ディアルの受難2
このお話は魔物の可愛さに負けて、魔物側に寝返った主人公・ディアルのお話。
かの名はディアル!
森を守護するぬいぐるみ、もとい『ラ・フィナ』とともにお使いにきたディアル。
前回は美女に出会って出会い頭に告白をした!さぁどうなる!!
「お付き合いしてください!」
そう叫んで終わった前回。
あれからどうしたかというと……
「大陸を囲む森は4つの縄張りに別れていて、貴方のいた東に白、この森、つまり西に蒼色がいるように、南と北の森にもそれぞれ番人と『ラ・フィナ』がいるのよ」
完璧に無視された。
無視されただけでなく、事細かに森の説明までされてしまっている。
「南の番人の名は『ロイナ』、南にいるのは紅い色なのよ、この子達とはちょっと違って角が二本あるんだけどね、みために反して気性が荒いから気をつけた方がいいわ」
「あ、あの……」
「北は最後に行った方がいいわ。あの森を守っている番人は変わり者で……北だけは他と違って険しい岩に囲まれたり、滝があったり、別名『迷いの森』と言われているだけあるんだけど――」
「リィーさん!」
淡々と南と北の説明をするリィーにディアルは半泣き状態で悲鳴をあげた。
あまり頭が広くないディアル、一気に説明されて混乱したのだ。
「大丈夫大丈夫、ティナが簡潔に話してくれるわよ」
にっこり笑顔を浮かべて微笑むリィー。
悲しいけれどやっぱり美しい。
「キュー」
「ん?行くか?」
「キュッキュー」
「じゃ……」
別れの挨拶を、と振り向いた時にはもうリィーはいなかった。
「そ、そんな……」
「キュ?」
「リィーさんがいない~~」
「(彼女は人間じゃないです?)」
「はい?」
「(今年で200歳になる幽霊さんなのです。肉体は果てましたが、蒼のラ・フィナの力でフツーに生きているんです)」
「……マジ?」
「(マジです)」
ガッコーーーーーン
振るも振られるもあるわきゃない。
いやしかし!相手が幽霊だからと言って引き下がるのか!?
「幽霊……はは、あははははは」
ショックのあまり口も聞けないようだ!コリャ可哀想になぁ!
「ふぇ~んリィーさん、どうして死んでるんだぁーーー」
「……(君が死んだらもう一度アタックするといいです)」
同情的な目でディアルを見つめながら、二人は南の森にむかって突き進んだ。
「……そういえば南のは気性が荒いって……」
「(みなしゃんはマグマの熱から産まれたらしいです。蒼は水、僕らは霧から産まれたんです)」
「……ほへぇ、じゃあ北は?」
「! キュカキュキュキュ」
質問した途端に動揺したティナ。
すんごく不審なものを感じながら、とりあえず二人は南の森に着いた。
北の事を質問してからまったく視線を合わせてくれないティナ、気のせいか汗が流れている気がした……。
「にしてもさ、どうして俺が回ってるんだ?リィーさんとかは回らないのか?」
「(みなさん森の力で生きている人です。森から出たら消えてしまうです)」
「あ、そういう事ね」
ふとティナの言葉に引っかかる物を感じたディアル。
「みなさん?―――――まさか!俺以外は全員幽霊とか!?」
「(となりますです)」
――騒がしい。
突然聞こえた森に響く低い声、ざわりと森が騒ぐ。
気付くと二人は森の奥地まで辿り着いていた。
ガサガサと草を分けて南の『ラ・フィナ』が現れた!
リィーが語ったようにまるでマグマのように紅い毛皮、悪魔のようなねじれた2本の角!
目はルビーというより充血してる!?
牙には可愛さは感じられない、まさに殺すための凶器にみえてしまう。
HP????
MP????
測定不可能な能力を持つ敵とどう戦う!
頑張れディアル! 負けるなディアル!
勝算なんて欠片もないけどね!
「え?戦うの???」
「(戦いませんです)」
「……騒がしいと思ったら、新しい奴か」
紅いラ・フィナの後ろから現れたのはまさに『美男子』!
まるで月の欠片のような長い金の髪!凍るようなアイスブルーの瞳!
一人や二人でなく、千や三千は殺してそうな全身から滲み出る危険なオーラ!
全身を白い服に包んでいる不自然さを、頭に来るぐらい見事に着こなし、面白くもなさそうにディアルを見下す。
ディアルとは月とすっぽんのごとく!
微笑めば死人が出るほど美男子だ!
「ロイナ?」
「様をつけるのが妥当だろう、用が済んだらさっさと森から去れ」
冷たいセリフを言い捨ててロイナはさっさと森の奥に消えた。
西の理想の美女は幽霊、南は予想を裏切り男。
「ティナ、北にはどんなのがいるんだ?」
「………………(最強です)」
ディアルの前途多難なおつかいはまだ終わっていない。
ディアルは知らぬ内に精神ダメージを受けた。