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ディアル物語 ~ハンターから転職して魔物を守る番人になります~  作者: ユメ
第二章

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SIDE:魔女

魔女vsディアル

「ひぃーひっひっひっひっひっ! まぁ~てぇ~」


 甲高い笑い声を発しながら、ヤマンバがディアルを追いかける。


「これはなんだ。なんの悪夢なんなんだぁぁあ!!」


 ディアルは必死になって逃げていた。

 マリオ編その5で華麗なる活躍(?)をし、暴走したニールを倒し、東の番人として認められるほどの功績を残したはず。

 なのになぜ!


「痛くしないから、優しくしてあげるから!」


 叫びながら追ってくる魔女の手には、今まで幾人もの東の番人候補の血を吸ってきた特殊な剣。

 しかも追ってくる魔女の表情がまた。怖い。

 ディアルを殺せるのが嬉しくて嬉しくてしょうがない、そんな感じの表情なのだ。


「死んでたまるかぁぁぁあ!」

「死ぬのがお前の最初の仕事だぁぁああ!!」



 ドッゴォン♪



 巨大な火柱がディアルの背後であがる。


 もうしゃれになってねぇ。

 ディアルがもう1秒でも走るのが遅かったなら、確実にマジで本気で冗談ではなく死んでいただろう。


「血だ。血を見せろ。私にお前を殺させろぉっ!」

「いやだぁぁ」


 せっかくニールを、あの危ない人種を倒したっつーのになんだろうこの展開。

 負けず劣らずヤバイのが、ディアルを殺そうと追ってくる。

 しかも今回ばかりはティナも助けてくれなきゃピヨたんも助けてくれない。


「たーすーけーてぇ~」

「泣け、叫べ、お前にできるのはもはやそれだけだっ!」


 ニールの一件で世界記録達成級のスピードを獲得したのが幸いしたのか、魔女が長ったらしいスカートをはいているせいなのか、ある程度の距離は保たれている。


 もしスカートでかったら今頃ディアルはあの世逝き?

 相手は遠距離攻撃を使うわ、このストーカープレイに浸っているし、奇怪な笑い声はあげるしと、もう恐怖が具現化して追ってきているようなもんだ。


「なんでこんな展開になったんだよぉぉ!」


 ディアルの絶叫が森に響いた。





 確かニールを倒した後、放送禁止用語らしきものを口にしかけ、魔女からアッパーを喰らって気絶した。

 まぁそこまではいいとして。


 気付いたらマリオの家のベッド――ではなく、その場にそのまま放置されていた。

 遠くから聞こえる笑い声。

 鼻をくすぐる良い香り。

 痛むあごをさすりながら起き上がると、辺りは薄暗くなっていた。

 窓から漏れる光にふらふらと近付いていくと、家の中では魔女を4人の美男子と、1人の美女、ピヨたん、黒いラ・フィナ、ティナが囲んでいた。


「主人公だよな、俺?」


 自らの哀れな境遇を悲観しながら、マリオの暖かさを思い出し、思わず涙ぐんでしまったのもしょうがないというものだ。

 あの家の娘達はそっけないところがあるものの、ちゃんとベッドに寝かせてくれたし、暖かな料理もご馳走してくれた。

 しかも起きれば体力が全回復という真心サービス付き。


「あの家が恋しい」

「なら帰ればよいじゃないかえ」

「!」


 突然横から聞こえた声にそちらを見ると、いつの間にやら魔女が仁王立ちしていた。


「番人になりに来たんじゃなかったのかねぇ? あんな凶暴な女を私の結界内に入れるだけじゃ飽き足りず、私に暴言吐くわ、掴みかかろうとするわ……」

「アンタが焚きつけたんだろうが!」

「おや、いいのかい、またそんな暴言を私に吐いて?」


 にやりと笑ったその目の奥に、冷たい殺意が光るのを肌で察知したディアル。

 土下座したり美形の生贄さしだしたりすれば許してもらえるかも。

 でもそんなの主人公のする事じゃない!


「すみませんでしたぁぁ!」


 ……ディアルは防衛本能で、魔女に対して土下座の謝罪をした。


「ふんっ、まぁいいだろう、中にお入り、番人になる準備をしよう」

「あっ……認めてもらえるんですか!?」

「見習いだけどね。でもまぁ一応全ての番人に挨拶は終ったからね、第一段階は終わり。第二段階に移らないとねぇ」


 そういって魔女はディアルを屋敷へ通し、地下へ案内するよう、ワイルド系に命じた。


(ああああああああああ)


 ディアルの中で希望が輝く。

 耐え抜いてきた酷い仕打ち、過酷な運命。

 全ては東の番人になるため!

 見習いとはいえ、やっと番人になれる!!

 番人になれたらもしかしたらルージュも見直してくれるかも。

 ご褒美に美味しい夕食と、もしかしたらもしかしたらほっぺにちゅーとか!!!!!


(ぐへへへへへへ)


 番人=モテモテの想像図を勝手に作り上げたディアルの脳に、見た事のないルージュの優しげな微笑みが浮かび上がる。


「もう、ティナちゃんったら♪」


 ビビッ!

 ディアルの美女センサーに一人の美女がかかった。

 応接間から聞こえた声に思わず引き返し、部屋の中を覗く。

 街にでは見かけた事の無い、ひらひらというかふわふわというか、まるで人形が着ているような服装をした女性が、ティナと楽しそうに会話している。


「わぁい」


 今がどんな状況かも綺麗さっぱり忘れ、ディアルはそのファンシーな女性に瞬時に近付いた。


「お嬢さん、ぜひ僕と――」


 かつて無い素早さで手を握り、目を輝かせて目を見つめる。

 ティナの呆れたような視線にも気付かない。

 その時。


 ッシュ


「!」


 咄嗟に顔を後ろへ逸らす。

 タン、と乾いた音を立て、短剣が反対側の壁に突き刺さった。

 恐る恐る短剣の飛んできた方角に顔を向ける。


「離れろ」


 地獄から這い上がってきたような声と、全身に殺気をまとった男が大剣を抜いてこちらへ近付いてくる。


「イリアから離れろぉぉぉ!!!!」

「ひぃぃぃぃ」


 反射的に手を離し、大きく後ろへ飛びずさる。


「ガス♪」


 パッと花のような笑顔を浮かべ、イリアと呼ばれた女性が男に抱きついた。


「イリア、大丈夫だったか?」

「ええ、ガスが助けてくれたもの」

「あんな汚い男に触らせてはいけないよ」

「ごめんなさい」

「謝る事など無い、イリアに何も悪い事なんてないのだから、悪いのは全て――」


 ぎろん

 イリアを胸に抱きしめた男がディアルを睨みつける。


「あの汚い男だ!」

「汚い汚い連発すんなよっ!」

「人の妻に手を出そうとして、汚い男を汚いと言って何が悪い!」

「つ、つまぁぁぁああ!」


 主人公として何度目の失恋&衝撃だろうか。

 好きになった相手は幽霊だったり、御主人様♪がいたり……挙句に今度は人妻!?


「何やってんだい!」

「ひぃ!」


 後ろから飛んできた怒声に思わず飛び上がる。


「ちんたらしてんじゃないよ、私が暇だとでも思ってんのかい!」

「す、すみません」

「ガイ、イリア、すまなかったね。危ないから暫く屋敷の中にいるんだよ」

「はい」


 ディアルに向けた怒声とは裏腹の、優しい声色でそういうと、「さっさと歩きな!」と言ってディアルの背中を蹴り上げた。




 そして――


「あの……」

「今度はなんだい?」

「これは一体……」


 目の前には乾いた血のこびりついた祭壇。

 祭壇を中心に、床には大規模な魔法陣。


「何って、儀式の間」

「ぼやぼやしないで、さっさと祭壇にあがりなさい、むしろあがれ」


 にっこりと、輝くような笑顔で白衣の男がディアルの肩を叩いた。

 おろしたてなのか、白衣は真っ白で全く穢れがない――


「あの」

「ん?」

「そこに赤い斑点があるんですが」

「ああこれか、さっき女を一人……いや、お前には関係ない」


 『さっき』『女』『一人』この単語が当てはまるのは一人だけ。


(ニールか、ニールなのか??)


 なんかニールにしたのだろうか?


(でも確か俺が倒したんだよな? でも死んでなかったのか?? わからん)

「さぁさっさと祭壇にあがれや」


 口調の変わってきた白衣の男が、ディアルの首根っこを捕まえ、祭壇の前に無理矢理立たせた。


「今回はどれにしようかな~♪」


 部屋の隅で魔女が何かを選んでいる。

 周りを見ると、この地下の部屋にはディアルと白衣の男と魔女とティナしかいない。


 さらに。


 魔女の居る壁際には、斧や短剣、長剣、大剣、首狩り鎌、なた包丁、のこぎりなどなど恐ろしい道具がずらりと。

 なんか嫌な予感。


「あの、俺は今からどうなるので?」

「いいから、さぁ寝ろ」


 ぐいぐいと無理矢理祭壇に押し付けられ、無理矢理祭壇に横にさせられた。


「あの……」


 不安で言葉が紡げなくなってきた。


「お前は今から死ぬんだよ」


 初めて聞くような清々しい魔女の声。

 横を向くとなた包丁を片手にもった魔女が。


「ひぇ? なんで? だって俺、番人見習いになれるんじゃ!?」

「だからこれからなるんだよ」

「なんで死?」

「南も西も幽霊だよ、その意味に気付かなかったのかえ?」

「きっとバカなんですよ」


 すっぱりと言い放った白衣の男は、ディアルの真横でメスを研いでいる。


「メスは何にお使いに?」

「あん? 幽霊に身体はいらないだろ? お前が死んだ後、身体を解剖すんだよ」



「いやだぁぁあああああああああああああああああ」



 魔女が出遅れるほどのスピードで祭壇から飛び降りると、驚くティナを置いてけぼりにして猛ダッシュでその場から逃げ出した。


「死んでたまるかよ!」


 だいたい番人=幽霊なんて聞いてない。

 ティナも教えてくれないなんて薄情極まりないではないか!


「くそっ、騙された」


 舌打をしながら玄関から外に飛び出た。


「待ちなさい!」


 凛とした声に振り向くと、そこに白衣の男が追いかけてきていた。


「お前が逃げてどうするんだ! あの娘はお前ほど解剖しがいねぇんだよ!」


 ハチャメチャな事をいう男の後ろから、まるで化け物のように魔女がぬぅっと現れた。


「Dr.おどき、私が狩る」

「あまり傷つけないでくださいよ、解剖する意味がなくなります」

「安心しな、五体バラバラにしてでも捕まえるけど、その場合は全部直してからアンタに手渡してやるから」

「それならいいですけど」


 何かを納得しながらDr.サディストが魔女に道を譲った。


「さぁ、潔く番人になりな!」

「きゅきゅぅ!(そうですよ!)」

「ティナの薄情もん!」

「(僕は言ったはずですよ? 『幽霊になったら告白すれば良い』って)」

「何話向こうの話だよっ!」


 涙目になりながら後ずさる。

 どうやらディアルが殺され、幽霊になることについてティナは了承しているらしい。


(俺の意思はどこいった!)


 どん


「?」


 何かに当たって後ろをふりむくと、そこにいたのは何やらワイルドなお兄さん。


「た、たすけ……」


 頼りになりそうなお兄さんに助けを求めようとしたが――


「ワイルド系、そいつはお前の母さん・イリアを襲った男だよ!」

「何ぃぃぃぃぃ!!!」

「ひぃいぃぃ!!」


 目の色を変えたワイルド系に、ディアルは一も二もなく走り出した。


「待ちやがれぇ!!!」

「待ちませーーーーん!」




 と、つまりそんな感じ。

 それからずっとディアルは走っていた。


(誰か、誰か助けてくれ)


 ティナはディアルが番人になる事を望んでいる。

 それはつまりディアルの死を望んでいるという事。


(確かに、ティナの母ちゃんが『番人になれば永遠の命を得る』とか言ってたけど、それがつまりこういう意味なんて分かるかよっ!)


 生きて死ぬまで番人をする決意はあった。

 だが死んで幽霊になって番人になるとは聞いていない。


(俺は生きて恋をしたいんだ。ルージュさんとかノワールさんみたいな美女と!)


 ぴーん

 その時ディアルに神の啓示のごとく、現在の状況から逃げる方法が思い浮かんだ。


(――村人にあそこまで頼られている人だ、きっと助けてくれるに違いない!)


 天使のように優しくて親切なマリオぐらいしか、もはやディアルを助けてくれる者はいない。

 迷惑とかそういった単語は吹っ飛んでいる。


(行こう、マリオさんの家に!)



「逃がすかぁああああああああああああああ」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ」



 まるでディアルの思考を読んだかのように、魔女が木の上から降って沸いてきた。

 喉が裂けるほどの絶叫をあげながら、ディアルは今日一番のスピードを出して魔女から逃げ出した。

 もし今夜眠る事ができたのなら、きっと悪夢を見るに違いない。

 恐ろしいほどのスピードで走ったお陰か、マリオの家は案外簡単に辿り着いた。


「マリオさん、マリオさん、助けてくださぁぁぁぁい」


 どんどんと扉を叩くと、すぐに扉が開き、ルージュが顔を出した。


「お願い、助けて!」

「関わりたくありません」


 ぴしゃりと言い放ったルージュに、ディアルが悲鳴をあげようとした時、後ろから天の助けが現れた。


「入れてやんな、マリオの命令だ」

「………………」


 ノワールの通達に、一瞬ルージュがものすっごい嫌そうな顔をした。

 だがマリオの命令には逆らえないのだろう、渋々扉を広く開き、ディアルを中にいれてくれた。


「た、助かった~」


 家の中に入った途端、ディアルはへにゃへにゃ~っと座り込んでしまった。


「……」


 無言で家の外に出ると、ノワールは遠くに向かって片手を振った。

 そこにいるのは当然魔女で――


「仕方がないねぇ」


 心底がっかりしてため息をつくと、ノワールに向かって片手を振り返した。


「久々に番人の儀式ができると思ったのにぃ~」


 肩を落としながら渋々屋敷へと帰っていった。


「外には誰もいなかった。何から逃げてきたんだ?」

「お、恐ろしい魔物から」

「そうか」


 それだけ言うとノワールはルージュに合図した。




「ううう、生きているよぉ」


 ふかふかのベッドに横になっても、ディアルの震えは止まらなかった。

 生きている喜びと、昼間の恐怖が重なり、今夜は眠れないかも――


「ぐー」


 そんな心配は必要なかったようだ。



 そしてディアルはまたマリオの家に逆戻りしたのであった♪

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