。


「あーははははは!」

「うわぁぁぁぁぁ!!」


 名声もプライドもかなぐり捨て、役人は死に物狂いで森を転がり降り、息も絶え絶えに北の森を脱出した。

 恐る恐る森を振り返ると、やはりそこには祖母が立っていた。


「ひひひひひひ」

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 絶叫をあげて走り出した役人は、そのまま二度と森に戻ってくる事はなかった。

 それを酒場の中から店主が見ていた。


「なんなんだ今日は、さっきから森から戻って来る奴来る奴、みんな幽霊を見たような顔をして逃げて行くな。頭でもいかれちまったのかね」


 だが戻って来たのは魔物を殺す力もないような、へなちょこハンター達ばかり、手練のハンターで帰ってきた者は、今のところ一人も……いない。

 役人が逃げ去った方角を見ながら、ため息をもう一つ。


「あの若造、出世は無理だな」


 激しく降る雨が喧しい。

 この分では今日は店を閉めた方がいいかもしれない。

 森の方からは魔物の吠える声とハンター達の悲鳴が聞こえてくる。

 身を守る術を持つ村人は少ない、もし魔物が村に降りてきたら、最悪村は壊滅してしまうだろう。

 魔女がいた頃は魔物が森から外に出てくるなんて一度もなかった。

 森は魔物の領域、その外は人間のもの、誰かに決められたかのようにハッキリと分かれていた。

 それが当たり前だったし、自然だと思っていた。

 だけど今は違う。

 森から魔物が出てくる恐怖に脅えている。

 もし凶悪な魔物でも出てこられたら、無力な人間はひとたまりもないだろう。

 冷や汗が店主の背中を流れる。

 よく見ると家も店もみな扉も窓も締め切り、人の気配がしない、みな家の中で息を殺しているのだろう。


「これじゃ魔女が生きていた頃の方が、よっぽど静かで平穏だったな」


 言いながら酒場の店主も店を閉めた。




「キャアアアア、コワイコワイコワイコワイ」


 片言で叫びながら剣を振り回しているのは大男の息子。


「オトウサンコワイヨ、タスケテタスケテタスケテーー!」

「うぬぅ、ディアル、漢ならば戦わぬか!!」

「キィヤァァァァ」


 ドカ


「ッギャ」

「ディアル!!」


 バタンと派手な音を立ててディアル(?)が地面に倒れた。

 背中には足跡がくっきりと残っている。


「五月蝿いガキだ」


 ぬぅっと現れたのは、いつだってイリア命の愛妻家、元一流ハンター・ガスだった。


「き、貴様は!?」

「久々だな、お前があのガキのパパさんとは驚きだ」

「生きていたのか」

「生きていたんだよ」


 いつものガスとは違う、ダークな笑みを浮かべると、背中に背負っていた剣を抜いた。


「オトウサン、タスケテ……」

「黙れガラクタが」

「ディアル!!!」


 深々と大剣がディアル(?)の背に突き刺さる。

 パタリと手が地面に落ちた。


「ガス貴様ぁぁあああ!」


 突進してきたディアルパパを、ガスの鋭い視線が射抜いた。


「!?」

「一つ聞く」


 動きを止めたディアルパパに剣が向けられる。


「まだ魔物ハンターを生業としているのか?」

「そうだ」

「ならばお前は魔女様に敵対する者、ここで死ぬがいい」


 言うやガスがディアルパパに襲い掛かった。




 ハンター達は目の前の男に恐れ戦いていた。

 にこやかに笑いながら、返り血一つ浴びず、素手で向かってきたハンター全てを倒し、今は目の前になぎ倒したハンター達を並べ、一人ずつに何やら紙を配っている。

 文面に書かれた言葉を読み、ごくりと息を呑む男達。


 この黒い雨は悪夢を見せ、精神を乱す効果があるらしい。

 ただしそれだけで死に至る事はない。

 他にも魔物をパワーアップさせたり、人間の筋力を奪って弱体化させるという厄介な効果もあり、結果、強くなった魔物が、弱くなった人間を労なく倒す。という仕組みになっている。

 彼が提示してきた案はこうだ。


1.死にたくなければ今この場でハンター業を廃業し、二度と魔物に害を与えぬ事。

2.これを契約した本人、または家族が破った場合、本人と家族に死が訪れる。

3.この契約を退けた場合、この場で魔物の餌となる。


 でたらめな内容ではあるが、本気なのは間違いないだろう。

 並べられたハンター達の周囲には、牙をむき、ヨダレを滴らせる魔物が群を成し、今か今かとハンター達を喰らう瞬間を待っているのだ。

 もし断れば本当に喰われてしまう。死への恐怖心から、ハンター達は紙が渡されるや否や、次々サインを書き込んでいった。


 この青年は魔女の下僕――悪魔、なのだろう。

 爽やかな笑顔はただの仮面、きっとその背には黒い翼が生えているに違いない。

 サインを書き込んで紙を渡した元ハンター達は帰っていい。の一言を告げられるや我先にと逃げていく。


「一言言い忘れてたけど……」


 最後の一人が紙を渡し、逃げようとした時、青年がぽつりと口を開いた。


「この契約は魔物が君達を襲わない、っていう契約じゃないから。死にたくなければ一生森に近付かない方がいいよ」


 爽やかな笑顔がどす黒く染まって見えたのだろう、


「ひ、ひぃぃぃぃ!!」


 最後の一言に、残っていた元ハンター達が転がるように逃げて行った。

 ぐるる……


「ん? なんで殺さないかって? だってヴェイルに嫌われたらやだもん」


 Dr.に聞こえたらただじゃすまないだろうセリフをさらりと魔物相手にバラすと、爽やかお兄さんの仮面をかぶった悪魔は、魔物の群を引き連れてその場を去ろうとした。


「!?」


 音が聞こえるより速く、悪魔……もとい久っちが素早く地面に身を伏せた。


 アオーン


 魔物が示した方角を素早く見ると男が一人、崖の上からこちらを狙っていた。

 久っちに気付かれるや否や、スナイパーは立ち上がって逃げようとした。

 スナイパーは…………短パンだった。

 顔もいい。

 魔女が油断しそうな顔。


(まさかとは思うが、短パン覗こうとしてこけたとか言わないよな?)


 思いながら久っちはすぅっと息を吸い込んだ。



「短パンスナイパーを見つけたぞーーーーー!」



 久っちの叫びに、黒い落雷が久っちの目の前に落ちた。


「く、くくくくく」


 黒い気をまとい登場したのはDr.サディスト。

 一体どれほどのハンターが犠牲になったのか、白衣は返り血で紅く染まっていた。

 スナイパーはすでに逃げ出していたが、Dr.は慌てる事はしなかった。

 ぎゃああ。と遠くで叫び声が聞こえ、人が崖の上から落ちてきた。

 転落する男に黒い稲妻が集中的に浴びせられる。

 地面に撃墜した男の前にDr.が立つ。


「人間の分際で魔女様の命を狙うとはな」


 そっとDr.の手がスナイパーの頬に触れた。


「っひ」

「心配するな」


 優しく表情を和らげたDr.に、一瞬スナイパーの力が抜けかけた。


「延命と拷問の研究はしてある。私が飽きるまでたっぷりと切り刻んでやろう」


 Sッ気全開でDr.がスナイパーに囁いた。


「あ……がぁ……」


 命乞いをするにも、もはや言葉を発する事はできないのだろう、かすれ声だけが喉からもれる。


「これを研究室に連れて帰る。残党の始末は任せるぞ」

「了解」


 言うや久っちの前からDr.とスナイパーが消えた。


「……Dr.こえ~~~」


 久っちの言葉に周りで遠巻きに見ていた魔物達も頷いた。

 とりあえずスナイパーを捕らえた事で、Dr.も多少気が落ち着いたのだろう、雨足が少し和らいだ。


「やれやれだな、これ以上長引いていたら、村どころか大陸がなくなる所だった」


 何気に物騒な事をポツリともらすと、久っちは指示を実行するため、魔物を引き連れて残党を探しに再び森に入って行った。

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