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ディアル物語 ~ハンターから転職して魔物を守る番人になります~  作者: ユメ
第三章

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SIDE:魔女

 酒場の親父は店の隅をチラリと見て、すぐに視線を外した。


 歴戦の戦士と呼ぶに相応しい、体中に無数の傷を持つ大男と、彼を中心にただ者ではないオーラを放つ数人のハンター。

 彼らは明らかに先発の危ない連中とは違う空気を持っている。


 そこに一人のハンターが酒場に入ってきた。

 あの銃を愛でる危険な男だった。

 ぬぅっとリーダー格の大男が立ち上がり、意気揚々としているガンナーの前に立ちふさがった。


「……首尾は?」

「へへ、魔女ならもう死んだぜ、俺の相棒が殺したからな」


 にたにたと笑うガンナーの胸元を掴み、自分の方へと引き寄せる。


「な、なんだよ」

「本当に殺したのか?」

「あ、当たり前だ。俺が打ち仕損じるわけがない!」


 息巻くガンナーに嘆息を付くと、放り捨てるように手を離し、仲間達に視線を戻した。

 それが合図だったかのようにハンター達が立ち上がる。


「魔女の討伐が終わったなら、次は魔物の駆逐だ……」


 大男は椅子にかけてあった剣を手に取る。


「ボクモ、トウサントイク」

「うむ、行くぞ」


 カタカタと動く息子を引き連れて酒場をでる大男に、仲間達も立ち上がって酒場を出て行った。

 ごくりと生唾を飲むと、ガンナーは慌てて銃を手に取り、男達の後を追った。




 蒼白のDr.の腕の中には、頭から血を流し、ぐったりとした魔女。


「魔女様!!」


 頭を打ったらしいので下手に動かすわけにはいかない、ただ呼びかける事しかできな自分にDr.は苛立ちを感じていた。


 息はある。

 死んではいない、否、魔女が死ぬわけがない。


 兎にも角にもまずは魔女の治癒が先決、そっと抱き上げ、魔女を屋敷の中へ運ぼうとしたその時、タイミングよくワイルド系が戻ってきた。


「何があった……!?」

「生命の実を奪ってきなさい」


 振り返る事もせずワイルド系にそう命じるとDr.は魔女を抱いたまま屋敷の中へと入っていってしまった。

 足元を見ると黒いラ・フィナと目が合った。


「拒否権はねぇな」

「きゅぃ」


 ピーっと口笛を吹くと森の中に潜んでいた魔物達が集ってきた。


「行くぞ」


 ワイルド系は一番大きな魔物の背に乗ると、黒いラ・フィナをその場に残し、魔物の群とともに駆け出した。

 目指すはマリオ宅。

 あそこには変えて間もない生命の実がある。


 魔女の住処からマリオ宅まで、普通ならば1時間以上はかかるそれを、魔物ならではの無茶な跳躍と抜け道を使ってガンガン進み、ものの数分でワイルド系達の視界にマリオ宅が見えてきた。

 あそこには久っちがいる。

 だが今はそんな事関係ない、誰にケガをさせようが、今優先すべきは唯一つ。

 生命の実の奪取。


 魔物は足を止める事無く、そのままの勢いでマリオ宅の窓に突進した。

 派手な音がして窓ガラスが割れる。

 視界に映ったのは見知らぬ男と、久っちと人形2体、他には誰もいなかった。

 剣を抜き放った人形を窓から入ってきた他の魔物が牙をむいて威嚇した。

 ワイルド系は目的のものを見定めると、ワンテンポ遅れて逃げ出そうとしたそれを気絶させ、魔物の背に乗せて再び窓から飛び出した。

 それに続いて他の魔物達も撤退してゆく。


 全て、一瞬の事だった。




「ヴェイル!!!!」

「くそ、なんだアイツら!」


 窓際に駆け寄った久っちとノワールが叫ぶ。

 部屋の中は魔物の乱入で滅茶苦茶になり、マリオが帰ってきたらさぞかし悲嘆するだろう散らかり具合。

 だが今はそれどころではない。

 突如乱入してきたワイルド系と魔物の群にヴェイルをさらわれてしまったのだ。

 ヴェイルを助けねば――二人の想いは同じだった。


「今のは一体……」


 声に振り返ると役人がいた。

 そう、今はこれがいたのだ。


「突然魔物が乱入してきて私の助手をさらってしまったのでこれから助けに行かねばなりませんああ貴方には本当に申し訳ないですがどうぞお帰りくださいいえいえ魔女の仲間だと誤解された事は水に流しましょうさぁお帰りはこちらからどうぞ――」


 一気にまくし立てて役人を煙に巻くと、ぐいぐいと背を押してマリオ宅から強引に追い出した。


「くそっ、ワイルド系の奴なんでヴェイルを!」

「ちんたらしてんじゃないよ、行くよ!」

「ああ!」


 正面玄関には役人がいる。

 二人は割れた窓から飛び出すと、急ぎ魔女の住処を目指した。




 ノワールと久っちがヴェイル救出に向かっている頃、魔女の住処に連れて来られたヴェイルは、生命の実を取り出される寸前で目を覚ました。

 生命の実を無理矢理奪おうとするDr.にヴェイルは生命の実を渡さんと必死で抵抗した。


「いやっ!」


 今ヴェイルの中にある実は、あの久っちが魔女の命令に背いてまで守ろうとしてくれたもの、それをどうぞと渡すわけにはいかない。


「ワイルド系、押さえろ」

「……」

「いや、やめて!」

「人形の命より、魔女様の命が大事なのでね」


 Dr.の言葉にハッとヴェイルが動きを止めた。


「ケガをしているの?」

「重傷だ。生命の実でなければ治せぬほどに」


 渾身の力でワイルド系の腕を振り払い、伸びてきたDr.の手を取った。


「このっ……」

「ケガなら、私が治せますわ」


 ヴェイルの言葉にDr.が目を見開いた。




 魔女の事をヴェイルに任せたDr.とワイルド系は魔女が倒れていた現場にいた。

 何があったのか……周囲を見回し、木の幹にのめり込んでいる一発の弾丸をDr.が発見した。


「これは……」


 きゅるきゅると鳴いて何かを訴える黒いラ・フィナにワイルド系がしゃがんで地面を見てみた。


「おいDr.これ見てみろよ」


 地面には血で『短パン』とメッセージが残されていた。


「短パン? なんのことだ?」

「……」

「フェリオン!!!」

「アンタね、ヴェイルをさらったのは! ヴェイルを返しな!」


 息を切らせようやく辿り着いた久っちとノワールを、Dr.は見ようともしなかった。


「……」


 雰囲気の変わったDr.に、びくりと黒いラ・フィナが脅える。

 伸ばされた手が木の幹にのめりこんでいた弾丸を抉り取った。


「おい、フェリオ……」


 声をかけようとした久っちだがDr.の異様な雰囲気に声を詰まらせた。


「……せ」


 無茶な取り方をしたDr.の手から血が滴り落ちる。

 ぽたり、と一滴が黒いラ・フィナの額に落ちた。


「この森にいる全てのハンターを殺せ」



 きゅぃぃぃぃっ!!



 叫び声とともに黒いラ・フィナの姿が掻き消え、突然北の森に雨が降り出した。





「雨が降ってきたな」


 大男が低い声で呟く。


「酷い雨だ」

「ふん、だがこれから魔物の血で汚れるんだ。流れてちょうどいい」


 かざした剣に雨が降り注ぐ。


「魔物の駆逐だ。固まっているより散らばった方が効率がいい、別れるぞ」

「分かった」


 剣を合わせて音を立てると、大男と仲間達は2~3人のチームを組んで別れた。


「行くぞ我ら親子の名をこの森に刻む!」

「ウワーイ、オトウサンダイスキ。ボクガンバル」


 雨音に負けぬ気合に、大男の息子も剣を掲げて応えた。

Dr.が本性を現した

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