SIDE:魔女
VSエドガーくん(短パン装備)
俺はエドガー、超一流スナイパー。
今回討伐隊に参加したのは、人を殺しても罪に問われる事がないから。
くくく、何も知らずに獲物が一人で立っていやがる。
あれが魔女か、もっと邪悪なのを想像してたが、殺すのが惜しいぐらいだな。
まぁいい、獲物は見つけたら即殺すに限る。
ターン
長く響く軽い音。
俺の心を捉えて放さない、魅惑的ないけない音だ。
お前の音を聞くたび、背中がぞくぞくするぜ。
弾は確かに魔女に命中した。
倒れたのがいい証拠だ。
あばよ、アンタに怨みはないが金と趣味のためだ。
はは、人殺しはやめられねぇなっ!
全てが始まる少し前、村にある宿屋を兼業している酒場にて、討伐隊と役人の姿が見られた。
今は情報収集に出、ここにはいないが討伐隊のハンター達は、銃を抱きかかえて悦に浸る危ない系、黙々と罠の準備をする朴念仁、少女マンガを読みながら不気味な笑いを浮かべる肥え気味君と、どいつもこいつも危険度MAXな連中ばかり。
そんな危険な連中ばかりが集まった討伐隊を率いる役人は、オールバックヘアの眼鏡をかけたインテリで、理屈も屁理屈も何も通じそうにない、岩石よりも頭の固そうな人物。
今回の魔女討伐を考案し、部隊を集めたのもこの役人。
イケメンっぽい面影はあるのだが、眉間に寄せられた皺が全てを台無しにしている。
気難しそうな性格が前面に現れた生物、こいつはまだ独身だ。酒場の親父は断言した。
「……」
情報を整理する役人の眉間に刻まれる深い皺。
手元にある情報は村人や、北の森に入った事のあるハンターから集めたものだ。
以下、報告文。
・白いフリルのエプロンをしたマッチョを見た。手作りらしく、芸術的な出来だった。
・殺伐とした森には似合わない、ファンシーな女の子と遭遇、声をかけたら突如現れたナイスガイに殺されかけた。
・白衣の男と遭遇、相棒が怪我をしていたので助けを求めたら、「解剖させろ!」と言いながら血走った目で追いかけてきた。相棒は見捨ててきた。その後は不明。
・ファンシーな女の子を花畑で見た。ワイルドな男と楽しそうに編み物してた。
・黒い毛玉に喰われかけた。
・でっかいアメーバが森の奥へと消えていった。胃の中には凶悪な魔物が入っていた。
・可愛い娘と遭遇。「っけ」と一言、立ち去られた。なんか、傷付いた。
こんな報告ばかりなのだ。
本当は正確なのだが、報告された役人は真偽のほどを信じかねていた。
欲しいのは魔女に関する報告、なのに手元に集まったのは魔女以外の報告、それも意味不明なのばかり。
魔女は美形をさらい、魔物を操り、数々のハンターを闇に葬ってきた。
もし魔女を討伐する事ができたなら、昇進できると確信したからこそ、役人はハンターを集めて討伐隊を組み、ここにいるのだ。
肝心の魔女の目撃情報が皆無では、後から本隊が来ても動けない。
とんとん、ともう一つの書類を叩く。
書類にはマリオに関する情報が幾つも書かれている。
貧しい者からは料金を取らない神様みたいな先生、助手らしき女子が二人いる、優しくて素敵な人……などなど、どれもこれもマリオを賞賛するものばかり、だが役人が目を付けたのはマリオの居住している場所。
森の入り口付近。
クリィタ大陸を囲む森は、どの森にも魔物が棲んでいる。
一歩踏み込めばそこはハンターすら生きて帰れるかわからぬ場所、そんな森に住む医者が普通の医者であるはずがない! 役人はマリオが魔女と通じていると、確信に近い思いを抱いていた。
討伐隊が森に入る間、役人はマリオ宅に行く。
そしてマリオが少しでも不審な行動を取れば、魔女の仲間として即逮捕する予定だ。
バターーーーーンッ!
喧しい音を立てて酒場に駆け込んできたのは、物静かなはずの罠マニア。
銃を愛でる男と肥え気味がいない。
ぜいぜいと息を吐く罠マニア。
「……ごっつい男が、花畑で、レース編み、してた」
がたがたと震えながらそんな事を口走った。
「他の二人は?」
だが堅物の役人はすっぱりとそれを無視した。
「す、スナイパーは魔女を撃ちに行った。もう一人は、わからない」
役人が選んだスナイパーは、何かを殺したくてハンターになったような奴だった。
人を殺すために生まれたと言い切れるぐらい、人を撃ちたくてうずうずしている人物、あれなら確実に魔女を殺せる。
すくっと役人が立ち上がった。
「出掛けます。後発部隊がきたら隊長の判断で動きなさい」
そう一言言い残し、役人は酒場から出て行った。
「いい事思いついた」
にんまりと魔女が悪い笑みを浮かべる。
「……お昼にしましょうか」
それを盛大に無視してDr.が立ち上がる。
白衣も手も怪我した魔物の治療で血だらけだ。
それが似合うからたちが悪い。
「ちょ、聞いてくれたっていいじゃない!!」
「貴女の思い付きはろくな事がありません!」
振り払おうとしたものの、魔女は執念でDr.にしがみ付いた。
「凄ぉくいいアイデアなんだって、本当なの、マジ、マジ!」
「っく、は、な、し、な、さ、い!」
「アメーバさ、細かく砕いて森にばら撒くだけでいいのーー!」
「アンタは本当に何考えてんだーーー!」
おっそろしい提案をしてきた魔女の顔を押さえつけ、なんとか自分から引き離そうとするDr.だが今日の魔女は引き下がらない!
「そうだ! Dr.に目玉焼き作ってあげるから!」
「ワイルド系に作ってもらうから結構です!」
「ならばスクランブルエッグとか!」
「久っちと違うんです、食べ物で釣らないでください、っていうか、レパートリーを増やしなさい、レパートリーを!」
「増えたよ、玉子焼き!」
「玉子料理以外を増やせ!」
「じゃあ増やすからここに印押して!」
「乗ったぁ!」
Dr.は何が書いてあるかも分からぬ書類に勢いで判を押した。
「……ん?」
気付いた時には全て遅い。
魔女は書類をぺらぺらさせながら、上機嫌でにまにましている。
「ちょっと、それ、中身見せなさい」
「えー、ただちょっと。『私、フェリオンはアメーバの使用を許可します』って書いてあるだけだよ♪」
可愛く言っても魔女のキャラじゃないので、Dr.には全く通じなかった。
「返しなさい」
アメーバと言えば一種類。
受けた攻撃を全て吸収し、一瞬のうちに耐性をつけるあの恐ろしいアメーバしかない。
しかも思いつく限り、一通りの攻撃はDr.がやっちゃったので、もう効きそうな攻撃は残っていない。
あれを回収する時、それはそれは苦労した。
それを細かく砕いてばら撒くと魔女は言っているのだ。
ハンター狩りの案としてはまぁまぁだろう、だが――回収はどうすんだ。という事。
ハンターを食った後、村とかに侵入するのを止める手立てはない。
あのアメーバなら大陸一つ喰らいつくしても不思議はない、そんなもの思いつきで解き放つわけにはいかなかった。
それを魔女は解き放つといい、Dr.はなんか許可する書類に判を押してしまった。
ここに久っちがいたら言っただろう。
勘弁してくれよ。と。
「そうねぇ、フェリオンがー、うふふふふふ」
笑いながら近付いてくる魔女に、さすがのDr.も一歩下がった。
「ちょと一休憩して、お庭でお昼一緒してくれた返してあげる」
「……」
がっくりと脱力する以外に、どういうリアクションをこの女に返したらいいのだろう?
「そうしたいならそうしたいと、最初っからそう言ってくださいよ」
「えー、だってフェリオン、魔物達ばっかりかまってるんだもん」
「治療しているだけです」
もはや浮かぶのは苦笑い。
「ワイルド系が用意してくたお昼があります、一休みして庭で食べましょうか」
「やりぃ!」
「先に行っててください」
「もちろん♪」
魔女は上機嫌で、鼻歌まで歌いながら一足先に庭へと出て行った。
Dr.はワイルド系が用意したお昼を台所に持ちに行った。
そして台所に用意されていたお昼は、なぜかピクニックかごに入っていた。
なぜか手持ちポットが用意されている。
なぜか地面にひくシートまで用意されていた。
なぜ!?
さらに三点セットの側には小さなメモ。
――Dr.へ。俺はお花畑で新作を作ってくるが、夕食までには帰る。魔女様の希望通り、ピクニックセットを用意しておいたから、二人で食べてくれ。 byガイ
しばし思考が停止していたDr.だが、ハッと我に返ると、全てを諦めて三点セットを手に取った。
全部最初から仕組まれていた事だったらしい。
(まぁたまには)
台所を後にするDr.の口元には、楽しげな笑みが知らずと浮かんでいた。
「ふんふんふふ~ん♪ 庭でピクニック~♪」
上機嫌の魔女は庭に出ると、一本の木の前に立ってDr.を待った。
朝の内にワイルド系に頼んでおいたから、お昼の用意はバッチリ。
やっぱりこんな天気の良い日は外で食べなきゃ損である。
と、その時だった。
「!」
細く長い音が響くより速く、魔女は身を後ろによじった。
弾が魔女を通り過ぎ、後ろの木へめり込んだ。
(討伐隊か!?)
反撃しようと撃ってきた人物がいる方角へ視線を飛ばす。
「!!!!!!」
美形だった。
そりゃもう、とっても美形。
しかもいい年こいて短パン。
(もうちょい後ろに下がれば見え、る……?)
身体をさらに仰け反らせた魔女だった。が。
(うおっ!)
身体のバランスを崩し、後ろへ倒れる魔女。
ゴスッ
鈍い音がした。
嗚呼、世の中にこんな事があっていいのだろうか!?
なんと魔女は青年の短パンを覗かんとさらに身をよじらせた。
結果。そりゃもう盛大にすっ転び、後ろの木にしたたかに頭を打ちつけた。
スナイパーは弾が当たったと勘違いして立ち去ったから結果オーライ――なんて、世の中そんなで終わるわけがなかった。
魔女が気を失った瞬間、森全体の雰囲気が変わった。
「!」
「あん? どうしたんだ?」
いきなり立ち上がった久っちに、くつろいでいたノワールが顔を上げた。
久っちの顔が蒼ざめている。
「魔女様の身に何かあった」
いつになく厳しい表情の久っちに、ノワールとヴェイルもただ事でないと察した。
「すまない、俺、帰る」
ガタガタとあちこちに足をぶつけながら玄関に向かおうとする久っち、その時だった。
ピンポーン
嫌がらせをするかのように、玄関のチャイムが鳴った。
「魔物討伐管理局の者です、マリオさんに窺いたい事があるのですが――」
ノワール、ヴェイル、久っちの三人の間に緊張が走る。
「俺の命がヤバイぜベイビー」
重々しく久っちが呟いた。




