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ディアル物語 ~ハンターから転職して魔物を守る番人になります~  作者: ユメ
第二章

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第6話

 ──俺はどうしてまだ、ここにいるのだろう。


 今日も北の番人の棲む森は、薄暗く、太陽の光を受け付けない。

 それでもわずかに届く木漏れ日を踏むようにしてディアルは歩く。

 魔物ハンターは閉業した。

 今更、魔物に刃を向けたとて、何になるというのだろう。

 そして、森の番人になることも拒否した。

 死ぬなんてごめんだい!

 昔、どっかの偉い人が言ったという……。


『人間には2種類いる……恋する人間と、恋のできない人間だ』


 ええい、恋のできない人間なんてイヤだい!



 そんなわけで。

 今、ディアルは、どーーーしようもなく中途半端な存在なのである。


「俺は……一体、どうしたら」


 木により掛かって、枝葉の隙間から見える光を仰ぐ──

 森がディアルの問いに答えてくれるはずもなく、ただ遠くから小鳥のさえずりや、枝葉の揺れる音が聞こえるだけだった。


「あーあ……」

「あら。こんなところで、どうしたの?」


 その時──唐突に聞こえた声に対し、ディアルは反射的に身構えた。

 元魔物ハンターとしての動き――ではない。女声である時点で、すでに警戒心は皆無。


「あ、あなたはァアアアアア!!!」


 無用に力んでしまうディアル。

 そこにいたのは、艶やかな黒髪を風にたなびかせた、色白の少女。

 そう!

 以前、マリオの家で出会った少女だったのだ!!

 いきなり流し目を使い始めるディアル。


「……君を待っていたのさ。ここにいれば、会えるんじゃないかって。これって運命だとは思わないかい? ディスティニーだよ」


 口にバラを咥え──ようかと思ったが、都合よく見つからなかったので、代わりに足元のたんぽぽを咥えてみる。

 苦い匂いが、ディアルの口に広がった。


「ふふっ、相変わらずですね」


 娘は小首を傾げながら笑った。

 も………………萌へぇえええええ!!!


「落ち込んでいたようですけど、何かあったんですか?」

「……過去の事さ」


 出来る限りのいい男の顔を作りながら、遠くを見つめ哀愁を漂わせる。


「そうだ。ディアルさんにいいもの見せてあげる」


 ぽん、と可愛く両手を合わせ、少女がふふふと笑みを浮かべた。


「俺に?」


 でれんと緩みそうな顔を必死に抑えているが、顔の筋肉がそろそろ引きつってきた。


「こっちこっち♪」


 少女の白く小さな手がディアルの腕を引っ張る。

 花も恥らうような愛らしい笑顔。

 落ち込むディアルを励まそうとする心。

 両方が今、ディアルに向けられている。


 恋して敗れて叩きのめされて、主人公としての輝きなどとっくの昔に失ったディアルにとって、少女の気遣いは心に染み渡るものがあった。

 ああ、いっそ何もかも忘れて、このままこの少女と森の中で暮らせたら。

 そんな想いがディアルの中に掠める。


「ディアルさん、こっちよ」


 するりと少女の腕がディアルから離れ、先へ先へと進んでゆく。

 森から出て明るくなった視界、だがディアルの視線は少女から離れず、足元なんてみていなかった。


「ほら、早く早く」


 くるくると踊るように先を行く少女。

 きゅ~~ん

 傷付いたディアルの心が感激に鳴いた。

 幸せは歩いてくるよ、目の前に!

 これを幸せと言わずなんという!

 美少女との夢のような戯れ、これこそ主人公の極み。


 さらば悲劇の主人公人生!!


「待ってぇ~~」


 目の前に光り輝く幸せな人生に向かってディアルは走り出した。

 二人手をとりあってどこかへ逃げよう。

 誰も知らない所へ行って、家を建てて、家族を作って、人生を全うしよう。

 夢を描きながらディアルは少女へ向かって走った。

 と、少女が足を止め、小悪魔のような笑みを浮かべた。


「ディアルさん」

「はぁい」


 自分の名を呼ぶ愛らしい声に、人生最大の喜びを噛みしめる。


「下を見て♪」

「えへ?」


 でれでれ顔のディアルは言われるままに下を見た。


 ない。

 大地が、ない。


「うっそーーーーーーーーーーーーーー!」


 少女の笑顔が遠ざかってゆく。

 絶叫を上げながらディアルが崖の下へと落ちゆく。

 これは絶対に悪夢、悪夢なんだ!

 醒めてくれ、夢なら、早く……今すぐに!



 ほーら、やっぱり夢だった。

 つーかこのパターンの夢、やけに多いよな……変なストレスが溜まってんのかなー。

 …………あれ?

 でも体が動かないぞ?

 もしかして、金縛りってヤツか!?

 ん?

 どこからか声が聞こえてくる……。

 マリオさんだ……あと、ルージュと…………ノワールと…………あと………………。

 次第に、声音がはっきりしてくる。


「足は筋肉から靭帯まで、全部損傷してます~」

「……今までで一番激しいですねぇ」


 緊張感などまるでない、麗らかな午後の一時に交わすような、マリオとルージュの声。

 間をおかず、今度は呆れるような声色で、


「背骨、肋骨、全部イカレちまってるぜ」


 と、このボーイッシュな喋りはノワールだ。


「んー、毎回こんなだと、彼女も疲れちゃいますからねー。ちょっとカルシウム濃度を高めて、丈夫な骨にしておきましょうか」

「……どれくらい?」

「そうですねぇ……恐竜に踏まれても無傷なくらい」


 ……何だか突拍子もない会話が飛び交っているような気がする。

 そして、その対象が自分であることも、薄々勘づき始めていた──

 さらにルージュが、独特な観点から意見を述べる。


「あの、せっかくですから、背中に翼なんかつけてみたらどうでしょう?」

「空飛べるようにすんのかよ」

「いえ。ニワトリさんの……きっと可愛いですわ」

「意味ねぇだろっ!」


 うううう……こんな時ですら、ギャグを欠かさない人たち……。


「まあ、せっかくですから、いろいろやってみましょうか」


 マリオが告げると、辺りが静かになった。

 あの……変なこと言われるのもイヤだけど、黙られるともっと怖いんですけど?



「ぅぎゃあああああああああっ!!!!」



 がばちょん、とディアルは起きあがった。寝汗かいてるっすよ。

 またいつもの如く、マリオ家のディアルに割り当てられた部屋だろう──と思いきや。

 違う──ひんやり冷たくて、見たこともない機器がディアルの周りを取り囲んでいる。

 なんかトラウマになりそうな、北の番人やDr. たちの姿が頭をよぎる。


「おや……思ったより……麻酔の効きが……弱かったですね……」

「ぅおわっ!」


 ディアルは声のした方を見て、思わず身を引いた。

 気配もなく、そこに立っていたのは、ルージュでもノワールでも、マリオでもなく──緑色のナース服に身を包んだ少女。

 顔はルージュやノワールにそっくりだが、照明が薄暗いためか、顔色が悪く見える。


 三つ子?

 だがディアルにとって、そんなことはどうでもよかった。


「ねぇ。こんな薄暗い部屋にいないで、僕と森林浴にでもいかないかい?」


 ディアルは慣れない投げキッスを飛ばす。が──少女の表情は変わらず、


「……あなたは……まだ……本調子じゃ……だから……まだ……動いちゃ…………ごふっ」

「……ていうか、君のが死にそうな感じがするんだが……」


 途切れ途切れになりながら喋る少女。

 ディアルは慌てふためいた拍子に、ベッドから転がり落ちてしまった。

 何ておバカなディアル……。

 しかも膝、擦りむいてるし。

 ところが──少女がディアルの膝に手を翳すと、たちまちのうちに傷が癒えてしまったのだ!


「……すごい!」


 惜しみない賞賛を送るディアル。


「これが……私……の……能力です……から」

「そんな力があるなら、まず自分を治せばいいのに」


 ディアルが言ってみるが、少女は首を横に振った。


「……自分には……使えないんです……それに……私は…………いいんです…………もうすぐ……寿命だから」

「……寿命!?」


 目の前の少女の口から発せられた言葉とは思えず、ディアルは鸚鵡返ししてしまった。

 そういえば、彼女の瞳には生気がない。


 まさかこれは──大事な大事なアタックチャンス!?

 ディアルの頭では、瞬時に展開していた。

 病弱の少女を励ます→少女が元気になる→少女が元気になった原動力──すなわち、ディアルを好きになる!!


「弱気になっちゃ、ダメだ! 俺がついている! 少しずつでいいから、頑張ろう!」


 他人のためだけに回復能力を使う、慈愛の少女!

 萌えるぜ!

 ディアルは少女の冷たい手をぎゅっ、と握った。


「いいんです……私は…………生まれ変わることが……できるから…………」


 燃え上がるディアルの一方で、当の少女は達観しきっている。

 まだまだ、頑張って説得するぞ!

 と思っている矢先。


「ヴェイル、ディアルさんの様子は──」


 部屋の扉が開いて、マリオが入ってきた。


「マリオさん! この娘を、助けてあげる方法はないんですか!?」

「……どうやら元気みたいですね」


 ディアルの剣幕を見て、マリオはそう結論づけた。


「その娘……ヴェイルは、もう生命力が著しく低下しているのです。残念ですが、医者の僕の力では、どうにもならないのです」


 無念っ! と言わんばかりの表情のマリオ。

 だがっ! マリオさんにできないことをやってこそ高得点ってもんだぜ!


「……彼女を助ける方法がないわけでもないのですが──」


 困り顔で言うマリオに、ディアルは思い切り飛びついた。


「それはどんな方法なんです!?」


 いやはや、今まで何の見返りもなく居候させてくれたマリオさんに、お礼がしたいんですっ!

 ディアルは意気込んで訊く。


「……森に棲む、魔女の話は聞いたことがありますね?」


 いきなり話題が飛んで、きょとんとするディアルだったが、ためらいながらも頷く。


「彼女の住処の近くにある、『生命の実』というアイテム……それがあれば、ヴェイルの弱った生命力を、回復させることができるでしょう──ですが」

「ああ、マリオさん! 皆まで言うな! よっしゃ、『生命の実』だなっ!!」


 ディアルはどげしっ、と部屋の扉を吹っ飛ばして、地下室から出て行った。




 やれやれ、とマリオが肩をすくめる。


「ですが、明日には『生命の実』が手に入る算段になっているのです」


 マリオはディアルの出ていった扉を見つめながら、そう言葉を続けた。

 ディアル、相変わらず人の言うことを最後まで聞かない奴である。

 それだけで、どれだけ人生を損していることか。


「……よろしい…………のですか…………?」


 蚊の泣くような声で、ヴェイルが訊いてくる。


「まあ、彼が取ってきてくれるというなら、いいんじゃないですか? あなたの体も、1日早く治ります」

「……です…………が…………」


 表情を曇らせるヴェイル。

 コンコン……

 と──上の玄関で、扉をノックする音が聞こえた。


「そうでした、今日はお客さんが来る予定だったんですよ」


 マリオは階段を上ろうとして、一度だけ振り返る。


「……少なくとも、明日になれば元に戻りますから。それまで、無理をしたらダメですよ」

「……はい」


 ヴェイルは初めて口許をほころばせた。

 それはディアルの入る余地のないほど、幸せそうな笑顔だったという……。




「よーし、頑張るぞー!」


 そんな経緯があったなどと夢にも思わないディアルくん。

 さっそく森へ特攻だ!


「ふっ、ついでに魔女とやらもやっつけてしまえば、もしかしたらルージュさんやノワールも俺になびくかもしれん!」


 暗い森の中、脳みそピンクのディアル。

 この森で数々の恐ろしい目に合ったと言うのに、まったく大物なのかアホなのか。

 と──急に森が開けた。

 ディアルは慌てて身を隠す。

 魔物ではない、明らかに人影──


「魔女か!?」


 無意識に、ディアルの拳が手に汗握る。

 が、そこにいたのは見知った顔──


「確か……イリア?」


 そう。

 森の中をゆらりゆらりと歩く女の横顔──

 それは紛れもなく、北の番人の家にいた人妻(萌)イリアだったのだ!!

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