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ディアル物語 ~ハンターから転職して魔物を守る番人になります~  作者: ユメ
第二章

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第7話

「……なんで俺がこんな目に遭わなきゃならねぇんだよっ!」


 何を今更──と思うようなことを、木の裏に隠れながらディアルはぼやいた。

 息をつくと同時に、タン! と小気味のよい音がして、隠れた幹にナイフが刺さる。

 肩越しに背後を見ると、世にも恐ろしい追跡者が迫ってきていた。


 一人は大剣を背負った大男。

 ナイフを投げてきたのもこいつだ。

 もう一人は彼と腕を組み、片手でスカートの裾を上げながら、笑顔で走ってくる美女である。


 美女はイリア、大男は確か──うろ覚えだが、ガスとかいう名前だったような気がする。

 ディアルは全速力で逃げているのだが、大男はともかく、か細い足のイリアまでもが追いついてきているのは驚きの一言に尽きる。


「お、俺はただ、森で偶然出会ったイリアに、『生命の実』のことを訊ねようとしただけじゃんかー!」


 ところが間の悪いことにそこへガスが現れ、問答無用で敵視されてしまったのだ。

 まあ、自業自得っちゃ自業自得だったりするけどさ。

 これでは『生命の実』どころの話ではない。一旦彼らを振り切って、それから──


 しかしそんなグタグタな展開、誰も望んじゃいない。

 ディアルの目の前に現れたのは、高い高い絶壁だった。

 後ろからは、信じられない速さで二組の足音が近づいてきていた……。





「HAHAHAHAHA。『生命の実』、おっ届けー♪」


 無駄なくらい爽やかな青年は、扉をノックもせずに部屋へ入ってきた。

 部屋の主──マリオは、そんな彼を邪険にするでもなく、むしろ笑顔で出迎えた。


「あれ? 予定じゃ明日だと聞きましたが?」

「格別のお計らいでね」


 首を傾げるマリオに対して、ウィンクかました青年はあくまでラブリー。


「ありがとう、これでヴェイルも助かります」

「そういや、番人見習いは? ここで生活してるんしょ? そろそろ結果を出さないとダメだって、うちのボスが怒ってたよ」


 彼の言う『うちのボス』とは、北の番人のことだ。


「ああ、『生命の実』を採ってくるって息巻いてたんだけど……噂をすれば、ほら」


 ガタン、と扉を叩く音が聞こえた。

 続いてギギィ……と扉が開く。

 が、そこにいたのはマリオの想像した人物ではなかった──


「ルージュ? どうしたんだい、そんな急いで」


 彼女は近くの村へ、食料の買い出しに行っていたはずだ。

 今にも倒れそうな彼女の肩を、マリオは支えた。




「……これは意外に予想外でしたねー」


 ルージュから話を聞いて、マリオは深々とため息をついた。

 居合わせた爽やか青年は、相変わらずの爽やかをキープし続けている。


「まさかディアルの親父が、ディアルを連れ戻しに来てるなんてな」


 男口調な美少女・ノワールが逆向きに椅子にまたがりながら、ぼやいた。


「で、今はどんな感じで?」

「今日は村に逗留するようです。明日、ここへ来る予定だそうですわ」


 ここにはたまに、急病の村人がマリオの薬を頼って訪れたりするから、ディアルっぽい人がここに住んでいることも、なんとなく知れ渡っているのかもしれない。

 他人を装ってルージュが聞きだしたところによると、ディアル父は息子が番人──つまり人間の敵になろうとしていることを知り、阻止しに来たのだそうだ。


「代々、由緒正しき魔物ハンターの血筋であるにもかかわらず、よりにもよって番人とは何事ぢゃーーーー!!! と、叫んでおられましたわ」

「それはちょっと面倒かもねー」


 そう呟いたのは、番人サイドの爽やか青年だ。

 マリオとしても、もしディアルを連れて行かれて番人の機嫌を損ねたりしたら、ちょっと厄介だ。


「まあ、ディアル君がその父上に会って、断ってくれるのがベストなのですが……」

「でも彼、死ななきゃ番人になれないって知っちゃったからねー。もしかしたら、思いっきり気持ちが揺らぐかもよ?」

「なら、いっそ会う前に親父を殺っちまえばいいじゃねぇか」


 そのことを知って知らずか、ノワールが物騒なことを言う。

 が、その辺の意識が微妙にずれているのが彼ら。

 ノワールの意見にツッコミを入れるどころか、


「そう思ってわたくしが2、3度襲撃を……といっても姿を見られたくなかったので、物陰からナイフを1ダースほど投げつけただけですが……」


 冷静に返すルージュ。


「で、どうだったんだ!?」

「躱されました」

「……マジかよ」

「ええ。あっさりと。それもイナバウアーで」


 言葉を失うノワール。

 ルージュは普段こそ、のほほんとしたおっとり系を装っているが、彼女が連続で投げるナイフを避けるのはノワールですら難しい。

 それすら、来るとわかっているときのことである。


「強敵……のようですね」


 ディアル似の中年の姿を思い浮かべるマリオの頬に、汗が一筋伝った。


「力押しでは厳しいでしょう。搦め手で行きます。お前も付き合いなさい」

「オッケー♪ お任せぇ!」


 爽やか青年は、心底楽しそうに頷いた。




「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ガスとイリアに捕まって折檻され、ズタボロになりながらもディアルは森の中を歩いていた。

 これまでなら、もはや歩けないほどのダメージを食らっているはずだが──マリオたちに改造された今のスーパーディアルなら大丈夫。

 正直、改造された当時は何か大切なものを失ったような気がしたが、こういう状況下の多いディアルにとっては大助かりだった。


「よっしゃー、まだまだぁあ!! 『生命の実』目指して突き進むぜ!」


 ディアルは頬を叩いて気合いを入れ直し──目を丸くした。

 木々の向こう。 

 絶望的に不似合いなフリル付きのエプロンを装着した、ワイルドな男がいたためである。


「お、お前は……」


 ワイルド系もこちらに気づいたようだ。

 外見に似合わす優しげな瞳に、メラメラと敵意の炎が灯る。


「に、逃げろぉおおおおおお!!!」


 ディアルは再び逃げ出した。




「で、どうすんだよ」


 マリオ家にて、たった4人の作戦会議は始まっていた。


「簡単なことですよ。ディアル君を帰してしまえばいいのです」


 マリオの言葉の真意がわからない一同。


「ディアル君そっくりの人形を作って、それを持ち帰らせればいいのです。幸い、ここには命なきものに命を与える、『生命の実』もありますし」

「まあ。素晴らしいですわ」

「それ以外に方法はなさそうだね」

「決まりだな。それでオレたちは何をすればいいんだい?」

「ルージュはディアル君の外見をなるべく細かく描き出してください。ノワールは本物のディアル君の様子を見て。必要とあれば足止めを。ヒサヤは……夕食の準備をお願いします♪」


 てきぱきと指示を与えると、マリオは円陣を組んだ。


「すべては番人の機嫌を損ねないために! やるぞー!」

「ファイ、オー!」


 なんだか体育会系のノリになりつつ、4人はそれぞれの役目に向かった。


「……間に合うのか?」


 爽やか青年が、マリオの肩を叩く。


「それはアナタの夕食次第ですよ」

「んじゃ、いっちょ腕をふるっちゃおうかな♪」

「アナタの料理、久しぶりですね」


 マリオは懐かしそうに彼の後ろ姿を見送った。




 ワイルド系から逃げ切る頃には、陽がどっぷり暮れてしまっていた。

 いい加減、草木を掻き分けて進むのにも飽きてきた。

 遮二無二逃げまくったため、方向感覚も狂っている。


 ──そろそろ帰ろうかな。


 ディアルは頭を振る。


「ダメだ! 『生命の実』を見つけるまで、今日の俺は帰らない!!」


 奮起して顔を上げたディアルは、そのとき始めて森が途切れていることに気づいた。

 いや、まだ森が続いているのだが、何かが違う。

 雑草がなく、木の枝も選定されていて、明らかに人の手が入っている。

 そして──木には夜の闇にも輝きを失わない果実が、たわわに実っていた。

 ただし1個だけ。だが1個あれば充分。

 見つけたときの、狂喜乱舞っぷりったら。


「生命の実キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!!」


 って感じ?

 急いでディアルは果実をもぎ取り、ほくほく顔で帰途につこうとした。

 が──ガサリ。

 後方で気配が揺らいだ。

 反応するよりも早く、ディアルの足を何かが絡め取った。


「生命ノ実ヲ返セ……」

「うぉわっ、木が喋った!?」



 生命の木が現れた!

 HP1500  MP255

 攻撃力55  防御力152



 戦闘態勢を取ろうとしたが、触手のように動く枝に足を掴まれたディアルは、簡単に逆さ釣りにされてしまった。

 そして幹の腹にぱっくりと口が開き、ディアルを呑み込んだ!


「くそっ、こんなところで死んでたまるかァアアアアア!!!!」


 閉まりかけた口をど根性でこじ開けようとするディアル。

 だが、何かが飛んできたかと思うと、急な睡魔がディアルを包んだ──




 翌朝──


「ご主人様。ターゲットが村を出ました」


 マリオが朝食をちょうど採り終えた頃、ルージュから報せが入った。


「ご苦労様です。こちらも準備はできています。ディアル君の方は?」

「それが意外に順調でさ。生命の実をゲットしたんだけど、生命の木に取り込まれちゃってさ。口が閉まる前に、睡眠玉を投げておいたから、まだ時間は稼げると思うぜ?」

「あらあら。目が覚めた頃には消化液で溶かされていなければいいですけれど」


 あまり困っていない口調のルージュ。

 そして、マリオ渾身の作品が、ついに登場する!

 地下室から、一歩一歩確かな足取りで現れるニセディアル。

 そのクオリティに、一同は思わず目を剥いた!


「……どうしたんですか?」


 なんだか妙な雰囲気に、マリオが問いただすが……一人一人、指摘してくる。


「ご主人様、ディアルさんの髪型が七三になってますわ」

「肌はもうちょっと色黒だったような気がするぜ?」

「あははは、なんだか偽物オーラが出まくってるよ♪」


 いわれてみれば七五三のようなディアル君。

 ビジュアル的な得点は悪そうだが、まだ挽回は可能。


「だ、大丈夫です! 性格ルーチンは完璧にインプットされているはず──」

「コココンニチハ、ボクディアル……ボク、オウチ、カエリタイ……」


 露骨に棒読みなニセディアルに、失望を露わにする一同。


「……いくらなんでもやっつけ仕事すぎだろ」


 呻くようなノワールの言葉に、ルージュと爽やか青年は頷いた。

 ぽつり、とマリオ。


「作り直し……ですかね?」


 刹那!


 ブイーン、ブイーン、ブイーン!!


 マリオの家に警報が鳴り響いた。


「HAHAHAHAHA、もうこの近くまで来ているようだねぇ~」


 あくまで爽やかな青年の言葉に、三人は固唾を呑んだ。




「ん……ん……」


 ディアルは真っ暗な狭い空間で目を覚ました。

 上から何かが降ってきては、焦げ臭い匂いを放っている。


「そういえば、俺は確か──」


 昨夜の出来事を思い出してビックリ!!

『生命の実』は──まだ手元にある。

 ディアルは剣を構え、樹木の外へと飛び出した。

 陽の当たる場所で自分の姿を見下ろすと、消化液で服がボロボロになっていた。


 だが!

 そんなことは言ってられない。

 走って走って走って、ヴェイルさん今あなたのもとへ!!




 その男はディアルをそのまま老けさせ、威厳の鎧をまとわせたような風貌だった。

 ディアル父(名称不明)。


「こちらに息子がいると聞いたのだが?」


 なんだかディアルの父とは思えないくらい、男臭い男である。

 ゴ○ゴ13のような鋭い視線に、顔や体を縦横無尽に奔る傷跡。

 戦う前に、もう勝てないような気がしてくる。


「はい。こちらに」


 マリオは半ばヤケクソ的に、ニセディアルを見せる。

 が──ディアル父は、ニセディアルの足先からてっぺんまでじっと見、やがて、


「これが本当に息子なのか?」


 ああああああああ、やっぱ疑ってるし!!


「コココンニチハ、ボクディアル」

「ご本人もこのように申しておられますわ」


 完全に貼り付けた笑みのルージュに、ひとまず頷くディアル父……。


「貴様が番人候補になってから、魔物に与する者として我らのところにまで魔物ハンターが襲撃してくるようになったのだ。いちいち返り討ちにするのも面倒くさくなってきたからな。貴様を番人にするわけにはいかん。帰るぞ」 

「ボク、オウチ、カエリタイ」


 ドンピシャなその言葉に、ディアル父はかえって怪訝そうにニセディアルを覗き込む。


「各々がた、本当にこれが息子なのでしょうな?」


 違ったらぶっ殺す的な視線を投げかけながら、ディアル父。

 何しろルージュの奇襲すら躱すような男である。

 ケンカになると非常につらい。

 と、そのときである!


 ガサリと森が揺れた。


 マリオ、ルージュ、ノワール、爽やか青年、そしてディアル父。

 五対の視線が一カ所に集まる。

 そこから出てきたのは──



「ちょぉおおおおおりゃぁああああああ!!!!!!」



 いや、出てきそうになった男の顔にノワールの蹴りが炸裂し、森の中へ押し戻す。

 「とにかく!」咳払いとともにマリオがニセディアルの背中を押しつけ、捲し立てる。


「そうですかディアル君がこっちに来ていることであなたたちまで魔物の仲間だと思われているんですか可哀想ですねだったらこのディアル君を連れて一刻も早くお帰りくださいませ」


 マリオは猛ダッシュで交渉を進めるのだった……。




 あそこにいるのは、間違いなく自分の父――

 蹴られた顔面をさすりつつ、ディアルは状況を把握しつつあった。

 ていうか、


「さよなら、ディアル君!」

「お元気で、ディアルさん」

「じゃあな、達者でなディアル」

「バイバイ、ディアル君」


 などと皆で手を振っているところを見れば、違うシチュエーションを思い浮かべる方が難しい。

 答えはひとつ。

 父は番人になろうとしているディアルを、連れ戻しに来ている。


 自分はどうしたいのだろう――ディアルはガラにもなく、シリアスに考えた。

 このままここに留まれば、いずれ番人にならねばならないだろう。

 番人になるということは、死ぬと言うこと。


 死ぬのはイヤ。


「待ってくれ!!」


 ディアルは感極まって、森から飛び出した。


「俺が本物のディアルだ!」


 ディアルは父に向かって叫んだ。

 ダメなのか、もう――マリオたちのこちらを見る表情が、そう語っている。

 ディアルは大事に持ってきた『生命の実』を彼に渡す。


「マリオさん、魔女を倒すって約束を守れなくてごめんよ。自分勝手だとは思う。だけど、考えた上での結論なんだ。その代わりに、この『生命の実』で、ヴェイルさんを元気にしてやってくれ」


 やっぱり我が身が一番可愛い。

 ごめんよ、マリオさん……ごめんよ、ティナ……。

 マリオの優しい手が、ディアルの肩を叩いた。


「……わかりました。なんだか死ぬほど大変なおかんむりを受けそうですが、ここは腹をくくりましょう。いきなさい、ディアル君!」


 やっぱりマリオさんは最後までいい人だった!

 それを胸に、新しい一歩を踏み出すのだ。魔物ハンターとしての――

 ディアルは筋骨たくましい父に、手を伸ばす。


「ただいま、とうさ――」


 ディアルの手が父に触れると思われた瞬間、すっかりできあがった感動の別れムードをぶった切って、ごっつい拳がディアルの顔面を強襲した!


「うべぇえええええええっ!?」


 嵐に舞うボロぞうきんのような体で吹っ飛ぶディアル。


「な――なぜだ」


 痙攣しながらも立ち上がり、問う。


「貴様のようなゴリラ人間を息子として育てたつもりはない。失礼する」


 語気も荒く言い放つと、ディアル父は踵を返した。


「んな、馬鹿な!?」


 信じられない面持ちのディアルだが、意外にも他のみんなは訳知り顔。


「確かにディアル君、顔がアザだらけで素顔が全然わかりませんよ」


 ワイルド系一族によってたかって叩かれたときだ。


「あははは、ディアル君ってばイカしたアフロヘアだね」


 木の中に放り込まれたとき、消化液に触れて髪が縮れたのかもしれない。


「それに服もボロボロで、カカシみてぇだぜ?」


 これも(略)。


「これなら、実のお父様も、まさか息子だなんて思いませんわね~」


 最後にのほほんと締めるルージュ……。



「んなわけあるかァアアアアアアアア!!!!!」



 ディアルの爆発した感情が森を揺るがす。


「ウワーイ、オトウサンダイスキ。オトウサンダイスキ!」


 道の向こうから。父に寄り添い去りゆくニセディアルの、対照的に無機質な声がディアルの耳にも届いたとか届かなかったとか。 

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