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ディアル物語 ~ハンターから転職して魔物を守る番人になります~  作者: ユメ
第三章

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第3話

 東の森を、かつてない大変事が覆い尽くそうとしていた。

 魔物の心を狂わす、白い霧。

 しかも──


「(この霧は……パパです)」

「なんだってーーーーーーーー!?」


 ディアルは思わず絶叫した。




「(僕らは霧から生まれたです。普段はこうして動物の姿をしているけれど、本当の力を解放するとき、原初の姿──僕たちは霧になるです)」


 まさかラ・フィナにそんな能力があったとは……やっぱ可愛いだけの魔物じゃなかったんだなー。

 と、ディアルも今更納得。


「(でも……なんか様子がおかしいです)」

「とにかく、早く森を脱出しようぜ」


 とりあえず、ピョコたんに覆われていれば霧の影響は受けないで済むらしい。

 このまま脱出を──

 と、正面から誰かの足音が聞こえる。これは──


「ルージュ! 無事だったのか」


 ディアルは安堵してルージュに駆け寄った。


「ディアルさん。素直に番人になってくださいな」

「……え?」

「死ねば、番人になれますよ」


 違和感が、確信に変わる。

 ディアルは反射的に木の陰へ隠れた。

 一瞬前までディアルがいたところを、銀色のナイフが通り抜けていく。


「(この人も、霧に操られてるです!)」


 なにぃいいいいいい!?


 そっとナイフが飛んできた方を見てみると、

 ルージュ相手じゃ手を出すこともできないし……さっきの魔物みたく一時的に行動不能にするしかない。

 どうやって?

 くっくっく。このディアル様には奥の手があるのだよ!


「ピョコたん、無敵装甲モード発動だ──GO ON!!!!!」


 ディアルは両腕を高らかと掲げた。

 以前──ピョコたんの中に取り込まれたとき、ピョコたんはどんな攻撃も受け付けない、最強の鎧に変化したのだ!!!

 かけ声とともに、ディアルの体が眩い光に包まれ──なかった。


 しーーーーーーん。


 シュッ!!

 右側から霧を裂いて飛来するナイフ!

 咄嗟に身を捻る。ピョコたんの薄いアメーバ膜を破りナイフは、ディアルの肩を掠めた。



 全然無敵じゃねぇえええええ!!!



 そして辺りを包む霧と同じくらい白けた、ティナの視線……。


「(……頭おかしくなっちゃったですか? いい歳して今のはちょっとキモかったです)」

「う、ううううるせぇっ!! 俺だって恥ずかしいんだよっ!!」


 赤面しながらディアルは辺りに気を配った。

 こうなったら……。

 ディアルは飛んできたナイフを、背中の籠で受け止める!

 間髪入れずナイフを引き抜き、柄を先にして飛んできた方にナイフを投げつけた!!


「きゃぁっ!」


 悲鳴と一緒に、何かが地面に倒れる音。


「……決まったな」


 正確無比にして無駄のない動作。まさに元一流魔物ハンターの本領発揮である。

 悦に浸っていると、


「(さっきの人の様子、見に行かなくていいですか?)」

「そ、そうだった! ルージュさぁ~~~ん♪」

「(……何一つ決まってないです)」


 ふにゃふにゃスキップしながらルージュの元へ向かうディアルの肩で、ティナは深いため息をついたのだった……。




「つーか前々から思ってたんだけどさ、なんで森の番人って生きた人間じゃダメなんだ? 森に侵入してきた人間たちを追い払うなら、幽霊になる必要なんてないじゃん」


 気を失ったルージュを背負いつつ、ディアルは森の出口を目指していた。

 聞けば幽霊になってしまうと、守護する森から出られないという話ではないか!

 さすがにそれは寂しい。


 と──突然目の前を何かが遮った。

 見上げなければならないような、高い崖である。

 確か、森の真ん中らへんにあったことは記憶している。

 おかしい。森の外へ向けて走っていたはずなのに──


「(どうやら、霧のせいで方向感覚も狂ってるです)」

「ぐはぁっ!?」


 さすがに今の言葉はショックだよ。

 これでもさ、ハンターとしての勘と方向感覚には自信があったのに……。

 これも霧のせいなのだろーか?

 ところが。


「今の声は──ディアルくんではありませんか?」


 崖の上から声がする。

 …………マリオさん!?

まさか、マリオさんもこの霧に毒されて……。

 いや、声が聞こえたのは、崖の上から。崖の上には霧が立ちこめていない!

 ──きっと無事だ!

 さっき同様、上から声が降ってくる。


「ディアルくん、薬草は集め終わりましたか!?」

「全部集め終わりましたーーーー!!」

「わかりました、今そちらへ行きま~す!」


 って──


「来ちゃダメだ、マリオさーーーーーーーん!!!!!」


 ディアルが崖の上に向けて怒鳴ると同時に、何かが落ちてきた。


「どうしました、ディアルくん」


 ディアルの持っているのと同じ籠を背負ったマリオがにこやかに笑う。


「ああああああああ……」


 てか、数十メートルもある崖の上から落ちてきて無事なマリオさんって一体──と思う余裕すらなく、ディアルはがっくりとうなだれた。

 そんな彼を余所に、マリオはきょとんと周囲を見渡して、


「……ディアルくん、この霧は一体?」


 って、気づいてなかったんかい!!!


「いやぁ、崖の上で薬草採りに夢中だったもので……」


 ディアルは今まで起こった一部始終を話し、霧を吸い込まないよう警告した。


「ふむ……心当たりならば、ひとつあります」


 マリオは神妙な顔つきで頷いた。


「とにかく、もう一度崖の上に登ろう」


 ここではいずれマリオも霧に操られてしまう。

 この崖の反対側は緩やかな坂道になっていて、容易に崖上へ行けるはずだ。

 ディアルはマリオを連れて歩き出した。


「……北の番人の身に、何かあったのかもしれません」

「北の……? どうして北なんだ?」

「あの人は北の森の番人と言うより、この大陸すべての森を守護する存在なのです。それ以外の森にいる番人はその力の受け皿的な存在であり、それを補佐するのがラ・フィナだと聞きました」

「……つまり何らかの理由で北の番人から力の供給が止まると、他の森にも影響が出るってことか?」


 なんかシリアスな会話でついて行けなくなりそうな頭をフル活動させ、頑張るディアル。


「……他の森にはそれぞれ番人がいるので、北の番人の力が途切れたとしても、しばらくの間は平穏を保っていられますが──」


 この森は番人不在。


「じゃあティナのパパは、その影響で力が暴走して霧に……」


 なぁんだ、自分の素行ゆえにあんなになったんじゃなかったんだなー。

 不謹慎にほっと胸をなで下ろすディアルの袖を、ティナがちょいちょいと引っ張る。


「(この人、何者です?)」


 ちらちらとマリオの方を見ながら、胡散臭げにティナが質問してくる。


「何者って、マリオさんだよ」

「(……たとえば、職業は?)」


 訊かれて口ごもる。村人の怪我をたまに治したり、こうして薬草を集めたりするが、これが仕事だという感じはない。

 わかっているのは、困っている人がいれば必ず助けることくらいだ。


「強いて言えば…………いい人とかじゃね?」

「(そんな職業ないです! それに──)」


 番人とラ・フィナの関係を知っている者は、それに類する者のみのはず。

 番人候補だったディアルすら、知らなかった事実だ。


「まあ、大丈夫だろ。いい人だし」

「(この人、ダメです……)」


 ティナはがっかりしたようだったが、ディアルは違う。


「……ところでディアルくん、そろそろ──」


 と──後ろのマリオが、急に足を止めた。


「…………もしや」


 ディアルはティナと顔を見合わせ──


「そろそろ死んでこの森の番人となってはいかがですか!?」


 ひらりと身を躱すディアル。その一瞬あとで、マリオの短刀が弧を描いた。


「ああああああ、マリオさんまで!!」


 だがいくらいい人とはいえ、マリオさんは一般人。

 霧に操られても、ディアルが手こずるほどの相手ではない!

 背負っていたルージュを崖の側に横たえ、ディアルはマリオを見た。


「――悪く思わないでくれよっ!」


 ディアルは一気に間合いを詰め、寸分違わず鳩尾に拳を叩き込む!

 正直、マリオさんにはこんなことはしたくないんだが――

 ──ゴキッ!


「(…………ゴキ?)」


 不穏な動きにティナが首を傾げる。ディアルはそれに応えることができなかった。



「いっっっっっっってぇえええええええ!!!!」



 突如マリオの前に現れたのは、裸の白い人形だ。薄茶色の植毛を振り乱しながら、硬い体でディアルの拳を受け止めた──


「カタカタカタ……」


 腹話術人形のような口で、冷たく笑う人形。


「こここ怖ッ!!」


 腰を360度回し、人間ではあり得ない動作で蹴りが飛んでくる。しかも足先には、鋭利な刃物のようなものが埋め込まれていた。


「うおわあああああっ!!!」


 半ば逃げるようにして、ディアルは距離をあけた。ディアルそのものには当たらなかったが、その周りを薄く覆うアメーバ・ピョコたんがちょっと裂けた。

 距離をあけてみると、不気味人形がマリオを守るようにもう一体増えていた。


「……クックックック」


 不気味人形の後ろで、さらに底冷えを誘う嘲笑。


「ちょ……マリオさん? 目がちょっとオカシイ……」

「心配ご無用ですよォオオ! 私があなたを立派な番人に変えて差し上げます!!」


 マリオが両腕を掲げると、不気味人形が一斉に動き出した。

 左右同時に、人間離れした速度で襲いかかってくる!


「くそっ!」ディアルは腰の剣を抜いた。


敵が現れた!


不気味人形A&B

 HP???  MP???

 攻撃力??? 防御力???


 ディアルの剣が、不気味人形の腕を受け流す。

 そのまま不気味人形の背後に回り、剣を振り下ろす──


「これで一体!」


 だが──不気味人形の左腕が、ディアルの剣を受け止める!

 どうやらすべての関節が360度の回転が可能らしい。

 人間が相手だったら、確実に決まっていたはずだ。


「そんな攻撃では、私の可愛い僕に傷ひとつ負わせることはできませんよォオオ!!」


 もう一体の人形が迫る。ディアルは剣を受け止めた人形を蹴飛ばし、距離をあけた。

 と、二体目の不気味人形の口から、剣が飛び出した。

 そのまま首が、凄まじい速度で回転し始める!!

 仕方なく、ディアルはそれを剣で受け止めるが──


「うわぁっ!?」


 軽く触れただけで、大きく吹き飛ばされ、崖に叩きつけられた。

 呼吸が強制的に止められたためか、単に怖いだけか、ディアルの目尻に涙が浮かぶ。



「ヒャーーーッハハーーーー!!! 惰弱惰弱惰弱ゥウウウウ!!!!」



 って負けず劣らずマリオさんも怖いことになってるし!!!!


「心配いりませんよディアルくん。二度と肉体に戻りたいなんて思わないくらいに切り刻んであげますからねェエエ!!!」

「てか、どうしちまったんだ、このマリオさんの変貌ぶりは!!」


 完全に目がイッちゃっている、いい人ことマリオ。


「(もしかしたら、これがあの人の本当の人格なのかもしれないです)」

「ば、馬鹿な……」

「(この霧は、人の本性を引き出して操るです)」


 ガガーーーーーン!!!


 とショックを受ける間もなく、ディアルは慌てて横転した。

 不気味人形の腕が、今までディアルが背にしていた土壁に深々と突き刺さる……。

 とにかく、この人形をなんとかしなければ。

 だが、不気味人形の動きにも慣れてきた。


「いつまでも、情けないままだと思うなよ!!!」


 ディアルは不気味人形の攻撃を紙一重で躱し、腹部に剣を突き刺した!!

 人形の動きが、ぴたりと止まる。

 倒した?

 安堵しかけたその瞬間、不気味人形ががばちょと目と口を開いた!!



「キィイイイイイイイイイイイ!!! イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイィイイ!!」



 世にも恐ろしい奇声をあげながら、四肢を闇雲に振り回す!



「ぎゃあああああああああああ!!! 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いィイイ!!」



 ディアルは突き刺した剣もそのまま、一目散に逃げ出した。

 とにかく、霧のないところへ。

 霧さえなくなれば、マリオさんも正気に戻るはず!

 そのとき、不気味人形の一撃がディアルの肩をかすめた。

 ピョコたんの切れ目から、ティナが飛び出してしまう。


「きゅきゅ~~~~!!」


 ティナのもこもこの手が、こちらに差し伸べられる。

 ディアルも手をのばすが──虚しくもその手は結ばれることはなかった。


「きゅ~~~~!!」

「ティナーーーーー!!!」


 霧の中へと消えていくティナ。

 ディアルは涙を堪えて、走り出した。


 なんかシリアスな締めでごめんなさい──

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